「キュウリ禁止」「女人禁制」福岡最大級の祭り・博多祇園山笠にまつわるタブーを調査 - BLOGOS編集部
※この記事は2019年07月02日にBLOGOSで公開されたものです
福岡の夏を代表する祭りといえば「博多祇園山笠(はかたぎおんやまかさ)」。毎年7月1日~15日に福岡市の"博多部"と呼ばれる地域を中心に行われる奉納神事で、国の重要無形民俗文化財に登録されている。最終日に行われる「追い山笠」では、「舁き山(かきやま)」と呼ばれる1トン以上もの重さがある神輿のようなものを担いで走る男達の白熱したレースを見ようと国内外から多くの観客が訪れる。お笑い芸人の博多華丸が毎年参加していることでも有名だが、山笠に参加する男達は祭り期間中、キュウリを食べることや女性との性行為が禁止されていることをご存知だろうか。
山笠にまつわる3つのタブー
770余年もの歴史を誇る博多祇園山笠には3つのタブーが存在する。1つ目は「キュウリ断ち」。舁き手(かきて)となる男達は祭り期間中にキュウリを食べることが禁止されている。
祭り期間中は博多区の小学校給食や、飲食店のサラダにもキュウリを使用しないことが多いそう。
2つ目は「女人断ち(にょにんだち)」で、山笠行事の開始となる「お汐井取り(おしおいとり」で身を清めた男達は、山笠の奉納が済む15日までは女性との交わりを避けなければならない。
もともと山笠が女人禁制の祭りであったことから、そのタブーが現代にも引き継がれている。かつては舁き手達の作業場には「不浄の者(喪中の人と女性)立ち入るべからず」と書かれた立て札が立てられており、女性は作業場に入ることすらできなかった。しかし、「女性を蔑視している」と抗議の声が上がったため、立て札は全て排除されることとなった。
現在では手伝いで女性も作業場に立ち入ることがあるが、山に触れたり 「直会(なおらい)」と呼ばれる舁き手達の会食でお酌をしたりすることはないという。
3つ目は山笠の山に飾る人形にまつわるタブーで、ヘビや武田信玄を装飾に起用した年に怪我人が出たり事故が起きたりしたことから、今でも使用が避けられている。
7月1日から、福岡市内各所で「飾り山」が公開されている
また、祭り期間中の集客数が日本一*とも言われる山笠では、観客のマナーの悪さがしばしば問題となっている。 ごみのポイ捨てや、カメラマンの場所取り、また、「締め込み」と呼ばれるふんどしを履いた子どもの姿を撮影・悪用する行為が目立っているという。数年前には「子ども山笠」に参加した女児の締め込み姿を盗撮した福岡県の男性職員が懲戒処分を受けたこともある。
50年以上山笠を見てきた博多祇園山笠振興会・広報の正木研次さんに、若者の山笠離れや、観客のマナーについて聞いた。
*参照:http://facts.city.fukuoka.lg.jp/data/yamakasa/
博多っ子以外も山笠に参加する時代に
祭り期間中は、この長法被(ながはっぴ)が正装とされている
山笠は0歳から参加することが可能で、小学生になったら子ども山笠に入り、中学生から親の手を離れて参加するようになります。高校の部活が忙しくなったり、進学や就職で地元を離れたりしたために参加できなくなる人はもちろんいます。
それでも山笠のために有給休暇をまとめて取って帰省する人もいらっしゃいます。
ただ、郊外の土地が便利になったことで、博多部に住む人が減ってきています。若者の「山笠離れ」というよりも年間を通じて山笠を守っていける人が少なくなってきているのが現状です。
ーー祭り期間中は「直会」と呼ばれる会食がほぼ毎日あり、大変だそうですね
祭り期間中もそうですが、準備期間の6月も2日に1回は直会があります。遠くに移り住んだ人や、サラリーマンとして働く人は参加が厳しくなったために脱落していく人もいます。
そればっかりは仕方がないことなので、今は博多部出身に限らず外から来る人も受け付けるようになりました。
ーー博多っ子以外も参加できるのでしょうか
山笠に出ている人からの紹介で、信頼できると判断すれば出ることができます。なので、山笠離れもそんなに気にしてはいません。
ーー数年前に問題になっていた締め込み姿の撮影マナーについて、対策はされていますか
子ども山笠は一切撮影禁止にしています。係りの子ども達が注意事項を書いたプラカードを持って歩くなどの対策をしています。 大人の山笠ではそこまで言えないので、規制はしていません。
ーー子ども山笠は女の子も参加できるそうですが、何歳まで参加できるのでしょうか。また、参加は多いですか
小学校3年生までは女の子の参加を許可しています。男女比で言うと8:2ぐらいだと思います。盗撮被害を懸念して山笠に出させない親も増えましたね。
ーー盗撮以外で、見物客のマナーで気になることはありますか
外国人観光客に多いのですが、山や走っている舁き手に触れてくることがあります。
特に、山笠が走っている時は1トンもの山を担いで、スピードもかなり出ているので車と同じように危険です。舁き手も、舁くことに集中していて見物客に気が付かないことがあるので、怪我をしないように離れて見て欲しいです。
また、舁き山が走る時に「勢水(きおいみず)」という水をかけるのですが、これは山の下に付いている胴金を冷やしたり、舁き手の地下足袋を濡らしたり滑らないようにするためです。 見物客も参加することができるのですが、山に近寄ったり、顔にかけたりしないようにしていただきたいです。
あとは、山が来たら拍手で迎えていただければ、舁き手のやる気につながります。
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かつての厳しい神事としてのタブーや決まりごとは時代とともに緩和し、今では博多っ子以外の参加や女性の一部参加も認められるようになった。参加者が多様化し、2016年にはユネスコ無形文化遺産に登録されたことで観客は年々増えているという。
博多祇園山笠を共に盛り上げ、楽しむために必要な最大のタブーは「マナー違反」なのかもしれない。
【取材:中田凌子】