違法薬物で逮捕 出演作品の自粛は不要なのか? - 赤木智弘
※この記事は2019年03月18日にBLOGOSで公開されたものです
3月12日、ミュージシャンや俳優など、幅広いジャンルで活躍(*1)しているピエール瀧容疑者が、麻薬取締法の容疑で逮捕された。(*2)逮捕をしたのが警察ではなく厚生労働省麻薬取締部ということなので、アクシデント的に違法薬物の使用が発見されたのではなく、十分な内偵調査の上で発覚したということ。また、本人も使用を認めているということで、容疑者段階ではあるが、ほぼ容疑内容は間違いがないと見ていい。
さて、僕がこのニュースを知ったのは、夜中にブラタモリを見ていたら、字幕に緊急速報。そこに「ピエール瀧容疑者 逮捕」という文字列が表示された時だ。(*3)
「ピエール瀧容疑者 逮捕」という文字列は、電気グルーヴのPVでネタに使われるしか考えられなかったので、見た瞬間に笑ってしまった。そして「ぼくが今見ているこの番組は、ブラタモリに見せかけた、電気の特番かなにかだったかな?」と思ってしまった。
流れ的に、次は「ピエール瀧容疑者 脱走」という速報が入って、横縞の囚人服を着て、足に大きな鉄球を括り付けたピエール瀧がタモリさんの前に登場。もしくは「ピエール瀧容疑者 保釈」という速報が入り、ピエール瀧がバレバレの作業着姿で天井にはしごを載せたワンボックスカーに乗り込むという一連の流れのネタかなにかと思いたかったのだが、残念ながらネタではなかった。
その後、寝て起きてニュースを見たら、真面目な顔でピエール瀧容疑者のことが語られており、今に至るまで「ピエール瀧って、そんな真面目な顔でなんか話す対象だっけ? ちょっと笑いながら話す対象だったよね」と、今に至るも世間のピエール瀧感の急激な変化に対応できずにいる。
僕は電気グルーヴの熱心なファンというわけでもないけど、VOXXXまではCDも買ってたし、世代的にも確実に電気の影響を受けて育った世代なので、他の芸能人やミュージシャンが薬物で逮捕されたときに比べれば、圧倒的にその衝撃は強い。
そしてなにより、いろんなしがらみから自由であるように見えたピエール瀧という存在が、薬物に頼らずにはいられなかったのだという事実が見えてしまったことが、何よりもキツイ。
さて、ピエール瀧容疑者逮捕によって、業界ではピエール瀧関連商品を自粛する動きが出てきた。
電気グルーヴのCDの回収に配信停止(*4)。またピエール瀧容疑者が出演するゲームソフトの出荷およびDL販売の中止(*5)。そしてこれから出演する予定だったドラマや映画からのシーン削除など、マルチに活躍してきたピエール瀧容疑者をメディアから削除する動きが加速している。
ネットではこれに対して「過剰な対応をするな」「作品には罪はない」という、過剰な対応を疑問視する声が大きくなっている。
だが、こうした排除は本当に必要のない、過剰な対応であろうか?
作品に罪はないからと、ピエール瀧容疑者が出演したり関連した作品を自粛する必要がないかと言えば、そうは思わない。永久に封印する必要はないが、一時的な自粛は必要であると考える。
少なくとも「犯罪を犯すことで、誰かに利益が発生すること」は極力避ける必要があるだろう。
電気グルーヴや、ピエール瀧容疑者自身の俳優活動は現役バリバリなのでその必要はないが、昔の一発屋のグッズなどが在庫として捌けない場合に、メーカーがその当事者に違法薬物を摂取するように根回しし、逮捕されたところでダブついた在庫を金に変えるようなことをやりかねないという懸念が僕にはある。
実際、今回の逮捕により、中古ショップでなかなか動かなかった電気グルーヴの過去のCD在庫が活発に動いているというニュースもある。
また、過剰な対応だと批判する中には、ピエール瀧容疑者が犯した罪を軽く見ているような人も散見される。
具体例を出すまでもなく、これまでにも多くの大物ミュージシャンが薬物使用により逮捕されたり死亡したりしていることから、薬物使用に対する罪の意識が麻痺してしまっている人も少なくないのだろう。
他にも、ピエール瀧容疑者は長期にわたるコカインの常習者ではあったと考えられるものの、それは個人的な使用にとどまり、生活が破綻しない程度のものであったと考えられる。
知らない人はつい「違法薬物=おかしな行動をする」と考えがちだが、実際に多くの違法薬物依存者は、表面上は普通の生活者であるように見えるのである。
生活も破綻せず、暴行や詐欺のように明確な被害者が居ないように見えることから、彼は犯罪者ではなく、むしろ違法薬物業者に食い物にされた被害者であると、つい同情的に考えがちである。
しかし、薬物を買っていたということは、結局は「違法薬物業者の商売を成り立たせ存続させることで、他の誰かを薬物に巻き込んだ」という意味で、彼もまた罪のある加害者の一人なのである。
その加害は「他の違法薬物常習者や、その周囲の人たちに対する加害」であると言うことができる。
ピエール瀧容疑者が謝罪をするべき誰かがいるとすれば、それは世間や仕事仲間ではなく、他の違法薬物常習者や、依存に苦しむ人達、そして、彼らの周囲の人たちである。
最後に。 薬物依存で今現在苦しんでいる方や、周囲に薬物依存者がいる方へ。
相談できる場所があり、悩みを受け止めてくれる人たちがいるので、決して孤立しないで欲しい。(*6)
少しでも解決に向けて前に進むことができますように。
*1:「ピエール瀧って何やってる人?」と親に聞かれたときの模範解答がネットで話題に(AOL ニュース)https://news.aol.jp/2014/12/03/pierretaki/
*2:ピエール瀧容疑者を逮捕 コカイン使用認める(FNN.jpプライムオンライン)https://www.fnn.jp/posts/00414001CX
*3:ピエール瀧容疑者だと……?(赤木智弘 Twitter)https://twitter.com/T_akagi/status/1105484407211614208
*4:電気グルーヴ、CDや映像商品が出荷停止&在庫回収に デジタル配信も停止(ねとらぼ)https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1903/13/news129.html
*5:セガ、ピエール瀧容疑者逮捕を受けてPS4『ジャッジアイズ』の製品出荷およびDL販売自粛を発表(ファミ通.com)https://www.famitsu.com/news/201903/13173160.html
*6:薬物問題の相談先(特定非営利活動法人アスク)https://www.ask.or.jp/article/ 薬物乱用・依存/薬物乱用・依存を知ろう/薬物問題の相談先