※この記事は2019年03月10日にBLOGOSで公開されたものです

兵庫県警は、クリックすると消そうとしても消えないアラートが表示されるスクリプトが書かれたURLをインターネットの掲示板に書き込んだとして、13歳の女子中学生を補導し、同じURLを書き込んだ39歳と47歳の男の自宅を捜索したという。(*1)

今回はあまりに理不尽な話であり、被害者には同情するばかりである。

もちろん、被害者とは補導された13歳の少女の他、39歳と47歳の男性のことである。

そもそもこの事件のどこに本当の「被害者」とやらがいるのだろうか?

あまりにバカバカしくて笑いも出ない。

一部のメディアはこのスクリプトを「ブラクラ」と呼んでいるようだが、これはブラクラではない。

ブラクラというのは同じ動作を繰り返させて操作不能にしたり、CPUやメモリを過剰に浪費させたりバグを利用してパソコンをフリーズさせようとするウェブページのことを指すのである。

一方で、今回問題となったURLに記述されていたものが何かと言えば「無限アラート」とでも呼ぶべきものである。

該当ページにアクセスすると「何度閉じても無駄ですよ~」などの文字とAAの書かれたアラートが最前面に表示される。そしてアラートを消すボタンを押しても、再びアラートが表示されるというスクリプトである。(*2)

このスクリプトは最初にアラートを表示し、それを消したときに再度アラートを表示することを繰り返す。

CPUへの負荷はアラートを表示させる瞬間にしかかからず、また現在の一般的なブラウザでは、そのアラートが表示されているウィンドウさえ閉じれば、ブラウザを再起動する必要すらない。

また、このスクリプトは製作者(今回、補導されたりした人たちとは別人)の発言(*3)から2014年頃に作成されたスクリプトであることがハッキリしており、2014年当時のブラウザ環境を考えれば現在と大きく変わらず、その制作の最初からブラクラとしての意図はなく、単なるジョークとして作成されたものであると断言できる。

故に、作成者の意図として、それが誰かに深刻な被害を生み出す可能性があったと認識していたとは思えないのである。

では、今回補導されたり、書類送検される人たち、つまりこのスクリプトにリンクを貼った人たちはどうか。彼らはどのような思いでそのリンクを張ったのだろうか。それはただのちょっとしたいたずらである。

仮に僕がそのリンクを張ったとしても、まさかこの程度のリンクで何らかの被害を負う人がいるとは一切考えられないだろう。 そして実際のところ、このリンクによって何かしらの被害が出たという事実は一切見当たらないのである。

具体的な被害もないのに、ただ警察がこれを取り締まったということだけが存在している。その理由はなんだろうか?

2月1日から3月18日までの期間が「サイバーセキュリティ月間(*4)」であり、何らかの実績を立てる必要が兵庫県警の側にあったのではないか。

また、他には「兵庫県警のお偉いさんの子供かなにかがアラートにひっかかり、解除できなかったから逆ギレで捜査を命じたのではないか」などという逆ギレ説も考えられる。

どちらもずいぶん無理やりな推論ではあるが、そうでも考えない限り、この程度のどうでもいい話を事件化するとはとても考えられないのである。

そしてこのどうでもいいことの事件化がネットに与える悪影響は極めて甚大である。

まず、リンクを張っただけで警察に踏み込まれかねないという事実は、インターネットの最大の特徴であるハイパーリンクを抑圧する。

また、過去に張ったハイパーリンクなどについても、リンクを貼った当時は問題のない内容であっても、その先、リンク先の内容が変更されてしまえば、警察権力が入り込む可能性を産んでしまう。

またそれはスクリプトやプログラムを提供する側にとっても脅威である。「意図しない動作」によって警察が踏み込むということは、プログラムに対して一切のバグが許されないということである。

今回の件は、日本の警察という暴力装置による、自由なプログラム界に対する挑発行為である。

今回の事件に対して「みんなで逮捕されようプロジェクト(*5)」として、警察の介入のおかしさを訴える人たちが現れたが、このような運動は世界のプログラマーたちにすばやく拡散されている。

自分たちのアプリケーションやプログラムやスクリプトを紹介してくれた人が、遠い日本であったとしても、今回のような案件で逮捕されかねないという事実は、世界のプログラマーたちに影響を与えるのだろうか。

今回の件は、有り体に言って「警察権力の暴走」と言う他ない。

現在、政治の場ではダウンロード規制法が話し合われているが、警察がこのような暴走を見せている状態でこうした法が産まれてしまえば、大惨事に至ることは必然である。

最低でも、今回の兵庫県警の暴走は批判されなければ、日本の未来を守ることはできないだろう。

いくらバカバカしくても、そのバカバカしいやり口が至るであろう結果を考えれば、苦笑いでは済まされないのである。

*1:不正プログラム書き込み疑い補導(NHK)https://www3.nhk.or.jp/lnews/kobe/20190304/2020003239.html
*2:「何回閉じても無駄ですよ~」ブラクラURLを掲示板に貼っただけで補導、「やり過ぎ」と物議(ITmedia NEWS)https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1903/05/news080.html
*3:https://twitter.com/0_Infinity_
*4:サイバーセキュリティ月間[みんなでしっかりサイバーセキュリティ] (内閣サイバーセキュリティセンター)https://www.nisc.go.jp/security-site/month/index.html
*5:「みんなで逮捕されようプロジェクト」がネット上で拡散中~サイバー犯罪対策課は「自分の子どもにもそんなことが言えるのか」と反発(NETIB-NEWS)https://www.data-max.co.jp/article/28329