豪州戦では途中出場から好プレーを見せた上田。ベトナム戦で起用されれば、今度こそ目に見える結果を残したい。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

写真拡大 (全2枚)

「今回の最終予選は親善試合が全然できなかったので、できればもっと多くの選手にピッチに立ってもらって、チームの底上げをしながら試合に向かって行きたかった。次はそれをやって、ワールドカップ(W杯)の準備をしていきたいと思います」

 3月24日のオーストラリア(豪州)戦を2−0で勝利し、8か月後に迫ったカタールW杯本大会の切符を手にした日本代表。森保一監督が今後に向けてこう語った通り、29日の最終予選ラストマッチ・ベトナム戦からは新たなステージに突入する。最終登録23人を賭けたサバイバルが本格化するからだ。

 これまでは、30代の長友佑都(FC東京)、吉田麻也(サンプドリア)、大迫勇也(神戸)、酒井宏樹(浦和)らW杯経験者を軸に戦ってきた日本代表だが、今後は彼らも安泰とは言い切れない。

 長友の左サイドバック(SB)であれば、中山雄太(ズウォーレ)が存在感を高めているし、吉田のセンターバック(CB)には負傷中の冨安健洋(アーセナル)や豪州相手に的確なカバーリングを見せた板倉滉(シャルケ)が控えている。

 右SBには今回招集されていない橋岡大樹(STVV)や菅原由勢(AZ)という欧州組がいるし、FWも上田綺世(鹿島)、林大地(STVV)、今回不参加となった前田大然(セルティック)が虎視眈々と定位置をうかがっている。「気づいてみれば、本番は東京五輪世代がズラリと並んでいた」といった事態も起こり得るのだ。

 そこで気になるのが、次戦のベトナム戦。森保監督がどのような面々を起用するか非常に興味深いところだ。
 
 今回は遠藤航(シュツットガルト)と板倉がすでにチームを離脱。ここまで出ずっぱりだった伊東純也(ヘンク)や南野拓実(リバプール)も控えに回ると見られる。指揮官が予選6連勝の原動力となった4−3−3の布陣を引き続き採用するのか、それとも4−2−3−1、3−4−3など別の布陣をトライするのか未知数だが、最終予選で実績の少ないメンバー構成でベトナムと対峙することになりそうだ。

 まず注目されるのが最前線。ここは上田のスタメンが有力視される。豪州戦では63分から途中出場。今季の鹿島で見せているような鋭く素早いモーションからシュートを放つなど、ゴール前の迫力と凄みを感じさせた。

 大迫のように前線でタメを作る仕事は得意としていないが、彼を生かす術を見出し、前線のバリエーションを広げることができれば、チームにとってもプラスになる。

「後半25分のシュートは枠に入らなかったけど、ああいうのを決めないといけないし、本数や動き出しの回数も増やしていかなければいけない。ベトナム戦では『俺はこういう選手なんだ』というのを表現できるように、結果にこだわっていきたい」と本人も意欲を新たにしていた。東京五輪で負傷明けの自分自身をごぼう抜きして定位置を勝ち取った林が後ろに控えているだけに、上田には目に見える結果がより強く求められる。

【PHOTO】三笘、久保、上田らスタメン入りに向けてアピール!トレーニングを続ける日本代表!
 
 4−3−3の継続を前提とすると、右サイドは久保建英(マジョルカ)、左サイドは三笘薫(ユニオンSG)という組み合わせが濃厚。2人ともドリブルで敵を打開できる強みがあり、久保に至ってはリスタートという武器を備えている。

 伊東のような爆発的スピードで縦に抜け出す動きは少なくなるだろうが、両サイドからの仕掛けがチームにどんな効果をもたらすかは1つの見どころ。特に右は今回落選の堂安律(PSV)やベルギーで活躍中のレフティ坂元達裕(オーステンデ)ら再浮上を狙う実力差がいる。久保は生き残りの厳しさをひしひしと受け止めて、試合に挑むべきだ。

 中盤は総入れ替えとなるなら、アンカーに柴崎岳(レガネス)、インサイドハーフに原口元気(ウニオン・ベルリン)と旗手怜央(セルティック)という顔ぶれになりそう。旗手が超えるべきなのは、すべてを知り尽くす川崎の元同僚・守田英正(サンタ・クララ)と田中碧(デュッセルドルフ)ということになる。

「守田選手だったり、田中選手と比べるのであれば、僕自身は攻撃的選手なので、ゴールだったりアシストという部分を求めていかないといけない。でも人と比べることなく、自分の特長を出しながらやることが一番」と彼はあくまで自らに矢印を向けていく構えだ。

 確かに川崎でも、東京五輪代表でもそのスタンスを貫いたからこそ、出番を得られた。原口らも鼻息を荒くしているため、生き残りへの道は険しいが、まずはA代表デビュー戦で爪痕を残すことに集中してもらいたい。
 
 守備陣のほうは、東京五輪世代が出るとしたら左SBの中山。ただ、板倉の離脱、左SB要員の佐々木翔(広島)の存在を踏まえると、今回はCB起用もあり得るかもしれない。吉田とのCBコンビは過去にあまりないが、本人は目下、ズウォーレで3バックの真ん中に入っていて、むしろそのほうが本来のプレーを出しやすそうだ。今後、起こり得る緊急事態を想定しても、これは一度テストしておいたほうがいい。ベトナム相手なら、中山自身も余裕を持って入れる。今回はぜひチャレンジすべきだ。

 もう1人はGKの谷晃生(湘南)。ただ、豪州戦でベンチ外だったことを考えると、今回はシュミット・ダニエル(STVV)の先発確率が高い。今季の谷は昨季ほど安定感あるパフォーマンスを見せられていないのも、森保監督にとって引っかかる部分のようだ。ただ、ここからクラブで巻き返せれば、8か月後は分からない。まずは信頼を勝ち取るべく、日々を大事にするべきだ。

 このような分析を踏まえると、ベトナム戦は最大5〜6人の東京五輪世代がスタメン出場しそうな雲行き。その比率をどんどん引き上げていけるか否かは、次戦の動向にかかっている。森保監督のメンバー固定傾向を大きく変えるためにも、彼らが限られたチャンスで強烈なインパクトを残すことが重要。若手に目を配りながら、ベトナム戦を見極めたい。

取材・文●元川悦子(フリーライター)