事業の立て直しに向けた改革が始まる(写真はイメージ)

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首都圏の私鉄である西武鉄道を中核とする西武ホールディングス(HD)は、傘下のプリンスホテルが保有するホテルやスキー場、ゴルフ場など31物件をシンガポール政府系投資ファンドGICに売却すると決めた。

プリンスホテルが国内に持つ物件数の約4割に当たり、売却額は1500億円程度となる。新型コロナウイルス禍で鉄道やホテルは軒並み収益力が悪化しているが、今回の売却は次を見据えた一手でもある。

ホテルへの投資で豊富な実績を有するGICへの売却

2022年2月10日付の西武HDの発表によると、東京タワーの近くにそびえる主力ホテルの「ザ・プリンスパークタワー東京」や東京・池袋にある「サンシャインシティプリンスホテル」、バブル経済期のウインターレジャーの代名詞だった「苗場プリンスホテル」「苗場スキー場」などが含まれている。GICは日本も含めて世界で数多くのホテルに投資してきた実績を有している。資産の譲渡は2022年9月に予定されている。

「プリンスホテル」と名乗っているのには、それなりの理由がある。

GHQの占領政策の一環として1947年に実施された皇籍離脱の後、生活に困窮した旧宮家から西武グループが土地を買い取り、ホテルを開業したことに由来する。いずれも今回の売却対象に含まれていないが、「軽井沢プリンスホテル」は旧朝香宮家の別荘跡であり、「グランドプリンスホテル高輪」は旧竹田宮家の邸宅跡だ。

以来、「プリンス」のブランドを冠して、ホテルだけではなく、ゴルフ場やスキー場などのリゾート開発を全国に拡大していった。グループ総帥の堤義明氏は日本オリンピック委員会(JOC)の会長まで務めて、1998年の長野オリンピックを実現させた。

だが、2004年に発覚した西武鉄道の総会屋利益供与事件と、有価証券報告書虚偽記載事件を機に、義明氏は失脚。西武グループは銀行主導で再編され、ホテル・レジャー事業は西武HD傘下の事業会社プリンスホテルに集約された。

星野リゾートも「運営」と「所有」分離の枠組み構築

今回、西武HDが31物件の売却に踏み切るのは、コロナ禍を機に実施する経営改革の一環だ。当座の現金を手に入れるだけではなく、資産を圧縮して経営効率を高める狙いがある。

なぜなら、売却後も施設の運営は西武HDの傘下企業がGICから請け負うことになり、「プリンスホテル」のブランドやサービスの提供を続けるからだ。西武HDに残るホテルやレジャー施設についても、運営と資産所有を傘下の別会社で担うことにする。

こうした「運営」と「所有」の分離は、宿泊業界で主流になりつつある。

たとえば、いち早く運営会社を目指す姿勢を表明した星野リゾートは、観光に特化した不動産投資信託「星野リゾート・リート」を上場させ、運営と所有を分離するための枠組みを構築している。リスクの分散や運営ノウハウの蓄積にメリットがあるとされる。

西武HDは筆頭株主だった米投資ファンドのサーベラス・グループが2017年に全株式を売却し、ようやく経営の自由度が高まった。2019年に本社を埼玉県所沢市から東京・池袋に移し、攻めの姿勢に転じようとしていた矢先に降ってわいたのがコロナ禍だった。

コロナ後の旅行・レジャー需要の復活を見据えながら、事業の立て直しに向けた改革は始まったばかりだ。(ジャーナリスト 済田経夫)