食事会の最中「2人で抜けちゃう?」と誘われた!しかしイイ雰囲気を期待する女に対し、男は…
人間は「生まれながらに平等」である。
これは近代社会における、人権の根本的な考え方だ。
だが一方で”親ガチャ”が話題になっているように、人間は親や生まれる場所、育つ環境を選べない。
事実、親の年収が高いほど、子どもの学力が高いこともデータ(※)によって証明済みだ。
私たちは生きていくうえで、多くの「生まれながらに不平等」な場面に遭遇してしまう。
中流家庭出身の損保OL・若林楓(27)も、東京の婚活市場で、不平等さを数多く実感することに…。
▶前回:「付き合いたいけど結婚はできない」と告白してきた33歳男。その理由を尋ねてみたら…
― しばらく婚活のことなんて忘れて、純粋に恋愛を楽しみたい。
そう思い始めた頃。たまたま顔を出した食事会で、素敵な男性に出会ってしまったのだ。
彼の名は、瑛士さん。年齢は35歳だと言うが、鍛えていることがハッキリとわかるような綺麗な体つきをしていた。
さらに見た目は、高身長で切れ長の目。最近流行りの“アジア系スター”のような雰囲気と出で立ちだ。
外資系の投資銀行に勤務しているというスペックも申し分なくて、食事会のときから私の心は掴まれっぱなしだった。
さりげなく食事も取り分けてくれて、さっとドアを開けてくれるスマートさ。帰国子女だという彼の魅力に、私はすっかり夢中になった。
だが、瑛士さんに出会って気づいてしまったのだ。
私の平凡すぎる一生の中で “海外”という重要な要素が欠けていること。そして、そのせいで手が届かない恋があるということに…。
頑張って英語を習ってみたけれど…。結局は何かが違う、一般人の悲哀
帰国子女の男
食事会の日。1軒目を終えてお店の外へ出ると、タクシーが既に2台ほど手配され、私たちを待ち構えていた。
合計6人で飲んでいた私たちは4人と2人に分かれて乗ることになり、ラッキーなことに私は瑛士さんと2人きりで乗れることになったのだ。
「瑛士さんって、どうしてそんなに気が利くんですか?」
男性陣は皆同じ外資系投資銀行勤めだったが、その中でも圧倒的に瑛士さんは気配り上手だった。
グラスが空けばささっとシャンパンを注いでくれ、出てきた料理は全部サーブしてくれる。お会計も、気づけば女性陣の見えないところで既に終わっていた。
それでいて、全く嫌味がない。
「そんなことないよ。普通でしょ?」
言い方はぶっきらぼうだけど、その奥には優しさが滲み出ている。
「いえ、こんなに自然にできる男性って、少ないと思います!」
「そうかな?楓ちゃんって、いい子だね〜」
軽くあしらわれたのかとも思ったが、ニコニコと私を見ながら笑ってくれている。その笑顔に、私も思わず微笑み返す。
すると、急に男らしい目つきで見つめられた。
「この後、本当に行く?」
「え…?」
「2軒目。このまま2人で抜けちゃう?」
瑛士さんの距離が、一気に近くなる。想像以上の甘い言葉。頭の中で何が正解か考えてみるけれど、答えは見つからない。
「私はもちろんいいんですが…」
「はは。冗談だよ。このまま2人で抜けたら何か言われそうだし、とりあえず顔だけ出そうか」
完全に、彼のペースに飲まれてしまった。
その後ちゃんと2軒目へ行ったのに、なんと瑛士さんは1人で早めに帰宅してしまったのだ。
「帰っちゃったのかぁ。残念」
そう嘆いていると、携帯に1通のLINEが入った。
Eiji:今日はありがとう!また飲もう。
まだ皆がいる中で、私だけに届いたLINE。それが嬉しくて、私はすぐに返信を打つ。
楓:もちろんです!
Eiji:いつがいい?来週金曜日は?
来週の金曜日は、何か予定があったはず。でも、このチャンスを逃すわけにはいかない。やるべきことは、決まっている。
楓:わかりました!楽しみにしています♡
どこか強引で、自由。そんな彼に、気がつけばすっかりハマっている自分がいた。
帰国子女の色男にハマったものの…。彼の女になれない理由とは?
海外センスのない女
瑛士さんが予約してくれていたのは、ウェスティンホテル東京の最上階にある『鉄板焼 恵比寿』だった。
「ここ、来たことあった?」
「いえ、初めてです♡」
今日は黒のタートルネックに、白のAラインスカート。カバンは最近みんなが持っている、某ブランドのミニバッグ…と、鉄板のデートスタイルで来た。
「とりあえず何飲む?シャンパン?」
「はい、お願いします」
目の前に座る彼は、今日もかっこいい。だがドキドキしている時間は、長くは続かなかった。
「楓ちゃん、何か食べたいものある?お任せでもいいかな」
「はい、お任せします♡」
「楓ちゃん。僕に遠慮しなくていいからね?好きにしてね」
「いえ、遠慮なんて…」
こういうときは主張しすぎない方がいいと思っているけれど、本当に何でもよかった。でもデートが進むにつれて「私のこういう性格がダメなんだ」と、気がついてしまったのだ。
綺麗な夜景を見ながら、私としてはもう少し瑛士さんの“コアな部分”に触れたかった。さっきから笑顔ではいてくれるものの、どこか話が適当に流れているような気もしたからだ。
「瑛士さんって、どんな女性が好きなんですか?」
「僕?優しい子かなぁ」
「優しい子…。なんだかザックリしてますね」
「そうかな。楓ちゃんは?」
華麗に流された気がする。だから私は、諦めずに食いついた。
「私じゃなくて、瑛士さんの好きなタイプが知りたいです!」
「う〜ん…。個性が埋没してなくて、自分の意思がある子かな。父親の駐在で、海外生活が長かったからさ。ハッキリ物を言う女の子が周りに多かったんだよね。
あとは海外経験があって、英語も喋れる子だと嬉しいかも」
一気に、目の前でシャッターを下ろされた気がした。
私はずっと日本で生きてきた。埼玉で生まれ育ち、大学も東京だ。留学したこともなければ、海外に住んだこともない。
受験英語はできるかもしれないけれど、実際には話せない。典型的な日本人英語だ。
「英語くらい話せるようにならないと」と思い、何度かスクールへ通ったり、コロナ禍でオンライン英会話を始めたりもしたけれど、どれも続かなかった。
私の人生に、決定的に欠けているものの1つ。それは“海外”という要素だった。
「これまでお付き合いしてきた人も、帰国子女の人が多かったんですか?」
「そう言われれば、そうかもね。普段も同じ会社とか、業種の人と遊ぶことが多くて。そこで知り合った人と付き合ってきたからさ」
そのとき私は、何となく悟ってしまった。
帰国子女ならではのコミュニティーと、彼らにしかわからない感覚。
その輪の中に部外者…。つまり、留学も海外在住経験もない人たちは入れなさそうだ、ということを。
彼らの醸し出す雰囲気は独特だし、きっとよそ者にはわからないカルチャーをネタに盛り上がることだってあるだろう。
それは一生相容れないものであり、うっかり足を踏み入れてしまったら、永遠に“英語コンプレックス”がついて回ることになりそうだ。
そう思いながら、改めて自分の外見を見つめ直す。
雑誌に載っているコーディネートを、そのまま完コピしたような服装。街を歩けばよく目にする、似たようなメイクに髪型…。
瑛士さんからすると、私は“東京にいる普通の女の子”の1人でしかないのだろう。
― 私は一生、個性アリの部類には入れないんだろうなあ。
帰国子女の人が放つ独特の雰囲気やオーラ、そして色気が羨ましくてたまらない。
私の父は普通のサラリーマンで、海外勤務など一切なかった。
そんな両親に育てられたことと、一度も「留学へ行こう」なんて考えなかった過去の自分を少々恨みつつ、彼らの幼少期の経験に嫉妬してしまうのだった。
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散々回り道したけれど…。“普通”の女が選んだ幸せは?