2022年1月7日のジャパンプレミアムで正式に発表された新型ステップワゴン(写真:本田技研工業)

ホンダの5ナンバーミニバンである「ステップワゴン」が、2022年1月7日フルモデルチェンジを発表し、6代目に生まれ変わるが、発売は春ということである。前型は2015年に登場したので、7年を経てのフルモデルチェンジとなる。


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ステップワゴンの競合となるトヨタ「ノア/ヴォクシー」や日産「セレナ」も、2015年前後にフルモデルチェンジを行っており、まさに真っ向勝負の戦いがその3車で続けられてきたことになる。

そうした状況のなか、前型ステップワゴンはやや苦戦気味だった印象がある。一般社団法人日本自動車販売協会連合会の統計による乗用車ブランド通称名別順位で、ステップワゴンは、ヴォクシーやセレナの後塵を拝してきた。モデルチェンジ時期に多少の前後があったとしても、ほぼ同様の期間で販売されてきたにもかかわらず、なぜ、ステップワゴンは苦戦してきたのか。

5ナンバーミニバンの歴史を作ったステップワゴン


1996年5月に投入された初代ステップワゴン(写真:本田技研工業)

改めてミニバンの興りを振り返れば、1990年代半ばに5ナンバーミニバンとして先陣を切ったのはステップワゴンだった。その圧倒的な人気によって、トヨタも日産も、それまでのキャブオーバー型ワンボックス車をミニバンに切り替えるまで後手を踏んだ。それがいつの間にか、販売動向が逆転したのである。

あまりに人気の高い車種は、その後のモデルチェンジで迷いを生じる場合が多い。既存の販売台数を維持しようとすれば、大きな変更をしにくくなる。一方で、外観のみならず使い勝手を含め、新たな価値を創造していかなければ、やがて飽きられ、苦戦を強いられることになりかねない。そのさじ加減が人気車種にとってモデルチェンジを難しくする。

では、前型ステップワゴンに課題があったとすれば、どこだったのだろう。


2015年4月に発売された先代にあたる5代目ステップワゴン(写真:本田技研工業)

前型ステップワゴンが発売されたとき、試乗して印象深かったのは、壮快な運転感覚をもたらしたことだ。端的にいえば、操縦安定性が高く運転の楽しい5ナンバーミニバンだった。家族のためのクルマと思われがちな実用性重視の5ナンバーミニバンで、これほど運転を楽しませることができるのかと驚いたほどだ。


先代ステップワゴンで目玉だったのが「わくわくゲート」と呼ばれる、新機構のリアゲートだ(写真:本田技研工業)

また、荷物の出し入れや自転車の積み込みなど、車内への物の出し入れを頻繁に行うミニバンとして、後ろのハッチゲートを一般的な跳ね上げ式だけでなく、ヒンジドアのように開けられるようにした「わくわくゲート」が斬新だった。通常、ハッチゲートを使う際は、駐車したクルマの後ろにゲートを跳ね上げるための空間が必要で、そのためには駐車枠いっぱいには止めず、荷物の出し入れをした後、再び後ろの駐車枠ギリギリまで後退させる二度手間を生じる。わくわくゲートは、その面倒を省く手助けになったはずだ。

しかし、ヒンジドア機構を追加したことでゲート自体の重量が増え、跳ね上げて開けようとすると、男の私でも力をこめなければならないほどだった。ここは賛否のわかれるところだろうと思った記憶がある。実際、操作が重いとの意見が顧客からあったようだ。

ハイブリッドの時代に乗り遅れた先代ステップワゴン

もうひとつの理由として、ノアは2014年のモデルチェンジ当初からハイブリッド車(HV)を設定した。ステップワゴンは、それから1年遅れて新型導入したにもかかわらず、ガソリンエンジン車しか選択肢がなかった。当時、欧州ではじまったダウンサイジングターボの考えがあり、ホンダは燃費向上策としてそちらを選んだといえる。HVが追加導入されたのは、2年後の2017年になってからだ。

HV導入については格上の「オデッセイ」も同様に遅く、車種追加したのは2016年になってからだった。また壮快な運転感覚を求め、3代目オデッセイはミニバンでありながら車両の全高を下げ、珍しさから人気を得たが、ミニバンの意義を失わせることにもなり、次の4代目からは販売の低迷につながったといえる。


早くからハイブリッド車を設定し、優位に立ったノア/ヴィクシー。写真は現行モデルのノア(写真:トヨタ自動車)

5ナンバーミニバンで従来は感じられなかった商品性への新たな挑戦のあった前型だが、一方で、世の中の消費者が本当にそこを求めていたかどうかの確認が十分ではなかったのではないか。対するノア/ヴォクシーは、HVの選択肢があるだけでなく、運転のしやすさや爽快さを持ち合わせながら、親しみや安心を覚えさせる商品性が目立った。


ステップワゴンの競合であり、ノア/ヴォクシー同様に販売好調の日産「セレナ」(写真:日産自動車)

セレナは、女性の目線で使い勝手を確認しながら開発が行われ、Sハイブリッドと呼ぶマイルドHVを選択肢に持っていた。さらに2017年には、シリーズ式ハイブリッドのe-POWERを搭載することで爆発的な販売となった。ほかにも、プロパイロットと呼ぶ運転支援機能をセレナから投入し、これによって3列目に座っても車酔いしにくい走行を可能にした。

競合2車の好調は、HVをひとつの記号とした日本の環境意識と、運転者だけでなく同乗者を含めた移動の快さを求め、家族のためのミニバンという立ち位置を崩していないことにあるのではないか。

エアーとスパーダという2グレード構成の狙い


力強い存在感」と伸びやかなシルエット、品格ある佇まいが印象的な新型スパーダ(撮影:尾形文繁)

そこを重視したのが、新型ステップワゴンといえそうだ。

事前に開かれた説明会では、新型の開発で求めた全体像と造形や使い勝手の進化が中心となり、動力性能などには触れられなかった。そして、新型の開発陣も、前型は5ナンバーミニバンとしての基本価値の追求が十分でなかったのではないかと振り返った。そのうえで、5ナンバーミニバンの価値を、素敵な暮らしのパートナーと位置づける開発を行ったという。


コンセプトである“素敵な暮らし”を見ただけで伝わるデザインを目指し、安心と自由にこだわったエアーのエクステリアデザイン(撮影:尾形文繁)

新型の目新しさは、これまで標準車の位置づけだった車種に「エアー(AIR)」というグレードを与え、標準車+派生車種スパーダという従来の関係ではなく、「エアー」と「スパーダ」を対等な関係の位置づけとし、趣旨を明確にわけた選択肢に改めたことだ。エアーとは、まさしく空気のことであり、普段は意識しなくても空気のように不可欠で、かつ暮らしに溶け込んだ存在であることを目指す意味があるという。

脱二酸化炭素が日々語られ、持続可能な開発目標(SDGs)があらゆる面で意識される今日、清浄な空気(エアー)という価値は、まさに暮らしを安らかにするミニバンの尊さを表しているといえるのではないか。


直線的で縦長なテールランプは、ステップワゴンらしさが表れている(撮影:尾形文繁)

エアーの外観は、ひと目見たときから心の奥深くに浸透し、馴染む姿だ。外観を見ただけで暮らしに安らぎと豊かさが溢れそうな思いにさせてくれる。同時に、その全体像は初代から2代目へかけて、爆発的人気を得た初期のステップワゴンの姿を思い起こさせる。なかでもテールランプの造形は、ステップワゴンの象徴的な個性だ。

世界的に簡素な造形のなかに豊かさを表現する傾向があり、エアーはその流れに沿った造形であるのはもちろんだが、美しさと親しみやすさに安心を加え、人に寄り添う姿が上手に表現されている。


新型ステップワゴンのダッシュボードまわり(撮影:尾形文繁)

室内は、小型ハッチバック車の「フィット」からホンダが力を注ぐ前方視界のよさが活かされ、視界が広い。平面的なダッシュボードの造形も、運転しやすさからくる安心をもたらすホンダ車としての統一がある。

座席はゆったりとした寸法とともに、座り心地がしなやかで、かつ体をしっかり支える構造が採り入れられ、これもフィットからホンダが展開する座席づくりが活かされている。2列目は、座席にシートベルトが装備され、座席位置を調整しても的確に体を拘束することで、快適さを損なわず安全を確保している。ベルト内蔵式の座席は欧州で当たり前の考え方であり、家族のための5ナンバーミニバンとして安心をもたらす重要な要素だ。

その2列目は、座席脇のレバー操作だけで前後左右の位置を調節することができる新機構が採用された。


わくわくゲートを廃止し、跳ね上げ式となったリアゲート(撮影:尾形文繁)

3列目を床下へ収納できる機構は継承された一方、リアゲートをヒンジドアとしても開閉できる、わくわくゲートは廃止された。やはり跳ね上げでの重さが課題だったのだろう。しかし、私の知人はわくわくゲートのためにあえて前型を直前に購入したとも語っている。

キャラクターによってわけられたカラーリング


メッキグリルを採用したスパーダのフロントセクション(撮影:尾形文繁)

外装色は、エアーには明るめの色が用意され、フィヨルドミストパールとシーグラスブルーパールが専用色だ。それら淡い色がエアーの外観をより引き立たせている。スパーダは、暗めの色が豊富で、トワイライトミストブラックパールとミッドナイトブルービームマテリアルが専用色だ。メッキグリルを持つスパーダを、落ち着いた暗めの色が際立たせる。

内装色は、エアーにはグレー系とブラック系の2色があり、スパーダはブラックの一色だがファブリックと合成皮革を組み合わせることにより上級さを覚えさせる。


広々とした2列目シート(撮影:尾形文繁)

いずれの座席も、背面には後席に座った子供が足をぶつけたりしても汚れを拭いやすい樹脂で保護されており、座席自体も撥水加工などが施され、清潔を保ちやすくなっている。

軽自動車を含め、標準車に対するカスタムといったきつい印象のグリルが好まれる傾向があるが、新型ステップワゴンは、より自然で上質な快さを求める消費者が、単に廉価だったり普遍的だったりというだけでないそれ以上の価値を実感できるエアーを設定した。これにより、新たな5ナンバーミニバンの世界を切り拓いたといえるのではないか。

もちろん好みはさまざまだ。そのなかで、エアーかスパーダかという選択肢がステップワゴンの購買意欲を幅広く高めそうであり、人気を取り返す気配を感じさせた。