明治。青山学院。立教。中央。法政。そして、学習院。

通称、「GMARCH(ジーマーチ)」。

学生の上位15%しか入ることのできない難関校であるはずが、国立や早慶の影に隠れて”微妙”な評価をされてしまいがちだ。

特に女性は、就活では”並”、婚活では”高学歴”とされ、その振れ幅に悩まされることも…。

そんなGMARCHな女たちの、微妙な立ち位置。

等身大の葛藤に、あなたもきっと共感するはず。

▶前回:青学女子はオシャレで裕福なお嬢様ばかり。彼女たちに憧れる女が手を出した“あるアプリ”とは?




File3. 菜々子、立教大学。やっぱり慶應の男子は最高!


― やっぱり慶應生の彼氏は、流行に敏感でお金持ちだし最高だわ!

表参道にあるカフェ『Nicolai Bergmann NOMU』でデート中の菜々子は、上機嫌だった。

彼氏の直人は、普通部から慶應に通っている経済学部の3年生。

彼の目の前で美味しいケーキを食べ、店内に飾られた美しい花を眺める。そのとき、菜々子は3歳上の仲良しの姉に、言われた“ある言葉”を思い出す。

「付き合うなら同レベルの男じゃダメ。自分を引き上げてくれるような、レベルの高い男の人と付き合うのよ」

その言葉の通り、早稲田大学に進学していた姉は東大の彼氏と付き合っていて、とても幸せそうだった。

それはつまり…立教大学に入った菜々子に置き換えて考えるとこうなるはずだ。

― お姉ちゃんに教えてもらったことを大事にしないと。私なら、G+MARCHと同レベルの男子なんて選んじゃダメ。付き合うなら早慶じゃないと!

そんな姉の教えを守るべく、入学後のコンパで慶應男子の直人と付き合うことになった。菜々子は、直人一色の生活に突入している。

「ホント、自分を引き上げてくれるような慶應生の彼氏を作ってよかったわ」

美しい花に囲まれたカフェで、直人を前にした菜々子は優越感に浸っていた。

しかし、上機嫌な菜々子とは対照的に、先ほどから向かいに座っている直人の顔色があまりよくない。

「どうしたの?」

と聞いてみた菜々子に、直人は思いがけない言葉を発したのだった。


ハイスペ男子とのお付き合いで優越感に浸る菜々子。そこに直人から衝撃の一言が…


すべてを直人に合わせていたのに


「菜々子、ごめん。実は俺、好きな子ができたんだ。今は正直、その子と付き合いたいと思っている。こんな気持ちで菜々子と一緒に過ごすことはできない。申し訳ないけど、俺と別れてほしい」

まさに青天の霹靂とも言える、直人からの別れの告白だった。どんなに忙しくても、週に1度はデートを重ねていた2人。

菜々子は一生懸命、直人に尽くしていた。お互いの友人にも紹介し、交際は順調だと菜々子は信じて疑うことはなかったのだ。

― なぜ…?突然、何を言い出すの?

まったく納得できない菜々子は、直人に詰め寄る。

「えっ…。突然、どうして?好きな子って、どこで知り合った子なの?私の何がダメなの?」

そう問い詰める菜々子に対して直人が返した言葉は、彼女を失意の底に突き落とすものだった。

「慶應の学部の同級生。授業で一緒になって話すようになってから、気がついたら好きになっていた。

すごく頭もいいしサークルや郊外活動も、色んなことを頑張っている子なんだ。周りがどうこうじゃなくて、自分がどうしたいかをきちんと持っているというか…」

― 何それ…。私がまるで、何にも頑張っていない、努力していないとでも言いたいの!?

直人と付き合ってからというもの、菜々子はずっと自分のことよりも直人を優先してきた。

スケジュール、デート、ファッション、趣味、彼との会話…。これらすべてを、全部“直人色”にしてきた。

自分よりも直人を優先、彼に好かれようと一生懸命。菜々子は、直人に染まろうとしていたのだった。

にもかかわらずこの言われようは、とても納得できるものではない。

とはいえ、直人の言うことに反論しても、どうにかなるものではない。自分の気持ちはともかく「別れる」という直人の言葉を、黙って受け入れてしまう菜々子だった。



彼氏との別れが菜々子に与えたショックは大きかった。1週間経ったが、誰にも別れ話を報告することができないでいる。

入学当初の「付き合うなら早慶と!」と考えていた菜々子であれば、気持ちを切り替えてすぐに次の彼氏を見つけるべく合コンに勤しんだことだろう。

しかし、直人と月日を重ねた今となっては違う。

大好きな直人との別れのダメージが大きすぎて、菜々子は次の恋愛など考えられなくなってしまっていた。






さらに1ヶ月後。菜々子は、未だに失恋から立ち直れないでいた。

『Nicolai Bergmann NOMU』で別れたあの日から、直人とは一切連絡を取っていない。

フラれたのは自分だし、今さら直人に連絡をとったところで鬱陶しいと思われることがわかりきっていたからだ。

楽しかった直人との思い出と同じくらい、菜々子の頭から離れないこと…。

「すごく頭もいいしサークルや郊外活動も、色んなことを頑張っている子なんだ」

それは、直人が新恋人のことを褒めちぎった、この言葉だった。

― 直人の新しい恋人って、一体どんな子なのかしら…。見てみたい…。

行き場のない気持ちを抱えた菜々子は、スマホで直人のSNSを起点に、色々なサイトのチェックを始めた。

そして…ついに菜々子は、あるサイトを発見してしまうのだった。


元彼のSNSをたどり…菜々子が見つけてしまったものとは?


私はこんな子に負けたの?


菜々子がスマホで発見したのは、直人の新恋人と思われる人物が所属するサークルのサイトだった。

直人との共通点や彼が発した数少ない情報をもとに検索して、やっとの思いで見つけ出したのだが…。

― えっ…。もしかして、この子なの?

直人から「好きな子ができた」と言われたとき、菜々子が想像していたのは“華やかな美人でいかにも慶應ガールの女の子”だった。

しかし、そこに写っている女の子は、華やかさや洒落っ気もゼロ。その姿を見て、菜々子は思わず拍子抜けしてしまったのだ。

― 何なのよ、こんな地味な女!私の方が絶対にかわいいのに!直人の新しい彼女がすごい美人だったら、私だって諦めがついたのに…!

悔しくてたまらない菜々子は、反射的にこう思ってしまったのだ。




怒りが収まらない菜々子は、スマホでの検索の手を止められなくなっていた。

直人が好きになったであろう子の名前を特定し、Googleや色々なSNSで検索していく。別に彼女に連絡を取りたいわけでもないし、もちろん嫌がらせをしたいわけでもない。

ただ、こうして彼女のことを調べ尽くして、自分とは何が違うのか、自分の何がダメだったのかを見つけないと、菜々子はもはや納得できないのだった。

そうして検索して次に見つけたのは、彼女が所属している学部のゼミのサイトだった。

どうやら彼女はゼミ長を務めているようで、大学院生に交じって学会の論文作成にも参加しているようだ。学部生の論文と違い、修士課程の論文には高度な知識と情報収集、そして分析能力が必要だ。

そんな高度な論文作成に学部生の彼女が参加しているだけで、どれだけの努力をしているかは容易に想像ができた。

そして次に見つけたのは、彼女が一員となって参加している、ある団体が開催する英語キャンペーンのサイトだった。

英語が堪能な学生が委員会となって集まり、プログラムの企画作りから自分たちで行う。全国各地の中学校を訪問して、参加生徒たちに色々な英語プログラムを教えるのだという。

そして、ここでも彼女は、副代表を務めていた。サイトには、中学生たちに接する彼女の姿が、イキイキと写っていた。

こうして彼女に関する情報を検索していくうちに、菜々子はふと直人に言われたことを思い出した。

「周りがどうこうじゃなくて、自分がどうしたいかをきちんと持っている」

― あぁ、もしかして直人は、本当はこういう子が好きだったのかな…。

直人と付き合っていた時の菜々子は、生活のすべてを直人に合わせて生きていた。

しかし、直人が好きなのは、直人に合わせてくれる従順な子ではなく、自分を持って生きていく子だったのだろう。

検索の手は、いつの間にか止まっていた。

菜々子は、なぜ直人が自分を振って新しい彼女のもとにいったか、初めて理解できた気がしたのだ。

おそらく今までの菜々子は「外見ばかり取り繕い、付き合う男子とのバランスばかりを気にして、内面をまったく磨くことがない」そんな女の子だったのだろう。

― 何だか、同性の私から見ても、この子の方が魅力的かもしれないわ…。

素直にそう思ってしまった菜々子は、今までのように「周りを気にして、周りに合わせてばかり」の自分から脱却して、自分の内面をきちんと成長させないといけないと思うのだった。

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「MARCHと呼ばないで」プライド高い中央法学部女子に、初めて彼氏ができるが…