仕事好きこそ注意。 産業医が指摘する過労死のリスク、気をつけるべきポイントは

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「健康経営」や「ワークライフバランス」などの言葉が普及しつつある昨今、どんなビジネスパーソンでも心身ともに健康な状態で働くことが理想だと思うことでしょう。

一時期話題になったブラック企業が超過勤務を従業員に強いているケースなども、2019年の働き方改革以降は産業医面談制度などの整備もあり徐々に減っています。一方で、有名企業の社員の過労死など、センセーショナルな事件は一定数発生しています。

そんな中で、産業医の大室正志氏は「本人に自覚がない状態」であっても過労死のリスクがあるケースの存在に注目しています。

仕事に「熱中できる」からこそ、心身に忍び寄るリスク

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ヒトは疲労が溜まると休息を求めるのが自然です。しかし脳の発達によって、体は疲労しているのに、脳が休息のサインを出さなくなる状況があると大室氏は述べています。大室氏自身もドラクエに熱中しているケースなどを例に挙げ、脳は疲れを感じていないからこそ徹夜でゲームをしたといいます。

このように、ヒトは「やりがい」、「達成感」、「喜び」などを感じると前頭葉が免疫細胞からの疲労伝達物質をマスクしてしまうそうです。こうなると、本来脳が出すはずである「休憩しろ」というサインが出なくなるのです。

筆者自身、かつてはクライアントへの大事な提案の前は平気で数日は徹夜状態で働いたこともあります。「疲れている」という自覚はなく、むしろいつも以上に研ぎ澄まされた気がして「アドレナリンが出ている!」などと茶化していました。しかし、移動中の電車で寝過ごす、お腹いっぱい食事が食べられない、など身体からのサインは確実にあったことを思い出します。

身体だけでなく、メンタルに不調を来たすのも現代人の特徴でしょう。筆者がマネジメントをしていた組織でもメンタルを病んだメンバーが数名いました。そのメンバーたちに共通していたのは「仕事熱心」という点と、不調を「気のせいと思う(思い込もうとする)」という点でした。

仕事にのめり込む性格がゆえに、自らが納得できるまで積極的に残業をして仕事をする。周囲が心配していても「自分は大丈夫」という返答が返ってくる。そしてある日突然会社に来れなくなる、などの具体症状が発症するのです。「まさか自分が」という過信が裏切られたショックもあってか、あるメンバーは通常勤務で職場復帰するまでに数年の時間を要しました。

ヒトならではのセルフケアを

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ヒトは進化の過程で前頭葉を肥大化させ夢中になると疲れを感じないように進化しました。これは文化文明の発展に大きく寄与しましたが、皮肉にもその副作用として過労死や心の病を生んでしまいました。因みに動物に過労死はないそうです。

ただ、人間も本来は動物であることに変わりはありません。度を越して頑張りすぎたときは、心も体も休息の必要があるのです。発達した脳を使い「気のせいだ」とごまかすだけでなく、素直に心身が発するアラームに耳を傾けるべきでしょう。目の前のちょっとした頑張りや無理がたたって、数ヶ月〜数年も大好きな仕事から離れる事態を招いてしまうのは、仕事熱心な人であればもっとも避けたい事態のはずですから。

むしろ脳が発達しているヒトだからこそ、「今は疲れていない」という短期な視点に立つのではなく「最終的に幸せな状態で働くために」という長期の視点に立つことを忘れたくないものです。