「前置詞をイメージで理解し使い倒す」のが英語なのです(写真:CORA/PIXTA)

英語を学ぶビジネスパーソンの間でも苦手意識が大きい「前置詞」。しかしこれこそ「イメージ」で理解すれば、こんなに英語らしく話せるようになるものはありません。前置詞=定訳ひとつ、からの脱却のすすめ。『それわ英語ぢゃないだらふ』から抜粋・再構成してお届けします。

参考:日本人は「英語は語順こそ超重要」をわかってない(11月6日配信)

前置詞の意味は、日本語訳を超えて大きく広がる

単語の中には極端に大きな意味の広がりをもつものがあります。その 代表格は前置詞。前置詞のもつ広大な意味の広がりを見れば、日本語訳で何とかしようとは思わなくなるはずです。

前置詞の中でもっとも豊かな意味の広がりをもつ単語のひとつ、on をご紹介しましょう。「~の上」という定訳ではこの単語のもつ豊かな 表現力のごくごく一部しか得ることはできません。例えば、街角にありふれた、次の on の中に「~の上」で理解できるものはありません。


(出所)『それは英語じゃないだらふ」(幻冬舎、以下同)

(外部配信先では写真や図を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

これらの on が何を意味しているのかを理解するためにはまず、on の意味が広がっていくプロセスを知る必要があります。


on の基本となるイメージは「~の上に」。「上に」という日本語ではなく、上図の位置関係として考えます。日本語訳は広がることはありませんが、位置関係は自由な「解釈」を許しさまざまな意味を生み出すからです。

まずは、基本イメージそのものの使い方を見ていくことにしましょう。基本イメージはそれ自体、日本語訳「~の上」 よりもはるかに豊穣な使い方を生み出します。

onの基本イメージは“ステージ上”


a. Coffee is ready on the table.
コーヒーはテーブルの上に準備ができています。
b. He visited London on business.
彼は、仕事でロンドンに行きました。
c. He is on vacation / leave at the moment.
現在彼は休暇中です。
d. He passed the exam on his first try.
彼は最初のチャレンジで合格しました。
e. He has appeared on TV.
彼はテレビに出たことがあります。

a は「~の上に」、定訳通りの文ですが、日本語訳がまるで異なる b ~ e にも同じ意識が流れています。時間幅をもった期間・活動がある種の 「ステージ」と見なされているのです。

bはロンドン行きがbusiness という活動のステージ上行われたということですし、c は vacation(休暇)、 leave(育児休暇、介護休暇など、特別な事情で認められた休暇)のステージ上にいるということ。

d は最初のトライというステージで、e はテレビというステージに、といった具合にです。みなさんがよくご存じのon Sunday、on the 10th of October、on Christmas Eveなど、「日 の on」にも、ネイティブスピーカーの多くは同様のステージを連想しています。時刻のように「点」ではなく、ある時間幅をもった場所にいる感触がステージの on を呼び込んでいるのです。

(2) We play tennis on Sundays.
私たちは日曜日にテニスをします。

「ステージ」に慣れてくると、次のような使い方も射程に入ってきます。

(3) a. I wrote the report on a computer.
コンピューターでリポートを書きました。

b. He always composes songs on the piano.
彼はいつもピアノで歌を作曲します。

コンピューターやピアノが作業のベース、つまり「ステージ」です。 その上でリポートや曲が作られているのです。

先にお見せした写真Aを説明しましょう。アメリカの多くの州では赤信号でも右折ができますが、交差点によっては「赤信号時右折禁止」、それがこの標識です。ここで on が使われてるのは、やはりステージが意識されているから。赤信号というステージ(状況)では、曲がってはいけないということなのです。

「接触」イメージもonの得意分野

それでは基本イメージを離れ、位置関係が生み出すさまざまな解釈に解説を広げましょう。まずは「接触」。


a. There's a calendar on the wall.
壁にカレンダーがあります。
b. Please keep the admission card on you at all times.
入館証はいつでも身につけていてください。
c. On hearing the news, she fainted.
ニュースを聴くとすぐ、彼女は気絶しました。

接触は on の得意な領域です。カレンダーが壁にあるのも、「身につけている」のも接触。だから on が使われているのです。c は時間的な接触。
「ニュースを聞く」と「気絶」という2つの出来事の接触(~するとすぐ)を表しています。次は「線上」。線への接触を表すこの使い方も on の得意領域です。

「線上」のイメージから生まれる使い方


a. Matsudo is on the Joban Line.
松戸は常磐線沿線にあります。
b. I met her on my way back home.
家に帰る途中に彼女と会いました。
c. Tropical storm Isaac is on a similar path with Katrina.
熱帯性低気圧アイザックはカトリーナ(過去のハリケーン)と同じ経路を辿っています。
d. Lucy is on friendly terms with Catherine.
ルーシーはキャサリンと友人関係にあります。

line(線)、way(道)、path(道筋・進路)、 B. border(国境)、river(川)など、線として意識されるなら on は使うことができます。

d で terms(関係)に on が使われているのは、 「関係」が比喩的に線として意識されているからです。

さて、写真Bのonはこの使い方――Village(宅地名称)が Cortez(コルテス通り)沿いにあるということになります。

on の位置関係が生み出す豊かな解釈、さらに解説を進めましょう。 次は「支持」。下の台が上を「支えている」と考えると、基本イメージからこの解釈に至ります。

「支える」イメージから生まれる表現


a. This movie is based on a real- life story.
この映画は実話に基づいている。
b. You can always count on me.
いつでも僕を頼りにしてくれていいよ。
c. Spiders live on flies.
クモはハエを常食とする。

is based on(~に基づく)にonが使われるのは「支える」がイメージされているから。「この映画」を「実話」が支えているのです (a)。b で「頼る」に on が使われているのも「支える」が想起されているから。 depend on、rely onなど「頼る」とonはいいコンビネーションを作ります。

count(数える)は「君が頼りにできる人間の1人として僕をカ ウントしていいよ」というニュアンスです。cのlive onには「~を常食とする」という訳がしばしば与えられますが、あまり感心しません。このフレーズのポイントは「支えられて生きている (live)」ということだからです。
(7) a. She lives on her pension.
彼女は年金暮らしです。

b. I'm not on welfare.
私は生活保護を受けてはいません。

クモがハエを食べて生きているなら「常食とする」ですが、年金に支えられれば「年金暮らし」、welfare に支えられれば「生活保護を受け る」となります。次は最後の解釈 ―― 「圧力」です。上のボールが台座を押していると解釈しているのです。

「圧力」のイメージからの表現も多彩


a. We can't place this entire burden on him.
彼にすべての責任を被せるわけにはいきません。
b. Let's focus on this issue.
この問題に焦点を合わせましょう。
c. No one wants to be looked down on.
誰も軽蔑なんかされたくはありません。
d. We played one on one.
私たちはワン・オン・ワンをしました。


どの文の on にも色濃く「圧力」が感じられています。a では責任の重荷が彼にかかっており、bでfocus on(~に集中する)となっているのは、集中する力が圧力として対象物に及ぶから。よく使われる concentrate on(~に集中する)も同じです。

「on=圧力」を理解できれば、なぜlook down(軽蔑する)にはonが使われるのかがわかるは ずです。尊敬する(look up to)ときとは異なり、軽蔑がグッと相手に及ぶ圧力が感じられているからです。バスケットボールでお馴染みの one on one(1対1)も、お互い加え合う圧力が感じられるフレーズです。

日常頻繁に用いられている

「圧力の on」は、少し注意すると日常頻繁に用いられています。

(9) a. Mary turned her back on him.
メアリーは彼に背を向けました。
b. Are you calling the police on me?
(万引きを疑われた男が店主に)警察を呼んでいるのですか?
c. She hung up on me.
彼女はガチャッと電話を切りました。

aではMary の敵意・嫌悪がonに感じられ、bでは自分を不利な立場に置く行為であることが on を使わせています。c は静かに受話器を置いたわけではありません。「ガチャン!」と切った ―― やはり圧力が感じられているのです。ここまで on を使いこなせれば、ネイティブそのものの語感でしょう。

ここで問題です。2-2(1) の会話で使われた次の文は、なぜ「私が払う」という意味となるのでしょうか。

(10) Well, the next dinner is definitely on me.
それなら次は絶対私が払います。

支払いの義務がon me(私に掛かっている)、そこから「払う」となるのです。

さてそれでは最後の写真を検討しましょう。


「当行のオンラインの貯蓄口座には口座メンテナンス費がかかりません」ということです。この文の「かかる」には with も使用可能ですが、 やはり on が最適でしょう。「口座に費用が課される」には、義務を課す 圧力が感じられるからです。「そうした鬱陶しい圧力はありませんよ。口座を開いてくださいね」―― 広告として十分成り立つ文となっている のです。