これまで「Nintendo Switch」の従来モデルを使うとき、背面にある頼りないスタンドをうまく引き出せなかった。スタンドの先端が非常に薄くて本体に沿うように収まっているのだが、爪を噛む悪い癖があるせいでうまくできなかったのだ。

「「Nintendo Switch(有機ELモデル)」は、美しい画面と長時間もつバッテリーが魅力的:製品レヴュー」の写真・リンク付きの記事はこちら

おかげで長いことパートナーに頼んで、彼女の長く鋭い爪であの残念なプラスティックの先端を引っ張り出してもらうか、手近にある何かを道具にすることで対処するはめになっていた(自分でも10回以上は試したが、うまくいかなかったのだ)。

しかし、「Nintendo Switch(有機ELモデル)」が発売されたことで、彼女はスタンドを引き出すという重大な任務からようやく引退できそうである。今回のモデルで改良された点のひとつが、格段に改善されたスタンドなのだ。

このNintendo Switch(有機ELモデル)は、従来モデルや「Nintendo Switch Lite」を含む任天堂の携帯ゲーム機のラインナップでもトップに君臨する。従来モデルと同様に取り外せるコントローラー「Joy-Con(ジョイコン)」があり、携帯ゲーム機からテレビに接続できるゲーム機へと早変わりするドックが用意されている。また、基本的に同じゲームをプレイできる。

これまでで最も高価な350ドル(日本では37,980円)だが、まだNintendo Switchをもっていない人なら間違いなくこの有機ELモデルをおすすめする。すでにNintendo Switchをもっているなら、買い替えるべきかどうか少し考える必要があるだろう。

4つの進化のポイント

Nintendo Switchは2017年に発売され、19年にはバッテリー持続時間が少し長くなった新モデルが同じ300ドル(日本では32,978円)で発売された。さらに同じ年には、着脱可能なJoy-Conとドックがない「Nintendo Switch Lite」(200ドル、日本では21,978円)が加わっている。新しい有機ELモデルは、全ラインナップのなかで最も進化したモデルと言っていい。

従来モデルとの主な違いは4つある。ディスプレイが6.2インチの液晶から7インチの有機ELへと変更され、本体のデータ保存容量が増えた。また、ドックには有線LANポートを搭載し、そして(何と言っても)大きく改善されたスタンドである。

刷新されたディスプレイは素晴らしい。この点についてもあとで触れるが、個人的に何より歓喜しているのがスタンドだ。本当のところ、スタンドでここまで心躍るとは思っていなかった。

従来の固定式スタンドはプラスティックの小さな薄板にすぎず、安定したテーブルに置いたときに決まった角度で本体を支えるだけだった。新しいスタンドは、マイクロソフトのタブレット端末「Surface」と同じように、本体の背面全体を支えるデザインになっている。

爪など使わなくても引き出しやすく、かなり低めから垂直に近い角度までどんな角度でも自由に固定できるので、汎用性はかなり高まった。従来モデルと新モデルをソファのアーム部分に置いてみると、片方だけが倒れた。どちらかは言うまでもない。

揺れる機内や電車内で落としても心配ない。個人的にはひざの上でテスト済みだ。Joy-Conを外し、「メトロイド ドレッド」の舞台である不気味な惑星ZDRの探索に没頭しても、安定感のあるノートPCと同じ感覚で本体はひざの上にしっかり乗ったままだった。スタンドをよく使う人なら、この変更だけでも買い替える価値がある。

有線LAN対応のメリット

テレビとの接続で本体をセットするドックには、端子を内蔵する背面部にあったヒンジで開閉するカヴァーがなくなった。新しいカヴァーは取り外せる構造で、ケーブルを着脱しやすい(テスト機のカヴァーがすぐに開いてしまうという指摘もあるが、今回は問題なかった)。

側面のUSBポートはふたつになり、背面のカヴァーの中にはドックの電源であるACアダプターの接続ポート、テレビ接続用のHDMIポート、そして今回初となる有線LANポートが用意された。有線LANに対応した代わりに、USBポートはひとつ減っている。

これまでは速度を上げるためにWi-Fiではなくルーターに有線接続したければ、アダプターを用意する必要があった。正直なところそのためにアダプターを購入するのは面倒だと思っていたところである。

今回はちょうどいいことに、ほこりをかぶった9mのLANケーブルが余っていた(あなたの家にもあるかもしれない)。これで本体をルーターとつないだところ、ダウンロード速度が172Mbps、アップロード速度が30Mbpsまで出た。

これなら「大乱闘スマッシュブラザーズ」などをオンラインでプレイしても、遅延はほとんど感じない。ただし、マリオがマップから落ちたときの「ネットの回線が遅いから」という言い訳は使えなくなる。

一方で、惜しいマイナス点がひとつある。有機ELモデルは、本体をドックに差し込んでも自動でWi-Fi接続を切ってはくれない。有線LANに切り替えるには手動でやるしかないのが面倒だった。とはいえ、Wi-Fiの速度は思った以上によくなり、新モデルでは安定して65Mbps/32Mbps程度に達した。従来モデルでは30Mbps/29Mbps程度だった。

本体のデータ保存用メモリーの容量は、32GBから64GBに倍増している。だが、それでもまだ十分とは言えない。セットアップ後、自分のマイクロSDカードを有機ELモデルに入れ忘れたまま、手持ちのゲームをすべてダウンロードしようとしたら、すぐに容量が不足してしまった。「あつまれ どうぶつの森」しかやらないと誓っているわけでもない限り、やはりメモリーカードは確実に必要になる(大丈夫、たぬきちには気づかれない)。

PHOTOGRAPH BY JULIAN CHOKKATTU

有機ELで美しくなった表示

ここまで「有機EL」を連呼しすぎて、ピクセルの亡霊をその辺に呼び出してしまったんじゃないかという気がしてくる。有機ELディスプレイは、これまで主流だった液晶よりも優れた技術として急速に普及し、スマートフォンやテレビなどに採用されている。

液晶はディスプレイの下に小さなLED素子を搭載した基板などを配することで、ディスプレイ上のピクセル全体を照らす。これに対して有機ELが優れている点は、ディスプレイ全体を後方から照らすバックライトに頼る必要がないことだ。

有機ELの場合、ディスプレイ上の各ピクセルが自ら光を発する。つまり、一つひとつのピクセルを発光させたりさせなかったりできるので、生き生きした本来の色を再現できる。しかも発光をオフにすると、深みのある暗い黒色になる。

新モデルでは、まさにそれを実感できる。従来モデルでは白っぽく黒浮きしてしまっていた表示が、有機ELディスプレイでは完全な黒なのだ。起動した際にも明らかにわかるが、暗い背景のシーンが多い「メトロイド ドレッド」のようなゲームをプレイすれば、その違いに満足するだろう。

まず、色にメリハリがあり、全体が平面的ではなく、くっきりと際立って見える。ゲームの雰囲気をより深く楽しめて、デザインが忠実に表現されていると感じるのだ。有機ELディスプレイでプレイしてしまうと、液晶に戻ることは難しい。

ただ残念ながら、有機ELはディスプレイの輝度の改善にはあまりつながっていないようだ。従来モデルを明るい昼間にプレイすると難点があったが、新モデルでもやはり同じことを感じた。

例えば「メトロイド ドレッド」や「Transistor」の暗闇のシーンは、太陽が出ている屋外では画面を追いづらく、プレイすることが難しかった。直射日光が当たらない場所を探すしかなさそうだ。

それでもディスプレイのサイズは大きくなった。ベゼル(画面の枠)を狭くしたからだ。この点では「iPad mini」の最新モデルに似ている。

解像度は720p(ドックに置いた際は1,080p)と変わらないので、画素密度は少し下がった。それでも普通の距離で画面を見るぶんには、画像が粗くなった感じはしない。「メトロイド ドレッド」「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」「大乱闘スマッシュブラザーズ」、いずれも画質は変わらず高い。

PHOTOGRAPH BY JULIAN CHOKKATTU

全体的にすっきりしたデザインに

ハード面では、ほかにもいくつかちょっとした変更がある。任天堂が「クリアなサウンド」と触れ込む音質の向上もそのひとつだ。新旧モデルを並べて「ゼルダの伝説 夢をみる島」の冒頭部分をプレイしてみたところ、新モデルのほうがくっきりしたサウンドになっている気はしたが、違いを聞き分けることは難しいレヴェルではある。

ところどころ従来モデルのほうが音が大きく聞こえたのは、スピーカーの位置のせいだろう。手で持った場合、これまではスピーカーが顔に直に向けられる格好になったが、新モデルではスピーカーがやや下向きになる。いずれにしても、Nintendo Switchの全モデルで(ようやく)Bluetoothヘッドフォンに対応したので、問題にはならないだろう。

今回のモデルは従来より横幅が3mm長く、重量は23グラム重くなった。手に持った印象やプレイした感じは変わらない。本体上部のボタンも微妙に変わり、電源ボタンと音量ボタンが少し横長になって見つけやすく、押しやすくなった。

ゲームカードスロットのカヴァーも形状が変わっている。従来のアクセサリー類のなかには新モデルでは使えないものもあるので、注意が必要だ。

背面はマットな仕上げで、卵の殻のような心地よい手触り。つるつるして指紋が付きやすい従来型より、ずっといい。また、本体が全体的にぐっとクリーンな印象になっている。全体に継ぎ目のラインが減り、すっきりと洗練された美しさがある。

Nintendo Switchをほぼ「携帯モード」でしか使わない人なら、こうしたアップデートを総合すると結構な加点になるだろう。逆にドックに置いて使うことが多い人でなら、新モデルに買い替える必要性はそこまでない、ということになる(有線LANポートが必要なら、ドックだけの購入もできる)。

新モデルは「買い」なのか?

だが、ここでやはり触れなければならないあの問題がある。初代Nintendo Switchの発売から4年が経って新しいモデルが出ても、まだパフォーマンスに改善が見られないのだ。

それどころか、任天堂によるとJoy-Conに変更がないので、悪名高いドリフト問題(コントローラーに触れていないのに画面上でキャラクターが勝手に動く現象)にいずれ遭遇する可能性がある。4K対応のNintendo Switchを開発中と常に噂されながらも(任天堂は躍起になって否定しているが)、なかなか実現しないことも懸念を増す要因になる。

そんなわけで、有機ELディスプレイと(かなりいい)新しいスタンドに値上げの価値があるかどうかだ。バッテリーのもちが悪くなってきたり、本体の傷みや消耗が気になるなど従来モデルの経年劣化を感じたりしている人や、現行のスタンドに我慢ならなくなってきた人なら、答えはイエスだろう。

これまで使ってきたNintendo Switchは家族や友人に譲るか、別の部屋でドックに置いて「TVモード」専用にしてもいい。既存のNintendo Switchか新しい有機ELモデルのどちらかを選ぶのなら、約50ドル(日本では5,000円)の差で悩むまでもない。あなたの爪は、有機ELモデルにしてよかったと思うはずだ。

◎「WIRED」な点
7インチの有機ELディスプレイは素晴らしい。スタンドが大幅に改良された。本体背面のマットな質感がいい。ストレージ容量が増え、ドックには有線LANポートを搭載。バッテリーが長もちする。

△「TIRED」な点
日差しの下では画面がやはり輝度不足。中身についてはパフォーマンスの改善が特にない(Joy-Conは従来モデルと同じ)。64GBのメモリー容量はまだ少ない。

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