管理職にしてはいけない上司の「5条件」とは?(写真:mits/PIXTA)

このところ働き方改革やコロナ対応などで職場の運営が難しくなり、マネジャー(管理職)には高度なマネジメント能力が求められています。

一方、日本企業ではまだまだ年功序列が濃厚で、「どうしてこの人が……」という能力的に不適格な管理職がたくさんいると指摘されています。

今回は、企業の経営者・人事部門・一般社員32名へのヒアリングをもとに、「絶対に管理職にしてはならない社員」の条件を考えてみましょう。

部下から見た「今すぐ降りてほしい管理職」

今回32名に「会社に能力的に不適格なのに管理職をしている人がいますか?」と聴いたところ、28名が「少しいる」「たくさんいる」と答えました。

「当社では、二度にわたって早期希望退職を募集しました。実力主義の徹底にも努めてきました。ただ、能力が劣る“ぶら下がり管理職”をバッサリ降格処分にすると、本人だけでなく他の社員も動揺してしまいます。代わりに管理職を担う人材が育っていないという事情もあります。なかなか対応が難しく、依然として不適格な管理職がたくさんいます」(サービス・社長)

一部に、「中高年社員を思い切ってリストラしたので、不適格な管理職はもう残っていません」(電機・人事部長)、「かなり以前から職務給に転換しており、年功序列や温情人事で管理職をしているというケースはありません」(素材・人事部門マネジャー)という回答もありましたが、少数派のようです。

まず、管理職の下で働く一般社員に「今すぐ降りてほしい(いなくなってほしい)管理職」の条件を訊ねました。

条件1.一貫性がない

「当社では、不適格な管理職が結構います。不適格な管理職は、口(発言)と腹(本心)と背(行動)が一貫していません。言うことがコロコロ変わるし、信念を持って本気で語っていないので、発言に力強さがなく、軽い。どうせまた前言撤回するんだろうなと思うと、ついていく気になれません」(機械・管理部門社員)

条件2.部下よりも自分の利益を優先する

「以前、仕事のミスで会社に大きな損害を与え、経営幹部から叱責されました。そのとき同席した直属の課長は、われわれをかばうどころか、『ミスが起こらないように私のほうではちゃんと指導したんですがね』と責任回避に走る始末。自分の立場しか考えず、自己保身ばかりする管理職は、人としてサイテーです」(金融・営業部門社員)

条件3.肩書で人を動かそうとする

「温情人事で辛うじて昇進した実力のない管理職ほど自分を大きく見せたいという意識が強く、肩書で部下を動かそうとします。『課長の俺の言うことを聞けないのか』とか『ちゃんと俺に筋を通してくれなきゃ困るよ』と、とにかく権威主義的・高圧的です。自分に実力がないことをわかっているなら、大人しくしてくれれば良いのにな、と思います」(部品・製造部門社員)

この他にも、「部下の手柄を横取りする」(IT・システムエンジニア)、「部下を信頼せず、部下の一挙手一投足を管理しようとする」(金融・業務部門社員)といった管理職の問題行動が指摘されました。やはり部下にとっては、直属の上司である管理職の自分たちへの接し方に不満を持っているようです。

経営者・人事部が明かす「管理職に向かない社員」

次に、経営者や人事部門責任者に「管理職に上げたくなかった社員」「管理職に上げて失敗だった社員」の条件を聞いてみました。

条件4.向上心がない

「やっとこさで管理職になれたという場合、もうそれ以上の出世の芽はないので、管理職になったことに満足し、まったく努力をしなくなります。あと、担当業務で実績を上げて昇進したという場合、ここからマネジメントスキルを学んでほしいのですが、なかなか気持ちの切り替えができません。そういう向上心のない管理職の姿勢は部下にも確実に伝播し、職場全体が無気力になってしまいます」(食品・人事部門担当常務)

条件5.経営的な視点・姿勢がない

「経営環境の不確実性が増す中、職場の管理職と言えども、戦略構想力が不可欠になっています。戦略構想力を持った上で、多様な意見を統合して成果を生み出すマネジメント力や複数のシナリオを描くなどをスピーディーに行うことが求められます。プレイヤーとしては優秀でも、そういう経営的な視点・姿勢を持った管理職は少ないですね。われわれの育成が失敗したということですが」(物流・社長)

この他に、不適格な管理職は「上からの指示を下に伝えるだけで、自分の責任で職場を改革しようとしない」(小売・人事部長)、「世の中の動き、お客様の声、競合の戦略に目を向けず、自分の殻に閉じこもっている」(エネルギー・社長)という指摘がありました。経営者や人事部門は、管理職に一般社員と違った次元の高い取り組み姿勢を求めているようです。

なぜ日本企業では、不適格な管理職が多いのでしょうか。今後、不適格な管理職は企業からいなくなるのでしょうか。

日本企業で不適格な管理職が多いのは、職能資格制度の影響が大きいとされます。職能資格制度とは、職務遂行能力によって社員をいくつかの等級に分類し、賃金を管理する仕組みです。1960年代の高度成長期に普及し、現在、大手企業の7割以上が採用しているとされます。

ここで多くの日本企業は、勤続年数が増えるとともに能力(熟練)が上がっていくという想定で制度を設計し、年次が上がると自動的に昇格するなど勤続年数や年次をベースに運用しています。本来は能力を評価する制度なのに、事実上「38歳になったらそろそろ課長」といった年功序列制になっているのです。

「ジョブ型雇用」で不適格な管理職はどうなる?

では、今後、企業が職能資格制度から「ジョブ型雇用」に転換したら、不適格な管理職はいなくなるでしょうか。ジョブ型雇用とは、職務を明確に定義して職務を担う社員を割り当てて、職務の難易度や責任の大きさなどに応じて賃金を払う仕組みです。日立製作所・富士通・KDDIなど大手企業が相次いでジョブ型雇用を導入し、注目を集めています。

ジョブ型雇用では、職務の難易度などに応じた職務等級制度を作ります。ジョブ型雇用での昇進は、より高い等級の職務を担う者を決めることです。理論上、ある年齢になったら管理職に昇進するということは「あり得ない」とされます。

ただし、職能資格制度にも同じような理屈が当てはまります。職能資格制度は、能力に応じて資格が上がる仕組みだから、能力の低い者が長く勤続しているというだけで昇格・昇進することは「あり得ない」はずですが……。

「当社では2年前にジョブ型雇用に切り替えましたが、まだ不適格な管理職がたくさんいます。ある等級の職務を誰に割り当てるかを決める際、個人の能力の評価を最重要の基準にしています。ただ、管理職に必要な能力を定義し、評価するのは難しく、勤続年数の長い社員が能力を高く評価され、高い等級の職務を担っています。結局、年功序列のままということです」(機械・社長)

つまり、ジョブ型雇用を導入すれば不適格な管理職が自動的にいなくなるというのは、幻想にすぎません。職能資格制度を続けるにせよ、ジョブ型雇用を導入するにせよ、不適格な管理職がいなくなるかどうかは、制度をどこまで厳格に設計・運用するかにかかっているのです。

個人的な予想としては、今後も職能資格制度を続ける企業が多く、ジョブ型雇用は職務の定義など設計・運用が難しいので、制度面から年功序列が大きく崩れることはないでしょう。ただ、日本企業には余剰人員を抱える余裕がなくなっており、リストラで不適格な管理職を排除する動きは今後さらに加速します。10年後には「不適格な管理職がいる」という企業は少数派になっていることでしょう。