グーグルの「Pixel 6」は、独自チップの採用によって大きく進化した
グーグルがスマートフォンの新機種「Pixel 6」と「Pixel 6 Pro」を発表した。この2機種が開発中であることをわたしたちはずいぶん前から知っていたが、それは情報がひっきりなしにリークされていたからだけではない。グーグルが新しいカスタムメイドのプロセッサーを8月に発表した際に、「Pixel 6」と「Pixel 6 Pro」に搭載されることを自ら明かしていたからでもある。それでもやはり新しいPixelは、今年のAndroidスマートフォンのなかでも特に盛り上がる新製品と言っていい。
この2機種には、これまでのPixelのなかで最も多くの機能が詰め込まれている。そのスマートさの大半は、複雑な機械学習アルゴリズムを処理するためにグーグルがゼロから構築したチップ「Tensor」によるものだ。グーグルによると、このチップによってカメラの「夜景モード」から音声入力まで、Pixelのあらゆる機能が向上するという。
Pixel 6シリーズは、700ドル(約80,000円)以上するスマートフォンに搭載されているような機能を、スペック上はすべて備えている。それにもかかわらず、Pixel 6の価格は昨年の「Pixel 5」より100ドル安い599ドル(日本では74,800円)からとなっている。さらに高性能なカメラを搭載した「Pixel 6 Pro」は899ドル(11万6,600円)からだ。この価格もワンプラス(OnePlus、万普拉斯)やサムスン、アップルといったメーカーの「Pro」ヴァージョンの端末を下回っている。
果たして謳い文句の通りの実力はあるのだろうか。それについてはもう少し様子を見る必要がありそうだが、まずはこれらの2機種の詳細について紹介する。すでに予約は始まっており、発売は10月28日となる。
個性的なデザインと最高レヴェルの機能
グーグルが最初に投入した3つのPixelと同じように、Pixel 6とPixel 6 Proのデザインは明らかに際立っている。人ごみのなかでこのスマートフォンを見間違えることはないだろう。その理由は、背面のカメラシステムを覆う黒い帯状のカメラバーにある。
このカメラバーの上部にはバーの下部とは異なるアクセントカラーが配されており、初代Pixelのツートンカラーのデザインを思わせる。色そのものも遊び心に溢れており、Pixel 6は「Sorta Seafoam」「Stormy Black」「Kinda Coral」の3色から、Pixel 6 Proは「Sorta Sunny」「Stormy Black」「Cloudy White」の3色から選べる。
すでに数日前から両方のモデルを試用しているが、詳しくは改めてレヴュー記事で報告したい。それでも現時点で言えるのは、2機種とも大半の1,000ドル(約11万円)級のスマートフォンと同じくらい高級感があるということだ。
特にPixel 6 Proはエッジ部分に採用された光沢のあるアルミウムの外観がしゃれており、Pixel 6はより落ち着いたマットな質感にこだわっている。どちらもガラスで覆われており、Proのディスプレイは「Gorilla Glass Victus」、スタンダードなPixel 6は「Gorilla Glass 6」で保護されている。同じゴリラガラスでも「Victus」のほうは「6」よりも1年ほど新しく、保護性能がより高いとされている。
また今回の2機種は、これまでのPixelのなかでも大型の部類に入る。Pixel 6のディスプレイは6.4インチ、Proのほうは6.7インチだが、サイズにそれほど大きな違いは感じられない。それはPixel 6はディスプレイの周りの枠が太く、Proは画面のスペースが最大になるようにディスプレイを端までカーヴさせていることによるものだ。
Pixel 6シリーズは、最上級のAndroidスマートフォンに期待される機能をほぼ網羅している。有機ELディスプレイやステレオスピーカー、5G接続への完全対応、伝送速度が速い「Wi-Fi 6E」規格への対応、IP68の防水性能を備えているほか、ワイヤレス充電にも対応した(ワイヤレス充電器「Pixel Stand」の第2世代モデルも発売が予定されている)。
さらに2機種ともディスプレイに指紋センサーが内蔵されている。いまや多くの高性能なAndroidスマートフォンで標準的な機能になっているが、グーグルのスマートフォンとしては初となる。
競合製品と同じように、Pixel 6シリーズには充電アダプターは同梱されていない。ただし、USB-Cのケーブルと、USB-CからUSB-Aに変換するアダプターは付属している。
ProはUWBチップを搭載
Pixel 6は画面のリフレッシュレートがPixel 5と同じ90Hzで、解像度は1,080×2,400ピクセルとなっている。グーグルは自社開発チップ「Tensor」について、クアルコムのチップを採用していた従来モデルより処理速度が最大80%向上したと説明しているが、新機種ではそこに8GBのメモリーが加わっている。
バッテリー容量は4,524mAhで、グーグルによると丸1日以上もつという。microSDカードスロットとヘッドフォンジャックは備わっていない。内蔵ストレージの容量は、Pixel 6では128GBか256GBを選べる。
Pixel 6 Proは画面の解像度が1,440×3,120ピクセルで、リフレッシュレートが120HzとPixel 6より高性能になっている。グーグルによると、画面にあまり動きがない場合にはリフレッシュレートが10Hzまで下がり、消費電力を抑えられる仕組みという。
画面が大きいこともあってバッテリー容量は4,905mAhとなっており、メモリーは12GBだ。動画をたくさん撮るユーザーは512GBのストレージも選べる。
また、超広帯域無線(UWB)対応のチップを搭載しており、UWB対応デヴァイスの位置を正確に示せる。これは「iPhone 13」で紛失防止タグ「AirTag」の正確な位置がわかるのと同じような機能だ。グーグルは今後数カ月でUWBを使った「いくつかの機能」を発表していくとしているが、その中身はまだ不明である。
カメラに大型のセンサーを採用
Pixelシリーズといえば非常に高性能なカメラで有名だが、その地位には陰りも見られる。そこでグーグルは今回、カメラのハードウェアをアップデートした。
Pixel 6もPixel 6 Proも1/1.31インチの大型センサーを備えた50メガピクセルのメインカメラを搭載し、Pixel 5と比べて取り込める光量が最大150%増えているという。複数の画素をひとつにまとめて感度を上げるピクセルビニングという技術が採用されており、12.5メガピクセルの写真を撮ることができる。
2機種とも12メガピクセルの超広角カメラを搭載しているが、Proにはさらに48メガピクセルの4倍望遠カメラが追加された。光学ズームに対応したPixelは初めてではないが、3台のカメラを搭載したモデルは初となる。
なお、Pixel 6はメインカメラにしか光学式手ぶれ補正機能がないが、Proはすべてのカメラに備わっている。つまり、手ぶれが起きにくく、動画を撮っても安定するということだ。
焦点が固定された自撮り用カメラには両機種で違いがある。Pixel 6は8メガピクセルのカメラで、1,080pの映像を秒間30フレームで撮影できる。これに対してProの11メガピクセルのカメラは、4Kで秒間30フレームの撮影が可能だ。
流し撮りや長時間露光を再現するような新たなモードも登場した。「アクションパン」を使えば、走っている自転車や電車を流し撮りして、被写体の背景をブレさせることができる。通常ならマニュアル設定が可能なカメラアプリでなければできない芸当である。
長時間露光は長時間シャッターを開放していたような写真を撮れるモードだ。高速道路を走る車列の尾を引いたような像や、クリームのように滑らかに流れる滝の写真を撮影できる。
独自チップで撮影能力が向上
独自チップのTensorにより、カメラの機能は多くの面で向上したとグーグルは説明している。例えば、写真処理アルゴリズムの多くをチップで処理できるので、Pixel 6シリーズの動画撮影能力が全般的に飛躍的に高まったという。
Tensorのおかげで実現した機能としては、「Google フォト」の新機能「消しゴムマジック」が挙げられる。タップひとつで背景の不要な部分を削除できる機能だ(過去に撮った写真にも対応する)。「顔のぼかし解除」ツールは、画像内の顔を優先的に認識し、動いている被写体であってもできる限りシャープな像を生み出す。
グーグルは肌の色の濃い人々をカメラで正確にとらえるため、多彩な顔ぶれのフォトグラファーやカメラマンと共同プロジェクトを始めた。その成果が「リアルトーン」である。そうした協力者のおかげで、カメラのモデルを訓練するための「画像データセットにおける有色人種の写真の数」を大幅に増やすことができたと、グーグルは説明している(「Pixel 4」の発売前のことだが、グーグルが契約していた外部の企業が肌の色の濃いホームレスを使って顔認識システムを開発していたことがあった)。
クアルコムの「Snapdragon 888」のような既存のプロセッサーと比べて、画像データが重いアプリやゲームを扱う際にTensorがどれだけ対応できるのかは不明だ。しかしグーグルは、カメラ以外の機能にもTensorを活用している。
例えば「ライブ翻訳」は、さまざまなメッセージアプリで別の言語を使うユーザーからメッセージが届いた際に起動する。メッセージは受信者が初期設定した言語に翻訳され、同じ言語で返信を書くことができる(対応言語は11種類のみ)。また、画面上で再生された動画の翻訳や文字起こしも可能だ。
おそらく日常的にさらに重宝するのが、「アシスタント音声入力」だろう。グーグルのキーボード「Gboard」による音声入力の新たなヴァージョンで、文脈を理解して句読点も自動で付けてくれる。このため入力速度も大幅に向上しているという。
さらに、問い合わせなどの電話をする際に役立つ「Calling Assistance」という機能もある。通話アプリにおいて、最短の待ち時間で窓口などに電話できる最適な時間を教えてくれる機能だ。電話をかけると、先方の自動メッセージを文字に起こしてくれる上、メニューも文字で表示されるので、「1」を押した際にどこにつながるのか目と耳で確認できる。
セキュリティアップデートは延長
Pixel 6の設定メニューには、「セキュリティハブ」が新たに加わった。システムやアカウントの安全性について全体的な評価を知ることができ、改善のためのアドヴァイスももらえる。
さらに2機種とも、クイック設定のタイルから素早くカメラのオフやマイクのオンが可能だ。これは「Pixel 3」以降のデヴァイスにも配信が始まった「Android 12」の基本機能でもある。また、グーグルの新型セキュリティチップ「Titan M2」には、WhatsAppやフェイスブックのMessengerのようなアプリでマルウェアやフィッシング詐欺の兆候を監視する機能が備わっている。
グーグルはPixel 6シリーズについて、少なくとも5年間のセキュリティアップデートを約束している(3年間から延長された)。Androidのアップデート保証は3年間のみだが、3カ月ごとに新機能を追加していく「Pixel Feature Drops」は継続していくという。
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