川口 雅裕 / NPO法人・老いの工学研究所 理事長

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人事部の責任範疇は広いが、もっとも重要な使命は「組織の活性化」であり、「人を活かす」ことである。その実現のために、顧客や市場の変化に合わせた組織づくりや、成果主義・職務給・役職定年といった処遇システムが検討され、ワークライフバランスやフレックスタイム制度などの就業(働き方)の仕組み、研修や福利厚生制度におけるカフェテリア化、表彰・褒章(インセンティブ)の見直しなどが行われ続けてきているし、様々な組織形態の考え方、マネジメントやリーダーシップのありよう、面談やコミュニケーションの仕方の変更、働きやすいオフィスの形といったアプローチも試行されている。

しかし、これらの策が奏功して組織や人材が活き活きしてきた、と実感するビジネスパーソンはほとんどいないだろう。上記のような策が、なぜことごとく空振りに終わるのか。それは、重要な見落としがあるからだ。

人事責任者が見落としているのは、「日本人の行動原理」である。当たり前だが、日本企業で働くほとんどは日本人だ。そして、日本人には欧米の人たちとは異なるモノの捉え方、感じ方、行動の仕方がある。個より集団、場の空気を読む、建前と本音、同調圧力が働く、横並び重視、結果より過程、長幼の序、恥の文化・・・などこれまで様々な識者・研究者が指摘してきた多くの特徴があり、それは外国人が驚いたり不思議に思ったりするレベルで今もなお、若者に至るまでしっかりと存在している。したがって本来、人事責任者は「日本人」はどのように感じ行動するか、そして「日本人によって構成される組織」に適した仕組みはどのようなものかを考えなければならないはずだ。

ところが現実は、あまりにも安易に欧米の組織論や概念、マネジメントシステムを受け入れてしまっている。だから上手くいかない。

例えば、同じ釜の飯を食う人たちとの関係を重視し、その場の空気を見ながら行動している人々を、人事制度や就業規則の改定によって変えようとしても無理である(何も変わらない)。他にもたとえば、大きなニンジンをぶら下げて「ほら頑張れ」と煽っても、目立つことを嫌い、周囲と調和した状態が安定的に続くのを好む人たちには効果がない。欧米人相手に効果があったと思われる策が、日本で上手くいかないのはそういうことである。さらに言えば、「正社員制度」「職能給制度」「定年退職制度」といった日本独特の雇用慣習が、民族性とは違うレベルで日本のビジネスパーソンを特殊なものにしていることも見逃せない。

日本人や日本社会に関する論考は、実にたくさんある。日本人を相手にする以上、人事責任者はそれらを真っ先に学ぶのは当然であるし、日本人に関する造詣がないのに、欧米型の処遇システムやマネジメントを導入することの成否、あるいはどのようにカスタマイズすれば良いかを的確に判断できるはずがない。専門分野の担当者ならまだしも、責任者ともなれば「組織の活性化」「人を活かす」という目的のために日本人とは何かを問い続け、日本人について学び続ける姿勢が求められるのである。


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