純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

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 先日、通販で買った中国の商品が、一ヶ月以上もかかってオランダから航空便で送られてきた。不思議だ。どうもオランダに中国商品の国際ロジスティックス拠点があるらしい。

 調べてみて驚いた。中国が「一帯一路構想」で、ヨーロッパやアフリカをつなぐ経済圏をめざしているのは聞いていたが、すでに鉄道輸送だけで毎月千本以上、つまり40分に1本が発着しており、その総輸送量は20フィートコンテナ113万5000個分に満載だとか。日本の海上貿易の総量が約2000万個分であることと較べると、まだまだだが、海運のコンテナが疫病で回らなくなって費用も法外に高騰していることを考えると、ヨーロッパまで1月もかからずに安定して運べるという意味では、鉄道輸送は将来性が高い。それで、日本の物流企業も共同で一本借り上げの試験運用を始めているそうだ。

 しかし、それにしても、どこを通っているのか。中央アジアなんて、この疫病騒ぎでなくてもリアルにはぜったい行かないだろうところ。しかし、本では、シルクロードの地名をいくつも聞いたことがある。ところが、これをgoogleで見ていくと、これまでの本の地図がいかにいいかげんだったかが、よくわかる。そんなところでは、山脈を越えられない。

 「ユーラシア大陸」などと言うが、アルタイ山脈から天山山脈、そして、スライマン山脈で、ヨーロッパとアジアは地政学的に古代から分断されている。ヒマラヤ山脈の南、インドは、もともと別大陸。そして、ヨーロッパの連中が「中東」や「中央アジア」と呼んでいるところは、この意味では山脈の向こう、ヨーロッパだ。

 シルクロードは、大きく三つ。もっとも確実なのが、アルタイ山脈と天山山脈の隙間、ウルムチ市で早々にヨーロッパ側に抜けてしまう「天山北道」。この道は、タラス河まで行ったところで、中央アジアを横断し、アラル海、カスピ海、黒海を抜けて、アルプス以北に直行できる。これが現代一帯一路でも、中心となるルートの一つだろう。

 西域北道は、天山山脈の南側に沿ってタクラマカン砂漠の西端カシュガル市まで行き、川を遡って、サルタシュ村から天山山脈を越えてヨーロッパ側のオシ村へ出て、そこから西へサマルカンド市、ネイシャプール市、テヘラン市、そしてバグダッド市に至る。この道は、天山山脈越えがたいへん。地溝をつたってドゥシャンベ市に出る道もあるのだが、崩れやすく、また、なんども川を渡らなければならず、実用性はなかっただろう。しかし、現在、橋を含めて道の整備が進んでおり、アジアとアフリカを結ぶ最短直線として、将来的にはここにも高速鉄道が通るのではないか。

 西域南道は、タクラマカン砂漠の南側、崑崙山脈の麓を西にカシュガル市まで行くもので、この道は、ここから南西にアルプス山脈を越えて、スライマン山脈の東側、インダス河上流カシミール地方、ペシャワール市に出る。だから、これは厳密には、アジアとヨーロッパをつなぐシルクロードではない。しかし、玄奘やマルコポーロも、このルートを使っている。最悪の山道だが、中央アジアの治安の悪さを考えると、山村と無人の谷を抜ける方がまだましだったのかもしれない。

 googleだと、これらの道が衛星写真で見られるだけでなく、3Dのバードビューで谷沿いを駆け抜けられる。そして、要所ごとにけっこう360度の画像もあって、途中の街や村の観光も。それどころか、探検家気分で、すでに崩れた廃道をたどってアプローチしてみたり、消えた幻のオアシス都市を探してみたり。そして、いま、最新の物流が、日本からスペインまで、走り抜ける。それは、どこのどんなところを通るのか。

 家にいても、世界はつながっている。世界には、いろいろな道があり、街や村がある。そして、それらは、いま、自宅に居ながらにして、パソコンという窓から眺めることができる。時節柄、いろいろ我慢すべきこともあるが、気分を変えれば、楽しいことはいっぱいだ。