肩こり腰痛の根本原因は「姿勢の悪さ」だといわれる。それでは、どうすれば姿勢はよくなるのか。理学療法士で、アレクサンダー・テクニーク国際認定教師の大橋しん氏は「あるフレーズを唱えると、脳が錯覚を起こして、自然とよい姿勢をつくることができる」という――。

※本稿は、大橋しん『魔法のフレーズをとなえるだけで姿勢がよくなるすごい本』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

■イメージするだけで脳が錯覚する

よい姿勢にしたい。そう思っても、体にこわばりがあってバランスが崩れていたりすると、自分でよい姿勢にするのは難しいものです。理学療法士に指導してもらえればいいかもしれませんが、毎回教えてもらうわけにはいきません。そこで私は、誰でも自分で簡単にできる方法を考案しました。

それが、魔法のフレーズです! 魔法のフレーズをとなえると、頭の中でイメージが生まれます。そのイメージは感覚的な体験をもたらし、本当にそうであるかのように感じられます。

脳は柔軟なので、それを実現しようとします。その実現させようとする過程で、体のかたいところがゆらいでいく、というからくりです。

たとえば、「梅干し」を口に入れるところを思い浮かべてみてください。「レモン」でもOKです。

イラスト=『魔法のフレーズをとなえるだけで姿勢がよくなるすごい本』

口元の筋肉が緊張して、だ液が分泌されるのが感じられませんか? 梅干しやレモンを実際に口に入れていないのに、イメージしただけで脳が錯覚したのです。

こういうことを、姿勢で行うのが魔法のフレーズです。一般的に姿勢と結びつかない、ちょっと変なイメージもあるのですが、それは狙ってのこと。その意外性や驚きの力も借りて、ふだんの習慣からスルリと抜け出せるように設計しています。

具体的なやり方はこれから紹介していきますので、ぜひみなさん、これらのコツをつかんで、筋緊張を断ち切って、骨で立つ感覚をつかんでください。

そして、崩れてしまった姿勢や、不調・トラブルをリセットしていきましょう。

まずは気楽な気持ちで、これから紹介する魔法のフレーズを1つずつとなえてみてください。声に出さなくても大丈夫です(もちろん、声に出してもOK!)。

緊張のかたまりがとけて、背骨がスッと伸びていくのが感じられると思います。いつでもどこでも、どんな体勢でとなえていただいてもかまいません。立っていても、座っていても、歩いていても、仕事中でも、打ち合わせ中でも、家事や育児をしているときでも、何をしているときにとなえても、大丈夫です。

そもそも、姿勢は固定すべきものではなく、常に動きの中にあるものです。なので、改まった態度で「よい姿勢をつくろう!」と努力する必要はありません。日常生活の中で、ふんわりとラクにゆらぎ続けていることがとても大切です。

■姿勢には「急所」がある

その前に、1つだけ、どうしても覚えておいてほしいことがあります。それは、「姿勢の急所」という重要ポイントの存在です。

何事にも、「ここだけ押さえておけば大丈夫」という勘所や急所があります。たとえば営業マンなら、決裁権を持つ部長を口説き落とせば契約が取れますよね。姿勢にとっての勘所や急所を、「姿勢の急所」と呼ぶことにしましょう。

「姿勢の急所」とは、頭と背骨が接するところ。専門的には、環椎後頭(かんついこうとう)関節といい、私の専門であるアレクサンダー・テクニークでは最重要視している部位です。この部分が緊張しておらず、背骨と頭がお互いに自由であるとき、バラバラだった頭、首、筋肉、背骨などが1つにつながり、骨でラクに立てるようになります。

姿勢の急所がふんわりとゆらいでいれば、体全体もふんわりとゆらいでいます。逆もしかりで、体全体がふんわりとゆらいでいれば、姿勢の急所もふんわりとゆらいでいます。それほどまでに、背骨と頭のバランスは重要なのです。

ここで、「姿勢の急所」の位置を確認しておきましょう。ほお骨の出っ張りの下側のキワ、耳の穴からほお方向へ水平に4センチくらいの位置です。

イラスト=『魔法のフレーズをとなえるだけで姿勢がよくなるすごい本』

その位置を人差し指、中指、薬指の3本の指先で軽く押さえてみてください。慣れるまでは、特に1と2のフレーズは、指先で「姿勢の急所」を押さえたままとなえることをお勧めします。もちろん、慣れたら押さえなくてもOKです。

では、さっそく魔法のフレーズを紹介していきましょう。

■頭をうまく支えるためのフレーズ

【魔法のフレーズ1】頭の中で小舟が静かにゆれています。

イラスト=『魔法のフレーズをとなえるだけで姿勢がよくなるすごい本』

姿勢以外に改善できる症状

・頭痛
・目の疲れ
・表情筋の緊張
・あごの緊張
・飲み込み力の低下
・鼻づまり

■重たい頭が「上方向」にふわふわ浮かぶイメージ

人間の頭は、体重の10%ほどの重量があるとされています。体重50キロの方なら、約5キロ。かなりの重さです。この重たい頭を支えきれていないことが、姿勢の崩れや、さまざまな不調をもたらす大きな原因の1つになっています。

なぜ頭の重みを支えきれないかというと、首や背中の筋肉で頭を固定しようとするからです。これだけの重さを、筋肉で固定して支えきることはできません。

そもそも、頭部は知らず知らずのうちに緊張させやすい部位です。悩みごとや考えごとがあったり、嫌だなと思うことに遭遇したときに、眉間にしわを寄せて頭を緊張させてしまう。歯をくいしばって、ぐったりと疲れてしまう。みなさんも身に覚えがあるのではないでしょうか。

では、どうすればいいのか。頭を背骨や「姿勢の急所」の上に、ふわっと載せればいいのです。

イラスト=『魔法のフレーズをとなえるだけで姿勢がよくなるすごい本』

この魔法のフレーズをとなえて、頭と背骨が接する「姿勢の急所」に、水面が広がっている様子をイメージしてみてください。

そこには小舟が浮かんでいて、ゆらゆらとさざ波にゆられています。頭が空にぷかぷかと浮かんだような心地になると、自然と首の筋肉がゆるみ、頭が背骨の上にまっすぐ載るようになります。これにより、頭の重みから解放されて、何もしなくても背骨や姿勢が自然と伸びていくわけです。

■背骨をのばすフレーズ

【魔法のフレーズ2】背骨が鎖(くさり)のようにゆれています。

イラスト=『魔法のフレーズをとなえるだけで姿勢がよくなるすごい本』

姿勢以外に改善できる症状

肩こり
腰痛
・疲れやすさ
・冷え、むくみ
・坐骨神経痛
・静脈血栓症(予防)

■背骨がゆれながら「下方向」に垂れ下がっていくイメージ

背骨はとても誤解の多い部位です。私が診てきた患者さんのほとんどは、背骨は「首から腰まで」「棒のように固定されたもの」というイメージをお持ちでした。実はこの誤ったイメージが、姿勢のゆらぎを妨げているのです。

正解を申し上げましょう。背骨は「姿勢の急所から尾てい骨まで」「くさりのように椎骨がつながって、しなやかに動くもの」です。本来、背骨は「姿勢の急所」から下に垂れ下がっているべきなのです。

しかし姿勢が悪いときはその逆で、背骨が頭を突き上げてしまっています。すると、本来はふわふわと浮かせるべき頭を、首の筋肉をかためて固定せざるを得ません。その結果、ねこ背やストレートネックなど悪い姿勢を招いてしまいます。

イラスト=『魔法のフレーズをとなえるだけで姿勢がよくなるすごい本』

■2つのフレーズはセットで行うのがオススメ

大橋しん『魔法のフレーズをとなえるだけで姿勢がよくなるすごい本』(飛鳥新社)

このフレーズは、基本的にフレーズ1とセットで行うことをお勧めしています。小舟のゆらぎとともに頭が浮かんでいるように感じられてきたら、そこから下へ向かってまっすぐ垂れている「背骨という鎖」をイメージしてください。

その鎖は体の中心ラインを通っていて、小舟のゆらぎに合わせて穏やかにゆらゆらとゆれています。この際、実際に体を少しゆらがせても構いません(もちろん、ゆらがせなくてもOKです)。

ふわっと浮かぶ頭の小舟と、ゆらゆらと垂れ下がる背骨の鎖。この2つに優しく挟まれた姿勢の急所が静かで、ラクな感じがしたら、成功した証拠です。

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大橋 しん(おおはし・しん)
理学療法士、アレクサンダー・テクニーク国際認定教師
岐阜生まれ、神戸在住。(株)フローエシックス代表取締役。ドイツでチェロの修業中にアレクサンダー・テクニークを知り、帰国後に理学療法士とアレクサンダー国際認定教師の資格を取得(両資格の所有者は国内初)。救急病院勤務を経て、整形外科クリニックにて「特命理学療法士」として数々の難しいケースを解決。2020年に独立し、リハビリと太極拳を中心としたスタジオを開設。姿勢改善の研究成果を積極的に学会で発表しており、医療だけに頼らない健康とケアのあり方を提案している。著書に『魔法のフレーズをとなえるだけで姿勢がよくなるすごい本』(飛鳥新社)がある。
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(理学療法士、アレクサンダー・テクニーク国際認定教師 大橋 しん)