続発する就活セクハラが企業の命脈を断つかも知れない件/増沢 隆太
・就活セクハラ
就活セクハラは、就活する学生に対し、応募先の企業の社員が働くセクハラ行為です。採用社社員が性的関係を迫ったり、性的いやがらせ・不快言動をする行為です。本来採用企業と学生は対等であるはずですが、現実的には採用される学生は圧倒的に弱い立場です。
コロナで景気先行きが不透明となり、不安な学生心理を突いてセクハラ行為に及ぶという卑劣な事件が、今年6月に近鉄グループホールディングズ、そして日本製鉄という、日本有数の有名大企業において発生したと報道されています。
厚生労働省が2020年10月実施した調査では、就活・インターンシップ経験男女学生1千人が対象となり、セクハラ被害の経験があると答えたのは25.5%。とのこと。本人申告ベースであり、犯罪かどうかまでの精査はないものの、25%という数字は相当に高いという印象です。
・就活セクハラへのホンネ
就活だけでなく会社におけるセクハラ行為ですが、そんなものは昔からあったという発言も聞こえてきます。ハラスメント対応は私の専門領域で、全国の大企業や官公庁、中小サービス飲食企業など、さまざまな職場でハラスメント防止研修を行っています。そんな研修中のディスカッションで、そうした本音がチラホラ聞こえるのです。
研修内のディスカッションで本音で話してもらえるのは、むしろ研修としては大歓迎です。それが本音だから認められるものなのか、そうでないのかを考える重要なきっかけになるからです。
セクハラと一口に言っても、不快言動と性的関係強要ではレベルが違い、後者に至ってはほぼ間違いなく犯罪レベルの悪質な行為です。今年6月に明るみに出たセクハラ事件のように、就活する学生相手に性的関係を強要するのは、きわめて悪質な刑法犯罪です。
ホンネがどうでも、もはや絶対的にセクハラは認められない時代になっています。このことを社員も経営者も、どこまで真剣に理解しているのか、就活と社員ハラスメント対応両方の現場を知る専門家として、非常に疑問を感じています。
・就活セクハラを助長するSNS
かつての就活でOB訪問といえば、就職課窓口でOB名簿を見て、先輩を直接訪ねるものでした。今や母校卒業の事実でさえも完全な個人情報となり、OBかどうかを含め、本人許諾なしにOB名簿などの形で学生に公開はできません。
就職課やキャリアセンターに昔風のOB名簿を見に行く学生は今でも絶えませんが、そこにあるのは大学規模問わず、そうとうあっさりした、卒業生全体の内ごくごくほんの一部の、自ら名簿記載を希望した卒業生情報だけなのです。
一方、インターンシップで低学年からOB訪問したい学生など、ニーズはむしろ増えているため、そうした市場性を放っておくIT業界ではありません。就活/インターンシップ特化SNSや、就職・転職情報企業が、OBと学生を引き合わせる「マッチングサイト」を運営しています。
出会い系と基本的に構造は変わらないシステムですから、OBに会いたい学生と、「後輩に指導したい」欲求を持つ社員をマッチングさせ、そこから先は二人きりでご自由にという、システムだけならまるで出会い系と区別がつかないものが利用されています。
・経営者の責任と具体的対策の必要性
こうした存在を経営者はご存じでしょうか?今回懲戒解雇など処分を受けたセクハラ行為者たちは、悪質なことに上記のマッチングサイトのような、「OBだが単なるその会社の現役社員」ではなく、学生の個人情報まで知り得る人事担当とのこと。悪質さが際立って高いといえます。こんな人物を採用担当に充てた企業責任はきわめて重いといえます。
性犯罪を犯した教員が、事件を起こしても復帰できてしまう仕組みが問題視されていますが、就活セクハラという完全な犯罪行為を犯すレベルの社員を採用担当とした会社は、自ら脆弱すぎるコーポレートリスクを放置していることになります。
経営者の方は、今一度本当に自社の採用がこうした高いリスクにさらされていることを認識され、現場の再確認や徹底したハラスメント教育や認識向上などの具体的対策を取らなければならないものとご理解下さい。就活セクハラが起これば、その事実は未来に渡って、就活情報交換サイトにデジタルタトゥーとして永く語り継がれることでしょう。