中日・京田陽太【写真:荒川祐史】

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ちょうど1か月…28日から1軍に合流「京田は変わったな、と」

 見上げても、なかなか青空は見えない。鈍色の分厚い雲に覆われた季節は、今の心模様にも似ている。プロ5年目で初めて2軍降格を告げられてから1か月。長いか、短いか。経過の速度はともかく、思いを巡らせるには十分な時間がある。「正直なところ、悔しいですよ」。中日の京田陽太内野手は、丁寧に自らと向き合った。【小西亮】

「『えっ?』っていう感情はありました」

 事実を噛みほぐすまで、少し時間がかかった。5月27日、本拠地・バンテリンドームでのソフトバンク戦後、監督室に呼ばれて正式にファーム行きが告げられた。翌日からの北海道遠征に備えて中部国際空港のホテルに泊まるはずだったが、急遽キャンセルして名古屋市内の自宅に帰った。

 開幕から圧倒的な存在感を示せていないのは分かっていた。課題の打撃は2割台前半で、下位の打順に回された試合も。ただ、試行錯誤する中で結果が伴ってきた実感があったのも事実だった。5月16、18日には2試合連続で猛打賞。月間打率.294で、本格的に交流戦へと入っていく矢先だった。「2番バッターとして、バントや状況に応じた打撃が疎かだったのかなと」。そう言って、自らを納得させた。

 2016年のドラフト2位で入団し、1年目から遊撃の開幕スタメンを奪取。球団の新人記録を塗り替える149安打を放ち、新人王に輝いた。2年目以降はレギュラーとしてセンターラインを支え、守備は球界でも指折りの存在に。過酷なポジションでも故障離脱が全くない屈強な体。「試合に出続けること」を、最低限にして最大の価値観にしてきた。

デーゲームの生活で家族と夕食…1歳の長男は「俺より練習熱心」

「ケガとかではなく、実力がなくて落ちているんでね」

 足りないのは打撃面だけか――。今の自分に必要なピースを探す。単なるレギュラーではなく、チームの屋台骨として存在しなけばいけない立場。もうひと回りも、ふた回りも脱皮が求められいる。「ファームで何かを掴めるように。バッティングに関しては、状況に応じた引き出しを増やしていくことも大事だと思っています」。視線はすでに、シーズン後半戦を向いている。

 私生活も変化。ナイターがなく、家族4人で夕食を囲める光景に新鮮さを感じている。「いつもは葉月に任せっきりなので」。妻の代わりに2人の子どもたちをお風呂にも入れる。1歳の長男は、おもちゃのバットを持って遊ぶようになった。右足を豪快にあげて振る姿は、父と同じ左打者。朝起きてすぐスイングするほどお気に入りのようで、京田は「俺より練習熱心やん…」と妻に苦笑する。

 いつもはいない時間に、父がいる不思議。ナイターをテレビで見ながら「パパがんばれー!」と声を上げていた2歳の長女も、その変化を敏感に察知した。いつまで経っても、背番号1の選手が画面に映らない。「パパやきゅうやめたの?」。無垢なひと言は、余計に突き刺さった。

 1日も早く“日常”を取り戻す。1軍の状況や選手のやりくりにも左右されるが、いつ呼び戻されてもいいように準備だけは整える。「結果を残さないと、周りは納得しないと思いますから」。26日時点で、2軍戦では14試合で打率.300(50打数15安打)、1本塁打。守備や走塁でも、復習しながら細かい課題をつぶしている。

「京田は変わったな、と思われるくらいじゃないと意味ない」

 梅雨空よりも先に、気持ちは晴れてきた。ちょうど1か月が経ち、28日から1軍に合流。再び試合に出続ける“自負”を積み重ねていくためにも、この小休止は無駄にできない。(小西亮 / Ryo Konishi)