大谷翔平が″二刀流″で大活躍も、現地メディアは「働きすぎ」を心配
開幕前は右ヒジの状態が心配されたが、160キロを超えるフォーシーム、変化球のキレも戻り、好投を続けている。また今季は長打が多い一方で、打率も高い数値をキープ。加えてチームトップの6盗塁(5月3日時点)と機動力でも魅せる
ロサンゼルス・エンゼルスで4年目のシーズンを送る大谷翔平が絶好調だ。
メジャーリーグ開幕から約1ヵ月が過ぎた現地時間5月10日現在、打っては打率.276、10本塁打。投げては1勝0敗、防御率2.41、30奪三振と好成績を記録。メジャーリーグ専門局「MLBネットワーク」は、大谷の活躍ぶりを「散々な結果に終わった昨季がまるで嘘のようだ。ファンは、どの選手よりも大谷のことが気になっている」と、全米で高い注目を浴びている様子を伝えた。
確かに、昨季の大谷は別人のようだった。2017年オフに行なったトミー・ジョン手術を経て"二刀流"で臨んだが、内容は最悪だった。
投手としての出場は、先発登板2試合目に右ヒジ付近を痛めたことで早々に断念し、成績は0勝1敗、防御率37.80。速球のスピードが上がらず、制球も乱れていた。気持ちを切り替えて打者に専念するも、44試合に出場して打率.190と不発に終わった。
昨季はコロナ禍の影響で変則的な日程だったとはいえ、米メディアはまったく活躍できなかった大谷を批判した。特に二刀流の継続について、米スポーツメディア「ジ・アスレチック」は「(2021年シーズンも)試す価値はあるが、次に失敗をすれば投手としては終わる」と断言。
また、それまで二刀流肯定派だった地元紙「オレンジ・カウンティ・レジスター」のジェフ・フレッチャー記者も、「21年は、二刀流としてプレーする最後の年になるのではないか」と述べるなど、懐疑的な意見が増えていた。
しかし今季の大谷は、それらの意見をすべて覆すようなプレーを見せている。すでに昨季を上回る3試合に先発登板し、スプリットやスライダーなど変化球のキレは抜群で、並み居る強打者から多くの空振りを奪っている。昨季は速度が落ちていた自慢のフォーシームも最速163キロをマークするなど、全盛期と同じ速度まで戻ってきた。
さらに、先発で登板した試合のうち2試合で「2番・投手」として出場。これまでにない起用法だが、4月4日に本拠地エンゼルスタジアムで行なわれた今季初先発の試合では、第1打席で初球を本塁打にするなどファンを驚愕(きょうがく)させた。
このように調子がいい大谷を、現地はどう受け止めているのか。二刀流継続を批判していたメディア関係者に意見を求めてみた。
「自分の考えを改めざるをえません」
そう答えたのは、「ロサンゼルス・タイムズ」のマイク・ディジョバンナ記者だ。昨オフ、同氏は不調の大谷に対し、「投打のどちらかを選択したほうがいい」と言い切っていた。ところが、今季の大谷を見て、「投打の優れた能力をわれわれに示しました。見る側を楽しませてくれています」と評価を大きく変えている。
見方が変ったのはディジョバンナ記者だけでない。前出の「ジ・アスレチック」は、「二刀流の可能性を新たに示した」という見出しで記事を掲載。「今季初登板で素晴らしい復活を遂げた」と、以前とはまったく異なる意見を述べている。
ただ、昨オフに比べて二刀流に反対する声は小さくなっているものの、完全に消えたわけではない。昨オフ中に反対意見が湧き起こったのも右ヒジを痛めたことがきっかけだったが、大谷の健康状態は、「二刀流を継続するべきか」という議論で一番に上がる懸念事項だ。
今のところ、右手中指のマメ以外に目立ったケガはしていないが、大谷は二刀流としてメジャーの1シーズンを戦い切った経験がなく、フィジカルの強さに対する信頼度はまだ低い。しかも今季は、投打を分けることなく全試合に出場する、いわゆる「働きすぎ」の状態に米メディアからは心配の声が上がっている。
エンゼルス専門メディア「ヘイロー・ハングアウト」のアルフォンソ・セルナ記者は、「毎日起用するのはあまりにも酷。ジョー・マドン監督が自らコントロールすべきだ」とチームの起用法を批判。これまでのエンゼルスは二刀流で出場する大谷に対し、先発試合の前後で休養を与えていたが、今季はその処置が取られていない。
現在は出場を望んでいる大谷自身の意思が尊重されているとはいえ、希望を優先しすぎるチームの対応に疑問を抱く者も多くいるようだ。
実際に、5月2日の試合に打者で出場した大谷は、150キロを超える死球を右ヒジに受け、翌日に予定されていた先発登板を回避。幸い大事には至らず、打者として9本目の本塁打を放ったのは素晴らしいが、登板前にケガを負うリスクを如実に示した。
前出のディジョバンナ記者も、「今の起用を続けた場合、7、8月にツケが回ってくる可能性があります。疲労面を含めて、深刻なケガをする前に休養日を設けるべきです」と厳しく批判した。
大谷が再び故障したり成績が落ちたりすれば、二刀流に対する批判の声が再燃することは間違いない。「投打いずれかに専念させるべきだ」という意見が、昨オフよりも大きくなるだろう。
大谷がホームランを量産していることで、本塁打王のタイトル獲得に対するファンやメディアの期待度は増している。しかし、このまま投打で休みなくプレーを続けることは大きなリスクを伴う。今後も大谷が二刀流を続けられるか、二刀流として成功できるかはチームの管理能力が大きく左右する。エンゼルスは、メジャーリーグでも前例のない二刀流にどのような答えを出すのだろうか。
取材・文/澤 良憲 写真/共同通信社