マツダMX-30 EVモデルは何がイイの? 走りだよ!
マツダ初の量産電気自動車(EV)として2021年1月28日に国内投入された「MX-30 EVモデル」。見た目は先に登場したマイルドハイブリッドモデルとほとんど違いはないのだが、走らせてみると思わず顔がほころぶ胸のすく走りを披露してくれたのだ!
【画像ギャラリー】マツダ MX-30 EVモデル実写画像
マツダ車はニューモデルが出るたびに、志高く理想が語られる。
しかし現実は、なかなかそうは問屋が卸さない。そこで求道者のごとく、飽くなき改良がモデル末期近くまで続けられる。
「MX-30 EVモデル」でうたわれるのは、「マツダが大切にしている思いのままに操れる走行性能と、シームレスで滑らかな挙動を高次元に融合させるモーター制御技術を新開発」。そして、「誰もが純粋なドライビング体験を味わえる心地よいダイナミック性能を実現」(広報資料より)。ちなみに、MX-30は日本で2Lガソリンのマイルドハイブリッド車もラインアップするため、電気自動車(EV)はこれが正式な呼称になる。
試乗車はフル装備のトップグレード「EVハイエストセット」だ。495万円の価格はくしくもホンダeアドバンスと同じ。BMW i3のベーシックモデルに4万円差と肉薄する。マツダR&Dセンター横浜を拠点に、首都高速道路・神奈川線と一般道を走った。
そして、ついに“その時”がやってきたのかもしれない。
ドライバーの意思がリニアにつながる加速感
前輪を駆動するモーターは145馬力・27.5kgmを発揮する。この最大トルクはプラットフォームを共用するCX-30の1.8Lクリーンディーゼルと同じ。ガソリンエンジンなら2.7L NA相当だ。一方、車重はMX-30のほうが200kg近くも重い。
しかし、走りが実際の車重をまるで感じさせないのは、今どきのEVの常識。発進の瞬間から最大値に達するモーターならではのトルク特性、アクセルペダルを踏み込む速度と量に応じた極めてリニアなレスポンスが、その要因だ。パワーユニットの振動はもちろん存在しない。
さらに、マツダらしいのは急加速のフィーリングだ。最高出力は145馬力で2Lガソリンに及ばないものの、パワーの伸び感は数値以上。日産リーフやホンダeなどに比べれば最大トルクが低いため、相対的にそう感じられるのかもしれないが、ついつい回してパワーを楽しみたくなる伸びやかさは、滑らかなガソリンエンジンさえほうふつとさせる。
スピーカーから発する、さりげない“EVサウンド”
逆に意外だったのは、モータートルクに同期した音を発生させるEVサウンド。いかにも!という演出を予想していたものの、これがじつにさりげない。アクセルの踏み込みに応じて音質と音量が変化するようだが、急加速でもエンジンのような疑似音がそこはかとなく高まる程度。もの足りなく感じたのは、もっと聞きたい“いい音”だったからか!?
とはいえ、サウンドの選択肢もオン・オフも設けない一本気なところは、やっぱりマツダらしい。
パドルシフトで走りが軽くなる!?
ステアリングにはアクセルペダルの特性を変えられるパドルシフトも搭載する。Dがデフォルトで、左(-)/右(+)それぞれ2段ずつ、計5段階設定。左パドルを引けば回生減速が強くなり、ワンペダル感覚のドライビングを楽しめる。それでいて、急激なアクセルのオン・オフでもボディはピッチ方向の姿勢変化が気にならず、フラット感を保ち続ける。街中やワインディングで効果的。ただ、駐車時などの扱いやすさを考慮してクリープを出すため、アクセルのみで停止はできない。
マツダのこだわりは右パドル。回生が弱くなるだけでなく、加速度が高くなる。これは高速巡行や上り勾配で一定車速が保つのに重宝しそうだ。こうした車速と車両姿勢の緻密なコントロールを実現する独自の電動モータートルク制御を、マツダは「モーターペダル」と呼んでいる。
乗り心地はマツダ車で最上級
ダイナミック性能の仕上がりはさらに新鮮で、あぜんとするほどすばらしいらしい。
まず、乗り心地が驚くほど上質だ。サスがしなやかそのもののストロークで、路面の細かい凹凸をきれいに吸収する。マツダ車が苦手とする首都高の路面段差も、乗り越しのショックはほとんど気にならない。タイヤはMX-30のガソリン車と同じで、後輪の空気圧はむしろEVモデルのほうが高い。しかし、同時に乗り比べると、CX-30よりいっそう快適性を高めたはずのガソリン車が、足まわりの細かい振動によって古臭く感じられるほど。
静粛性についても、ほぼ申し分のないレベルだ。欲を言えば舗装の粗い路面でロードノイズをもう少し抑えたいが、EVの静寂を乱すことはない。
ボディはバッテリーケースを環状構造の一部として活用し、フロアを中心に剛性が大きく向上。車重増に合わせてサスペンションも強化されているが、土台のボディがいっそう強固になったことで、とにかく足がよく動く。バッテリーケースとボディの締結剛性は、ロードノイズ低減にも貢献。エンジンの振動を考える必要がなくなったパワートレーンのマウントも、快適性と走りの両面で有利に働く。
濃密な「人馬一体」感が得られるハンドリング
ハンドリングは洗練さと一体感に満ちあふれている。電動パワーステアリングは操舵感がガソリン車よりさらに滑らかで上質。舵をゆっくり入れればフロントは穏やかにレーンチェンジし、素早く切れば鋭敏に向きを変える。車両の姿勢は、やはりフラットで安定したままだ。
何と表現したらいいのか。自分の指先の神経がステアリングにつながり、意志がクルマに伝わっているような、そんな濃密な人馬一体感。車速域や道路状況にかかわらず、自分の運転がうまくなったように感じる。
EVで極めた!? 専用制御のGVCプラス
バッテリーの床下搭載がもたらす低重心を含め、ハードウェアの基本性能はもちろん向上している。そのうえで、ここでも重要な役割を果たしたのがEVならではの車両運動制御。エレクトリックGベクタリングコントロールプラス(e-GVCプラス)だ。
エンジン車のGVCはアクセルオンのままステアリングを切り込む際、エンジントルクをわずかに落として前輪の荷重を増やし、ステアリングレスポンスを高める。それがエンジンでなくモーターなら、トルクダウンの速度や量は設定が自由自在。さらにはコーナー進入のアクセルオフでも、回生によってトルクダウンと同じ効果が得られる。
またコーナー脱出では、モーターの微細なトルクアップによって荷重を後輪に移し、旋回挙動を安定させることが可能だ。ステアリングを素早く戻す際、ブレーキ制御でリヤの挙動変化を抑えるGVCプラスもエンジン車と同じく搭載。EVモデルはモータートルクと協調で作動する。
このように、e-GVCプラスによって荷重移動を自在かつ緻密にコントロールし、前後・左右・上下方向のシームレスなG変化を実現。MX-30 EVモデルはEVのダイナミック性能に秘めた可能性と新たな魅力をまざまざと示した。現在市販されているEVをすべて試したわけではないが、まるで心が洗われるように気持ちいいと感じたのは、これが初めて。いつまでも走っていたい衝動に駆られる。
「もっと走りたい」のに走れない電池容量が惜しい
しかし、リチウムイオンバッテリーの容量は、これまたホンダeと同じ35.5kWh。WLTCモードの一充電走行距離256kmで、街なかベストに特化したホンダeより少ない。走り方にもよるが、電費に不利な冬場の高速巡行では200kmも走らないだろう。ロングドライブもきっと快適に違いないが、頻繁な充電の手間と時間を覚悟する必要がある。また、ロードスターより低い130mmの最低地上高も、一般的なSUVとは大きく異なる。
フリースタイルドアのパッケージや価格を含め、こうした点を併せ呑むことができるなら、MX-30 EVモデルは買い!だ。
マツダMX-30 EV車のベンチマークはディーゼル!? バッテリー容量を「35.5kWh」に設定した理由
究極レベルの「人馬一体」を体験する価値あり
エンジン車にこだわり続け、ダイナミック性能では高みを目指した苦心惨憺がなかなか報われないマツダが、ようやく手にしたEVで走りの理想像を一気に具現化したのは、皮肉とも言える。それでも、とにかくマツダが実現したかった究極レベルの人馬一体が、この一台に集約されている。EVに少しでも興味があるなら、ぜひともディーラー試乗をお薦めしたい。
そして、EVモデルの研究・開発で得られた知見は、またエンジン車に注ぎ込まれるのである。
マツダ初の量産EV「MX-30 EVモデル」が発売。価格は451万円から。バッテリー容量は35.5kWh!航続距離は256km(WLTCモード)
〈文=戸田治宏 写真=佐藤正巳〉
【画像ギャラリー】マツダ MX-30 EVモデル実写画像
マツダ車はニューモデルが出るたびに、志高く理想が語られる。
しかし現実は、なかなかそうは問屋が卸さない。そこで求道者のごとく、飽くなき改良がモデル末期近くまで続けられる。
「MX-30 EVモデル」でうたわれるのは、「マツダが大切にしている思いのままに操れる走行性能と、シームレスで滑らかな挙動を高次元に融合させるモーター制御技術を新開発」。そして、「誰もが純粋なドライビング体験を味わえる心地よいダイナミック性能を実現」(広報資料より)。ちなみに、MX-30は日本で2Lガソリンのマイルドハイブリッド車もラインアップするため、電気自動車(EV)はこれが正式な呼称になる。
試乗車はフル装備のトップグレード「EVハイエストセット」だ。495万円の価格はくしくもホンダeアドバンスと同じ。BMW i3のベーシックモデルに4万円差と肉薄する。マツダR&Dセンター横浜を拠点に、首都高速道路・神奈川線と一般道を走った。
そして、ついに“その時”がやってきたのかもしれない。
ドライバーの意思がリニアにつながる加速感
前輪を駆動するモーターは145馬力・27.5kgmを発揮する。この最大トルクはプラットフォームを共用するCX-30の1.8Lクリーンディーゼルと同じ。ガソリンエンジンなら2.7L NA相当だ。一方、車重はMX-30のほうが200kg近くも重い。
しかし、走りが実際の車重をまるで感じさせないのは、今どきのEVの常識。発進の瞬間から最大値に達するモーターならではのトルク特性、アクセルペダルを踏み込む速度と量に応じた極めてリニアなレスポンスが、その要因だ。パワーユニットの振動はもちろん存在しない。
さらに、マツダらしいのは急加速のフィーリングだ。最高出力は145馬力で2Lガソリンに及ばないものの、パワーの伸び感は数値以上。日産リーフやホンダeなどに比べれば最大トルクが低いため、相対的にそう感じられるのかもしれないが、ついつい回してパワーを楽しみたくなる伸びやかさは、滑らかなガソリンエンジンさえほうふつとさせる。
スピーカーから発する、さりげない“EVサウンド”
逆に意外だったのは、モータートルクに同期した音を発生させるEVサウンド。いかにも!という演出を予想していたものの、これがじつにさりげない。アクセルの踏み込みに応じて音質と音量が変化するようだが、急加速でもエンジンのような疑似音がそこはかとなく高まる程度。もの足りなく感じたのは、もっと聞きたい“いい音”だったからか!?
とはいえ、サウンドの選択肢もオン・オフも設けない一本気なところは、やっぱりマツダらしい。
パドルシフトで走りが軽くなる!?
ステアリングにはアクセルペダルの特性を変えられるパドルシフトも搭載する。Dがデフォルトで、左(-)/右(+)それぞれ2段ずつ、計5段階設定。左パドルを引けば回生減速が強くなり、ワンペダル感覚のドライビングを楽しめる。それでいて、急激なアクセルのオン・オフでもボディはピッチ方向の姿勢変化が気にならず、フラット感を保ち続ける。街中やワインディングで効果的。ただ、駐車時などの扱いやすさを考慮してクリープを出すため、アクセルのみで停止はできない。
マツダのこだわりは右パドル。回生が弱くなるだけでなく、加速度が高くなる。これは高速巡行や上り勾配で一定車速が保つのに重宝しそうだ。こうした車速と車両姿勢の緻密なコントロールを実現する独自の電動モータートルク制御を、マツダは「モーターペダル」と呼んでいる。
乗り心地はマツダ車で最上級
ダイナミック性能の仕上がりはさらに新鮮で、あぜんとするほどすばらしいらしい。
まず、乗り心地が驚くほど上質だ。サスがしなやかそのもののストロークで、路面の細かい凹凸をきれいに吸収する。マツダ車が苦手とする首都高の路面段差も、乗り越しのショックはほとんど気にならない。タイヤはMX-30のガソリン車と同じで、後輪の空気圧はむしろEVモデルのほうが高い。しかし、同時に乗り比べると、CX-30よりいっそう快適性を高めたはずのガソリン車が、足まわりの細かい振動によって古臭く感じられるほど。
静粛性についても、ほぼ申し分のないレベルだ。欲を言えば舗装の粗い路面でロードノイズをもう少し抑えたいが、EVの静寂を乱すことはない。
ボディはバッテリーケースを環状構造の一部として活用し、フロアを中心に剛性が大きく向上。車重増に合わせてサスペンションも強化されているが、土台のボディがいっそう強固になったことで、とにかく足がよく動く。バッテリーケースとボディの締結剛性は、ロードノイズ低減にも貢献。エンジンの振動を考える必要がなくなったパワートレーンのマウントも、快適性と走りの両面で有利に働く。
濃密な「人馬一体」感が得られるハンドリング
ハンドリングは洗練さと一体感に満ちあふれている。電動パワーステアリングは操舵感がガソリン車よりさらに滑らかで上質。舵をゆっくり入れればフロントは穏やかにレーンチェンジし、素早く切れば鋭敏に向きを変える。車両の姿勢は、やはりフラットで安定したままだ。
何と表現したらいいのか。自分の指先の神経がステアリングにつながり、意志がクルマに伝わっているような、そんな濃密な人馬一体感。車速域や道路状況にかかわらず、自分の運転がうまくなったように感じる。
EVで極めた!? 専用制御のGVCプラス
バッテリーの床下搭載がもたらす低重心を含め、ハードウェアの基本性能はもちろん向上している。そのうえで、ここでも重要な役割を果たしたのがEVならではの車両運動制御。エレクトリックGベクタリングコントロールプラス(e-GVCプラス)だ。
エンジン車のGVCはアクセルオンのままステアリングを切り込む際、エンジントルクをわずかに落として前輪の荷重を増やし、ステアリングレスポンスを高める。それがエンジンでなくモーターなら、トルクダウンの速度や量は設定が自由自在。さらにはコーナー進入のアクセルオフでも、回生によってトルクダウンと同じ効果が得られる。
またコーナー脱出では、モーターの微細なトルクアップによって荷重を後輪に移し、旋回挙動を安定させることが可能だ。ステアリングを素早く戻す際、ブレーキ制御でリヤの挙動変化を抑えるGVCプラスもエンジン車と同じく搭載。EVモデルはモータートルクと協調で作動する。
このように、e-GVCプラスによって荷重移動を自在かつ緻密にコントロールし、前後・左右・上下方向のシームレスなG変化を実現。MX-30 EVモデルはEVのダイナミック性能に秘めた可能性と新たな魅力をまざまざと示した。現在市販されているEVをすべて試したわけではないが、まるで心が洗われるように気持ちいいと感じたのは、これが初めて。いつまでも走っていたい衝動に駆られる。
「もっと走りたい」のに走れない電池容量が惜しい
しかし、リチウムイオンバッテリーの容量は、これまたホンダeと同じ35.5kWh。WLTCモードの一充電走行距離256kmで、街なかベストに特化したホンダeより少ない。走り方にもよるが、電費に不利な冬場の高速巡行では200kmも走らないだろう。ロングドライブもきっと快適に違いないが、頻繁な充電の手間と時間を覚悟する必要がある。また、ロードスターより低い130mmの最低地上高も、一般的なSUVとは大きく異なる。
フリースタイルドアのパッケージや価格を含め、こうした点を併せ呑むことができるなら、MX-30 EVモデルは買い!だ。
マツダMX-30 EV車のベンチマークはディーゼル!? バッテリー容量を「35.5kWh」に設定した理由
究極レベルの「人馬一体」を体験する価値あり
エンジン車にこだわり続け、ダイナミック性能では高みを目指した苦心惨憺がなかなか報われないマツダが、ようやく手にしたEVで走りの理想像を一気に具現化したのは、皮肉とも言える。それでも、とにかくマツダが実現したかった究極レベルの人馬一体が、この一台に集約されている。EVに少しでも興味があるなら、ぜひともディーラー試乗をお薦めしたい。
そして、EVモデルの研究・開発で得られた知見は、またエンジン車に注ぎ込まれるのである。
マツダ初の量産EV「MX-30 EVモデル」が発売。価格は451万円から。バッテリー容量は35.5kWh!航続距離は256km(WLTCモード)
〈文=戸田治宏 写真=佐藤正巳〉