純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

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「おい、どうすんだよ? 大将、もう乗り込んじゃってるぞ」
「そりゃ、御大が御機嫌なのもわかるけどさ」
「ここんところ、手紙もめっきり減ってたからなぁ」
「少子高齢化のせいか?」
「それだけじゃないだろ。ちかごろの子どもは夢も見ない」
「まあ、現実が現実だからな。自分の先が見えちゃってるし」
「だけど、なんで火星から……」
「よく知らないけど、あっちで地球ブームらしいよ」
「こっちでも、火星は最先端だもんなぁ」
「何年前だっけ、あのタコみたいな連中が突然にやって来たのは?」
「おいおい、タコって、それ差別だぞ。そんなこと言うと、連中にサルみたいって言われるぞ」
「いや、だけどさ、ほんとに絵に画いたみたいなすがたかたちじゃないか」
「まあ、実際、タコかなにかから進化した異人類らしいからね」
「とにかく友好的でよかったよ」
「それにしても、サンタに手紙を書くなんて、ずいぶんレトロだな」
「そういうのがいいんじゃないのか。ハイテクなのは、あっちの方が進んでるし」
「ああ、さっき着いた迎えのロケットだって、とんでもない高性能だもんなぁ」
「もう経済や産業じゃ、火星にかなわないよ」
「いよいよ地球はもう夢も希望も無いな」

「で、どうすんだよ? いそがないと」
「いや、だって、どうしたらいいんだよ、火星人だぞ」
「たしかに…… 連中の生活だってよく知らないのに、火星人の子どもの好みなんかわかるわけがないな」
「やっぱりゲームとかアニメとかかなぁ」
「どうだろね。でも、宇宙で戦っちゃうのとか、まずいだろう?」
「そりゃダメだ。せっかく手紙をくれたのに」
「そうだ、手紙! 手紙になんて書いてあったんだ?」
「さあ? だいいち、あれ、火星語でさ」
「え、そうなの? じゃぁ、なんで内容がわかったの?」
「だって、子どもの字だし、この時期にサンタに手紙ったら、プレゼントのお願いに決まってる」
「だけど、それなら、プレゼントに何々がほしいって、書いてあったはずだぜ」
「まあ、そうなんだろうけれど……」
「機械翻訳とか、なんとかならないの?」
「そんなの、とっくにやったよ! だけど、誤字脱字だらけらしくて、ぜんぜん意味がわからない……」
「いや、こまったな……」
「うーん、こまった……」

「あ!」
「なに?」
「おい、迎えのロケット、来てるんだろ。そのパイロット、火星人なんだろ」
「あ、そうだ。たしかにタコみたいなやつが乗ってた」
「おい、タコって言っちゃダメだって」
「ごめん、ごめん」
「なんにしても、あの人、すぐ呼んでこよう」
「うん、でも、言葉が通じるかなぁ……」

「コンニチハ、ハジメマシテ。オ目ニカカレテ光栄デス。ナニカ用デスカ?」
「いや、よかった、地球語ができて」
「オソレイリマス」
「いやいやいや、そんな地球語を使われると、こっちがおそれいりますよ」
「私ノ地球語、変デスカ?」
「いや、そんなことはないけれど」
「私、地球ニ来タクテ、向コウデ熱心ニ地球語ヲ学ビマシタ」
「ああ、なんかはやってるらしいですね」
「エエ、地球ハ大人気デス。地球ハマダ自然ガ豊カニ残ッテイマス」
「あ、そうなの、うれしいなぁ」
「いや、それ、原始的で遅れてる、っていう意味じゃないの?」
「イヤ、自然ハ大切デス。自然ヲ守ル地球人ハ偉イデス」
「うーん、まだいろいろ文化的な誤解もあるようだけど」
「いや、それよか、あれ」
「あ、そうだ、ねぇ、これなんだけど」
「子ドモノ手紙デスカ。火星語デスネ」
「そうなんだよ。それで、うちの大将がそっちに行くことになったんだ」
「アア、事情ハワカリマシタ。ソレデ私ガさんた様ヲオ迎エニ参サセテイタダイタワケデスネ」
「まあ、そうなんだけど、これ、なんて書いてある?」
「さんたサン、火星ニ来テクダサイ。楽シミニ待ッテイマス。チョット字ガマチガッテイマスガ、ソウ書イテアリマス」
「それだけ? なにかほしいものとか、書いてない?」
「イエ、ソレシカ……」
「うーん……」
「あのさ、じゃ、一般論として、火星の子どもって、どんなものが好き?」
「エー、ソウデスネ、ぬじゃめっとらトカ、ほむかっとむトカ、ソンナノガ、今、子ドモタチニ人気デスカネ」
「えーと、ヌジャメットラって……」
「いやいや、聞いたのがまちがいだった。どのみち、そんなもの、ここに無いよ」
「まぁ、そうだな」

「あのさ、クリスマスってわかる?」
「エエ、さんた様ガぷれぜんとヲクレルトカイウ地球ノ祭礼デスネヨネ。私ガオ迎エニ参ッタノガ、ソノさんた様デスヨネ」
「うん、まあ、そんなところなんだけれど。それで、サンタさんだけじゃなくて、火星の子どもたちにプレゼントも載せてってほしいんだけど」
「エエ、カマイマセンヨ」
「で、なにがいい?」
「エ? サア…… 私モ地球ニ来タノハ初メテデ、地球ニドンナモノガアルノカ、ヨク存ジアゲテオリマセン」
「あー、そうか、そうだよね……」
「……ナンニシテモ、さんた様ガイラッシャッテクダサルトイウダケデ、ミナ大喜ビダト思イマス。モシぷれぜんとマデイタダケルノデアレバ、地球ノモノハ、ナンデモトテモ珍シク、アリガタガラレルノデハナイノデショウカ」
「ああ、そうか、こっちのもの、っていうだけでいいんだ」
「タダ、タイヘン恐縮ナガラ、めかにかるナオモチャハ、火星デモイロイロアリマス。素朴デ自然ナノガ、地球ラシクテヨロシイノデハナイカト……」
「ゲーム機みたいなのは、そりゃきっと火星のほうがすごいよね」
「となると、逆に昔ながらの木のおもちゃみたいなのがいいのか」
「おい、それなら、倉庫にいっぱいあるぞ」
「いや、よかった。さっそく積み込もう!」

「アノ……」
「え、なにかまだ問題がある?」
「コノ手紙、イツ届キマシタカ?」
「先月だったかなぁ」
「送ッタノハモット前カ……」
「それがどうかしたの?」
「アナタガタハ、火星ノコトヲ、ドレクライゴ存ジデスカ?」
「火星のこと? いや、ごめん、不勉強で……」
「火星ノ自転ハ24時間チョットト、ホボ地球ト同ジ昼ト夜ガアリマス。マタ、地軸ガ傾イテイルノデ、地球ト同様、季節モアリマス。デモ、地球ヨリ外側ナノデ、一年ガ地球ノ二年弱ト長イ。ソシテ、季節ガ一周スルクライガ、火星人ノ寿命デス」
「え、火星人は二年足らずで死んじゃうっていうこと?」
「エエ、私タチノ人生ハ短イ。火星人ハ、頭足類系ナノデ、地球人ノ四十倍ノ速サデ成長シ老化スルノデス」
「一日に一月以上の価値があるということか……」
「ダカラ、私タチハ若イウチニ、イッパイ勉強シマス。時間ガ無インデス。私モ、地球語ヲ、コノ一週間デ必死ニますたーシマシタ」
「遊んでいるヒマなんかないよね」
「イエ、時間ガ限ラレテイルカラ、遊ブトキモ本気デナイト」
「ムダにダラダラ過ごしてたら、二年の一生なんて、あっという間だもんなぁ」
「あれ? そうか、この手紙を書いてくれた子も、この数ヶ月で、十歳分くらい大きくなっちゃっている、っていうこと?」
「ソウナンデス。カンタンニハ見ツカラナイカモシレナイ」
「サンタのことも、手紙を書いたことも、忘れてしまっているかもな」
「イエ、ソンナコトハアリマセン。絶対ニ覚エテイマスヨ。タトエ彼ガ見ツカラナクテモ、彼ガ手紙ヲ書イタコトハ、ミンナガ覚エテイマス。私タチハ、夢ヲ引キ継ギマスカラ」
「夢を引き継ぐ?」
「ホラ、コノろけっと、ドウヤッテデキタト思イマスカ?」
「そりゃ、優秀な火星人なら、ちゃちゃっと」
「ソンナ手品ミタイナコトガデキルナラ、苦労シマセン。コレヲ作ルダケデ、地球時間ト同ジク、ヤッパリ二十年クライカカッタンデス。マシテ、隣ノ地球ニ、アナタガタノヨウナ友人ガイルコトガワカッテカラ、イツカ訪レヨウト計画シテ、モウ百年デス。寿命ノ短イ私タチニ、ソレガドレダケタイヘンナコトカワカリマスカ」
「つまり、数百世代が同じ夢を引き継いで実現してきたということ?」
「エエ、大キナ夢ハ、一人一代ダケデハカナエラレナイ。地球ノ方々ガ、私タチ火星人ヲ頭でっかちナンテ言ッテイルノモ知ッテイマスガ、昔ノ人ノ夢ヲ大切ニ預カッテイルカラ、キットコンナ姿ナンデスヨ、ははは」
「いやいや、頭デッカチだなんて」
「おいおい、おまえ、タコって言ってただろ」
「イエ、イインデスヨ、オ気ニナサラズ」
「すいませんね、ほんとうちら、いまだに性根がサルのまんまなもんで」

「それよか、ごめんな、時間が無いのに、こんなところでムダ話させて。いますぐプレゼントを積むから。あれもさ、昔の人たちが子どもたちのためにていねいに作ってきたものなんだ。今の地球の子たちには、あんまり喜んでもらえないようだけれど、でも、火星の子どもたちに大切にしてもらえれば、いや、これからクリスマスもいっしょに引き継いでもらえれば、きっとうちの大将も喜ぶし、私たちも楽しみだよ」
「エエ、ゼヒソウサセテクダサイ」

「おい、ぼっとしてないで、さっさと運べよ」
「ああ、そうか、時間が無いんだったな」
「なんか考えごとか?」
「いや、おれ、火星語、始めてみようかな、と思って」
「おいおい、やめとけ。あのパイロットみたいな優秀な火星人じゃないんだから、おまえなんかじゃ、モノにならないよ」
「それはわかってる。でもさ、おれが片言でも始めたら、ほかのだれかが興味をもって、もっと勉強するかもしれないだろ。そしたら、それを知ったもっとすごいやつが、いつか通訳になれるかもしれないだろ」
「ああ、さっきの夢を引き継ぐっていう話か。まあ、語学でも、科学でも、芸術でも、スポーツでも、みんな最初はそんなもんだったんだろうからね」
「考えてみれば、クリスマスも似たようなものだろ。だれかが最初にサンタの夢を見て、それがずっといまも続いてる」
「ああ、そうだな、地球でも、宇宙でも、その夢がずっと続くといいな」
「うん、そう願っているよ」


2019年のクリスマスのお話 「北極の秘密基地にて」

2018年のクリスマスのお話 「サンタ、少子化問題に取り組む」

2017年のクリスマスのお話 「コンビニはクリスマスも営業中」

2016年のクリスマスのお話 「クリスマスケーキにロウソクはいらない?」

2015年のクリスマスのお話 「クリスマスの夜、サービスエリアで」

2014年のクリスマスのお話 「なぜサンタは太っているのか」

2013年のクリスマスのお話 「最後のクリスマスプレゼント」

2012年のクリスマスのお話 「サンタはきっとどこかにいると思うんだ」