5Gは使えるのか? 「28GHz帯」が抱える2つの壁「エリア」と「人体影響」とは

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昨今、通信プランの料金見直しで、総務省とせめぎ合いを繰り広げているケータイ各社。
しかしもっとも力を入れたいところ、注力しなければいけないのが、
5G」(ファイブ・ジー)と呼ばれる新世代の通信技術だ。

5G通信は数年前から、世界が変わるほどの技術革新と叫ばれ、夢のような未来がうたわれてきた。
そしてようやく2020年の春、満を持して日本でもサービスがスタートした。

iPhoneの最新モデルも5Gに対応し、続いてAndroidスマートフォンも続々と5G対応機種が発売されている。
連日、テレビCMでも繰り返し叫ばれているので、誰でも耳にしたことがあるだろう。

しかし現実には、それほど騒がれていても「まだほとんど使えない」という実情がある。
さらに「5Gの電波は人体に危険なのでは?」という噂もずっとささやかれてきた。

本当に5Gは夢の通信技術なのか。今、5Gは使えるのか、確かめてみよう。


5Gは、何が「夢の技術」なのか
5Gが夢の通信技術かどうかは、通信速度を比べれば一目瞭然だ。

5G → 20Gbps(理論上)
・4G → 1Gbps

現在はサービスが始まったばかりで、5Gの最大通信速度(受信)は4Gbps程度だが、理論上は20Gbps程度まで向上できるとされている。
4Gが1Gbps程度までが限界だったことを考えれば、圧倒的な速度で通信できることがわかる。

この通信速度を利用すれば、これまでできなかったことがいろいろとできるようになる。
個人の範囲では
・動画のダウンロードがあっという間に完了する
・VRでスポーツ中継も楽しめる
この程度のことかもしれないが、個人以外の利用をみると大きな違いがでる。

特に期待されているのが遠隔医療だ。
・遠隔地の診療所ではできない手術も、都市の大病院から専門医がリモート操作で命を救える
このようなことができるようになる。

ほかにも、
・ファクトリーオートメーション
・自動運転カー
・スマートシティ(スマートタウン)
など、これまで人類が描いてきた未来が、5Gでグッと近くなることは間違いない。


●高速化に不可欠な電波が届かないという現状
これだけ毎日5Gと耳にしていれば、今すぐにでも試してみたいところだが、
実際のところ、使えるエリアはまだほとんどない。

しかも、「この建物の周辺だけ」といった、きわめて限られた範囲でしか使えない。


ドコモのWebサイトに掲載されている5Gエリアマップ。現状(2020年12月現在)では赤色のわずかな場所だけで5Gが使えるに過ぎない。


5Gでは3.7GHz帯、4.5GHz帯のこれまでと近い周波数帯に加えて、高速化の実現に不可欠な28GHz帯というかなり高周波数帯の電波を使う。
しかし、この28GHz帯の電波を全国くまなく届けるためには、大きな壁がある。

高周波数帯の電波は多くの情報を運べるメリットがある一方で、真っ直ぐに進みたがる。
このため建物や壁などに当たると避けられず、その先まで届きにくい。
つまり、5Gではータイ各社が基地局を短い間隔で多数設置する必要があるのだ。

今までの基地局だけではまったく足りず、基地局の増設だけでもまだかなりの時間がかかる。
これが5Gの普及を遅くしているもっとも大きな要素である。

「スマートフォン本体はとっくに対応しているのに、5Gを使えるエリアがない」
こんなやきもきする現象が起きているのだ。

キャリアのエリア情報を見てもわかるように、
5Gで通信できる場所はまだほとんどない
しかも、
・エリア内でも地下までは電波が届かない
こんな状況なのだ。

キャリア各社はエリア拡大を急いでいるが、実用的に使えると感じるようになるまでは、まだ年単位での時間がかかるかもしれない。

実際、まだ一般の人が焦って5Gに飛びつく必要はない。
5Gの通信エリアが広がれば「夢」も広がるのかもしれない。
しかし今の段階では正直なところ
5Gはまだ使えない」
こう思っておいたほうが賢明だろう。


●「ミリ波」の人体影響問題
もう1つ、5Gが別の意味で「使えない」と語られ、普及を阻む「噂」がある。
それは5Gが人体に悪影響があるという「噂」だ。

これがもし本当だとすれば、エリアが広がったところで使う気にはならないだろう。

そもそも電波が人体に悪影響を及ぼすといった話は、かなり以前から言われている。
電波はエネルギーを持っている。電波が壁を通り抜けるように人体の内部に入れば、エネルギーによって何らかの影響があることはほぼ間違いない。

中でも5Gで使われる28GHz帯の電波は「ミリ波」と呼ばれ、これまでの携帯電話の電波よりも高いエネルギーを持つため、前述のような「噂」が流れ、一部の人の間で「不安」を煽っているというわけだ。


5Gの低周波帯や4Gではマイクロ波が使われているが、5Gには28GHz帯のミリ波も使われる。


しばしばミリ波は人体に対して
・日焼けのような細胞の損傷や癌の発生
・目の水晶体の損傷
・DNAの損傷
・免疫の低下
・脳の発達の遅れ
こうした影響などが指摘され、散々な目に遭っている。

果たして28GHz帯のミリ波には、本当にそれほどの悪影響があるのだろうか?

実際に、悪影響があると判断し、5Gの使用を停止した国(スイスなど)もある。
こうしたニュースを聞くと、誰しも怖くなる。
このため5G通信に対して漠然とした「不安」を都市伝説のように抱える傾向は世界各国の中にも存在している。

結論から言えば、
「スマートフォンで使用する程度の出力であれば、すぐに影響が出ることはない」
こう判断するのが妥当なところだろう。

ただ「すぐに」という条件がつくのは、
5Gの電波を長期にわたって使った実験結果」
これが現時点では、どこにも存在しないからだ。

現時点での判断は、あくまで理論上や過去の分析から導きだされた結論であり判断である。

もちろん電波の強さには、安全基準が定められている。
比吸収率(SAR=Specific Absorption Rate)という値で示され、簡単に言えば電波が人体に当たったときに吸収されるエネルギー量を数値化したものだ。

またスマートフォンは人体の近くで使うため「局所SAR」という値を用いられている。
日本では「局所SARが2W/kg以内」と定められている。

これは人体に影響が出る可能性があるとされるレベルの1/50程度で、この数値を守っていれば悪影響はないと考えてもよいだろう。

5Gが今使えるのか、といえばエリアがほとんどなく、現実的にはまだ使えるとは言いがたい。
しかし今後、5Gが利用できるエリアが広がれば誰でもいつでも繋がるようになる。
そして基準を厳守されて利用されれば、
本当に「心配なく使える技術」となるはずだ。

はやく我々の生活を便利にする最先端の技術を目にしたいものだ。
とはいえ5Gの未来となる「6G」の技術開発も、すでに開始されていることも付け加えておこう。


執筆 八木重和