純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

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ひろゆきとかいうやつが、したり顔で、「東大は努力より親のカネ」などと言っているのを聞いて、だからおまえは、と思った。

東大生の親は金持ちだ、というのは、統計的な事実かもしれない。しかし、この相関関係から、親が金持ちだから東大生になれた、という因果関係を導き出すのは、論理的にまちがっている。これは、英国の哲学者ヒュームなどが言う経験主義者の誤謬。

もし相関から因果を導く演繹が許されるなら、子どもが東大生だから親が金持ちになれた、という逆の因果関係も言えてしまう。実際、昔の中国では、息子が科挙に合格すると、その出世と人脈にみなが先行投資して、親に大金が集まった。

そもそも、年収一千万の親の子より、年収二千万の親の子の方が合格率が高い、そして、年収三千万の親の子の方がさらに合格率が高い、というのであれば、年収と合格率の相関関係が言えるが、そんなデータは無い。つまり、年収と合格率の相関関係そのものからして根拠が無い。

あるのは、世間では年収950万以上が22%にすぎないのに対して、東大生の家庭は54.8%である、というデータだけ。しかし、そもそも東大は、東京の地元より、地方出身者が多い。そして、首都圏私立大学生の家庭の平均年収でも、942万5000円(東京私大教連, 2019)。五月1ヶ月の仕送り額だけで、バブル期の15,1200円(1994)よりかなり下がったとはいえ、いまだに月97,700円(2019)。

つまり、東大に合格できるかどうか以前に、地方から東京の大学に子どもを送り込むだけで、やはり950万以上の家庭年収がないと、かなりきびしい。東大生の家庭の過半数の年収が950万円以上というデータは、950万以上の年収があるから、東大に合格できた、のではなく、それくらいの年収がないと、東大だろうと、他の私立だろうと、そもそも家賃や物価が法外に高い東京に子どもを送り込めない、ということを示しているにすぎない。

もっとクリティカルな問題は、年収が二千万でも、三千万でも、カネさえあれば、東大に合格する、というわけではない、ということ。つまり、地方から東京の大学に行かれる(東京で一人暮らしをさせられるだけの仕送りができる)というところに大きな家庭環境の足切りがあり、そこから先、東大に合格するか否かは、まったくの学力問題となる。

いや、でも、金持ちは、子どもの時から塾に通わせて、中高一貫の私立の進学校に入れて、うんぬん、と言うかもしれないが、これまた進学校に行ったからと言って、それで東大に合格できるわけではない。進学校出身の大半は、結局、東大を落ちるのだ。もちろん、普通校よりは進学校の方が合格率が高いかもしれない。しかし、それは中学受験ですでにかなり厳しい学力選抜が行われているからで、これまた、かならずしも、進学校に行ったから合格できた、という因果関係は証明できない。

東大の同期に、友人の泉房穂くんがいる。明石市長として、市民の強い支持を得て、独創的で画期的な政策で大きな成果を上げている。知ってのとおり、彼の家はそれほど余裕が無かった。だが、彼は、自力で東大に合格した。いや、彼だけではない。三畳一間の下宿から教授になった学友もいる。あえて辺境の故郷に帰り、清貧な牧師として地域に尽くしているやつもいる。

思うに、いちばんダメなやつは、東大に入るのは親のカネの力だ、などと言って、ハナをほじりながら、マンガを読んで、ネットに僻みを書き込んでいるやつ。だが、親の環境のおかげで東大に入れたことだけがウリで、クイズやナンパに明け暮れ、IT長者だか、テレビタレントだかになろうと浮わついているやつも、やはりモノにはならない。

あれだけ莫大な国費が投入されている大学だ。教授たちはもちろん、研究施設、図書館、そして人脈まで、あまりにも恵まれている。その価値、そして社会の期待と責任の意味もわからないなら、人間としてバカも同然。結局、東大は、入ればいいというところではない。そこで学びたいことがあり、自分の使命を思って勉学に励む者だけが、東大生になれる。

さあ、年明けには、試験だ。合否には運もあるが、先はどうあれ、若いときの努力はぜったいにムダではない。ハナをほじって、マンガを読んでいるだけで、戦わないやつらの戯れごとに心を惑わすな。カネのことは、いまは心配する必要はない。合格しさえすれば、東大には、県人会や財団など、数多くの純粋な渡し切り奨学金制度がある。こんな時代だからこそ、明日の日本、将来の世界を担う人材が求められている。あと数ヶ月、ここからが勝負。自分に負けるな!

(家に余裕はないが、本気で勉強したい、東大に入りたい、と思うなら、いくらでも道はある。布施川天馬『東大式節約勉強法:世帯年収300万円台で東大に合格できた理由』は、家庭環境の余裕の有無にかかわらず、勉強のムダ、身にならない努力を省いて、効率的に核心をつかむのに、とても参考になるだろう。ようは基礎基本を徹底して学ぶこと。とくに東大の入試では、それがまさに秘訣だ。)