『私をくいとめて』特集|クリスマスは“おひとりさま”で映画館へ!
本年度の東京国際映画祭で観客賞を受賞した映画『私をくいとめて』。2017年に『勝手にふるえてろ』で第30回東京国際映画祭コンペティション部門・観客賞をはじめ数々の賞を受賞した、原作=綿矢りさ×監督&脚本=大九明子のゴールデンコンビが再びタッグを組んだ本作が12月18日(金)より全国公開される。ヒロイン・みつ子を演じるのは、女優としてだけでなく創作あーちすととしても活躍中ののん。そしてみつ子が恋する年下男子・多田くん役を、話題作への出演が絶えない実力派俳優・林遣都が演じる。快適なおひとりさまライフに慣れすぎた31歳のみつ子の不器用な恋を描いた本作の魅力を、大九監督へのインタビューを交えて紹介する(文/奥村百恵)。
原作は「蹴りたい背中」で第130回芥川賞を受賞し、「夢を与える」や「勝手にふるえてろ」など話題作を次々と世に送り出した作家の綿矢りさが2017年に出版した「私をくいとめて」。この原作を読んだ大九監督は「“部屋にグリーンを足す”という描写や“リモンチェッロ”“下着が派手”など細かい描写の積み重ねによってカラフルな読書体験をさせてもらいました」と語っており、映画化に関しては「原作を忠実に再現するのではなく、私が感じた面白さを再現するよう意識しました。それから、原作を読んだ時に感じた“色であふれた楽しさ”を映像に入れたいと思いました」と、自身のこだわりを明かした。
その言葉の通り、本作に登場するみつ子の部屋や衣装、小物などは絶妙な色使いで物語に奥行きを与えている。大九監督の『恋するマドリ』でもタッグを組んだインテリアスタイリストの作原文子が美術・装飾を手掛け、60軒以上のショップからこだわりぬいたものだけを選びレンタルしたというからさすがである。また衣装について「衣裳の宮本茉莉さんは人物の成長を衣装で表現してくれる方。“会社に着ていくには少し躊躇が入るような服を家で着ているのがリアルな31歳”という共通認識で衣装を決めていきました。ですので部屋着や一人で過ごす休日の服装は可愛い感じになっています。みつ子は大人の女性だからこそ、自己プロデュースできる面があることも意識しました」と監督は語る。
◇大九明子監督が語る、のん×林遣都の魅力快適なおひとりさまライフに慣れすぎて、脳内に優秀(?)な相談役“A”が誕生した主人公のみつ子を演じるのは、2016年公開の劇場アニメ『この世界の片隅に』で主人公すずの声を演じ、高い評価を得たのん。役者としてだけでなく、創作あーちすととして幅広い活動を続ける彼女は、本作でひと癖ある31歳の女性を時にユーモラスに、時にキュートに、時にやさぐれ感を出しながら(笑)、全力で演じている。
監督はのんを演出するにあたり「クランクインする前からのんさんは疑問に思ったことがあるとLINEで質問してくれて、そこでしっかりやりとりできたので、現場では特に細かい指示を出すことはなかったです。ただ、走り方や仕草など、たまにみつ子より若く見えてしまうことがあったので、そこは指摘することもありました。多田くんが初めてみつ子の家を訪れるシーンで、“みつ子のほうがお姉さんだから堂々としていて良いんだよ”と伝えたのを覚えています」と現場を振り返った。
また、のんと林遣都の魅力について監督は「のんさんは、実際にお会いするととてもお美しいのですが、同時にどこの会社にも居そうな親しみやすさがあるところが魅力。お芝居に関しては怒りの表現が見事で、あんなに柔らかい空気を漂わせていながらも、内側に高温のマグマみたいなものを持っている方なんだなとご一緒していて思いました。林さんはこれまで多くの出演作を拝見していてずっとご一緒したいと思っていました。多田くんを演じている時の林さんは、色々な色に柔軟に染まってくださった。また他の作品でもご一緒したいです」と語り、「デパートに水着を買いに行くシーンで、みつ子と多田くんがふざけ合うところはほとんどお2人のアドリブです。とても良い感じだったのでそのまま使いました」と貴重な撮影秘話も明かしてくれた。
◇“人と居るためには努力が必要だからこそ、人と一緒に居るというのは尊いことなんだ”みつ子の周りの女性達も個性豊かで、結婚してイタリアで暮らすみつ子の親友・皐月を橋本愛、みつ子の頼れる先輩・ノゾミを臼田あさ美、みつ子の上司・澤田を片桐はいりというユニークなキャスティングが実現。
ノゾミと澤田について監督は「こんな人達が自分のそばに居たら良いなと私の願望を投影しました。ノゾミは原作でも突き抜けた面白いキャラクター。劇中で彼女が発言する“みんな生まれながらのおひとり様なんだよ。人と居るためには努力が必要”というセリフは私自身が思っていること。彼女(臼田さん)が発言することでネガティブに捉えられることなく、“人と居るためには努力が必要だからこそ、人と一緒に居るというのは尊いことなんだ”という風なポジティブな意味合いを持たせられたと感じています。片桐はいりさん演じる澤田は映画オリジナルのキャラクター。映画のなかでみつ子は色んな人と出会いますが、そのなかで年上の女性と会ってもらいたくてできたキャラクターです。何年か前にはいりさんと一緒にお酒を飲んでいたとき、夜も更けて明け方頃に映画を語る姿が凄くカッコ良かったんです。それで“このはいりさんを映画に出したい”と思ったんです。本作の澤田はあの時とはまた別のカッコ良さが出ていると思うので、はいりさんに出て頂けた良かったです」と愛あるコメントを寄せた。
本作は、不器用に悶えながらも恋に奮闘するみつ子の姿だけでなく、過去に起きたセクハラのトラウマに悩みもがく描写も重要な要素として盛り込まれている。そのことについて監督は「私は女性であることに満足して生きていますが、その反面、とても腹が立つこともあります。セクハラに関しては、私自身恐怖に感じたことや怒りに震えたことなどいまだに覚えています。お酒の席では女性がお酌しないといけないみたいな空気もすごく嫌で、若い時は『お酌なんてぜってーやってやんねー』と思っていたのでやらなかったですね(笑)。今思うとちょっと生意気だったかもしれません(笑)。とにかくセクハラへの怒りはヘドロのようにどんどん沸いてきますが、映画の中ではあの程度に描いた、というのが本音です」と明かしてくれた。
◇クリスマスは“おひとりさま”で映画館へ!コロナ禍で人と気軽に会えないいまだからこそ、今年のクリスマスは“おひとりさま”で映画館へ行ってほしい。劇場で本作を鑑賞して、みつ子と一緒に泣いたり笑ったり。映画が終わるころにはきっともっと自分のことを好きになれているはず。
映画『私をくいとめて』は12月18日(金)より全国ロードショー
(C)2020『私をくいとめて』製作委員会
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