鍵はLTVとCAC! サブスク系スタートアップ経営者がおさえておくべきマーケティングの勘所/田村 一将
サブスク系のビジネスではLTVが重要
サブスク系のビジネスにおいては、売り切り型のビジネスとは異なり、ユーザーが何ヶ月利用してくれるのかという継続率が大切になります。とりわけLTV(Life Time Value、ライフタイムバリュー)を前提として考えることが重要です。
LTVというのは、直訳すると「顧客から生涯にわたって得られる収益」となりますが、分かりやすく言えば、ユーザーに自社のサービスの利用を続けてもらっている限り得られる利益ということになります。携帯電話や保険などをイメージすれば分かりやすいでしょう。
広告費や営業担当者の人件費といった費用をかけて獲得したユーザーであっても、サービス利用が短期間で終わってしまえば、1ユーザーから得られる利益は少なくなってしまいます。そのため顧客との信頼構築も重要になり、投下したマーケティングコストを効率的に回収することと、ユーザーとの信頼構築を両立させる必要があります。
CACとCPAの違いを理解すると、マーケティングの”粒度”が上がる
次にマーケティングコストを考えていくときの視点として、CAC(Customer Acquisition Cost)と、CPA(Cost Per Action)の違いを理解することが大切です。CACとCPAも顧客獲得単価を表しますが、意味するところは異なります。
CPAは、顧客一人を獲得するのにかかった「広告コスト」を表します。これに対しCACは、顧客一人を獲得するのにかかった「広告費に人件費、間接費用などを加味したコスト」となります。さらに、CACは単なる費用対効果をダイレクトに計測する指標ではなく、幅広い意味を持ちます。
CACにおいては検索エンジンで調べたり、SNSのタイムラインに表示された記事のリンクから訪ねてくれたりしたノンペイド(広告費などをかけていない)のユーザ−も、対象になります。CACの方がより細かくユーザーを見ている(粒度が高い)ことになります。
もちろん、ウェブ広告などを通じて、ユーザーのとった行動を把握する場合にはCPAも役はに立ちます。ただし、今回のテーマであるサブスク系スタートアップ企業のビジネスモデルでは、CACがより重要だということを念頭に置いてもらいたいと思います。
ユーザーについて深く広い視野で見る
それではなぜ、ノンペイドも考慮すべきなのかについて説明したいと思います。広告配信をする場合に、広告を見た人が即座にその広告枠をクリックするとは限りません。
広告が目に入った(インプレッションと呼びます)ユーザーが、その場では何もしないことはよくあります。人によっては何日も経ってから、以前見た広告を思い出して検索エンジンで商品やサービスを調べて、申し込みページを訪れることもあるのです。検索エンジン経由のユーザーは、表面的にはノンペイドにカウントされますが、その中に広告を見たユーザーも含まれているわけです。
最近では動画広告がはやっていて、その場では動画をクリックしなかったユーザーが、後日そのサービスが気になって検索することもあります。ユーザーが顧客になるコストを算出するうえでは、広告だけの流入チャネルだけでなく、検索エンジンなどにも広げてみていく必要性がお分かり頂けるのではないかと思います。
先に顧客獲得単価を見る際には、CACに着目することで、より粒度の高いコスト分析ができることを説明しました。さらに、収益を上げていくためには、常にLTVがCACを上回る必要があります。LTVがCACを下回ってしまえば、赤字になってしまいます。LTVとCACの両面をにらみながらマーケティング施策を講じることにより、費用と収支のバランスをより精緻(精緻に)とっていくことができるのです。
サブスクモデルで注目される「ユニットエコノミクス」
さらにLTVとCACの関係を深掘りしてみていくと、顧客一人あたりの採算性を表す指標として、ユニットエコノミクスという考え方も重要です。
SaaSやサブスクリプションサービスで扱われることが多いビジネスの最小単位1個あたりの収益性のことを指し、ビジネスの健全性を測る指標です。
ユニットエコノミクスは、
LTV÷CAC
という計算式(倍率)で求められます。
例えば、一人の顧客から得られるLTVが20万円だと仮定して、そこに顧客獲得のために10万円のマーケティング(広告)費用をかけたとします。
そこで、先の計算式を当てはめると
ユニットエコノミクスは LTV(20万円)÷ CAC(10万円)=2(倍)
となります。
これに対し、LTV20万円に対し、CACが4万円だとすると、ユニットエコノミクスは
LTV(20万円)÷ CAC(2万円)=5(倍)となります。
ユニットエコノミクスは数値が高いほど、顧客の収益効率が良いとされ、一般的に3以上であれば。健全と言われています。
これを公式で表すと
LTV/CAC>3x ということになります。
結論としてはユニットエコノミクスが2では、あまり効率的ではない。逆にユニットエコノミクスが10だと、とても効率が良いと言えます。
つまり、ユニットエコノミクスが高いということは、顧客獲得コストが相対的に安価で、なおかつユーザーの解約率が低い状態を示しています。
今回のまとめとしては、マーケティング施策や流入チャネルごとのLTVや解約率を把握したうえで、適正なCACを設定することが第一。そのうえでユニットエコノミクスという指標に注目すると、マーケティング施策全体の効率性が把握できるということがお分かり頂けると思います。