野町 直弘 / 調達購買コンサルタント

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前回の記事で、成城石井での商品選定について書きましたが、「売れる」「美味しい」に加えて、ストーリーがあるかどうか、にこだわっているそうです。「ストーリー」とは、生産者の思い、だったり、こだわり、だったり。

例えば、「美味しい」だけでなく、何故おいしいのか、その背後にあるこだわりや歴史、作る側の思いがあることによって、食べる側も共感できる、単なる食べ物ではなく、物語の共有ができるのです。確かに何かを購入する時には人はそれを食べたり、使ったり、SNSに載せたり、するシーンを考えて購入を決定します。
これが「ストーリー」なのでしょう。

私は、工業製品バイヤーにとっても、調達とは、単なる買い物ではなく、その裏には多くのストーリーが隠されているのではないかと考えます。多くのプロフェッショナルバイヤーは「ストーリー」をそれぞれ持っている筈です。これらのストーリーを共有することが、重要なことではないでしょうか。

一方で「バイヤー業務には万歳がない」とよく言われます。
その理由の一つは、バイヤー業務は上手くいって当たり前であり、非常に地道な業務だからです。

よくコスト削減目標の設定で「企業全体の支出は1000億だからその10%で100億円がコスト削減目標」という話があります。実際にバイヤー業務をやられた経験のある方はご存知だと思いますが、バイヤーは100億円のコスト削減を1百万円ずつ積み上げて行くものです。つまり、小さな努力の積み上げでのみ、結果が出せます。このようにバイヤー業務=地道な業務、であることが「万歳がない」ことにつながっているのかも知れません。

私も現場のバイヤーの経験がありますが、確かにバイヤーをやっていて、自分の仕事に満足した経験って殆どなかったな、と今でも思い出します。

例えば、交渉がうまくいったとしても、営業のように「やった!」という思いはあまりないでしょう。「やった!」よりも「本当に大丈夫かな?」とか、あまりにうまくいきすぎると「逆にだまされているのでは?」と勘ぐることもあります。

また、バイヤーの仕事は「地道」な業務であると共に、「逆境対策」が多いのも特徴です。「値上交渉」「納期遅れ」「品質トラブル対策」「倒産対策」「法規制対策」・・・etc。
こういう仕事が中心であり、トラブルシューターとしての業務が多いでしょう。

これも「万歳がない」ことの理由の一つかも知れません。しかし、そんな仕事の中でも、他部門の人やサプライヤさんとの信頼関係を感じることは多くある筈です。「彼(彼女)に任せておけば」「彼(彼女)にお願いすれば」という信頼感と、それを達成した時の「有難う。」という一言を聞くと、嬉しいに違いありません。

このような信頼を得るためには、チャレンジをする必要があります。何かをチャレンジするバイヤーにはトラブルが、より多く降りかかってきます。トラブルに対して、それぞれのバイヤーが多くの努力をしてそれを乗り越えてきているものです。これがバイヤーが持つストーリーであり、それを乗り越えることで、数少ない「万歳」を感じることにつながります。

しかし、チャレンジしないバイヤーにストーリーは生まれません。
成功するか、失敗するかはともかく、果敢にチャレンジしていく、私はそういうバイヤーを支援します。そして支援することで、多くのバイヤーに自分だけの「ストーリー」と、それを克服することで感じる「万歳」を、感じさせてあげたいのです。