日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社

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災害時に打ち出される被害者救済策というものは往々にして「緊急ゆえに穴だらけ」という問題点があるものだ。そうした緊急救済策の穴に乗じた「火事場泥棒」的な行為が発生することは昔からある程度はあり、政策検討者もある程度は仕方ないと割り切っているものだ。

とはいえ昨今のそうした行為には、一握りの「もともと悪質な輩」の振る舞いとばかり言えないほどの拡がりが見られるという特徴がある。スマホとSNSの普及のせいで具体的なやり方が簡単に拡散し、昔だったらそうした浅ましい振る舞いには関与しなかったであろう、ごく普通の人が軽い気持ちで手を染めてしまうのだ。

コロナ感染の社会不安が広がるにつれ、そんな振る舞いが世間の注目を集め始めた第一弾は、「転売ヤ―」によるマスクや消毒液の買い占めと高値での転売行為だった。これまた世の中に急速に普及した個人間売買サイトやオークションサイトを通じて、随分大々的に行われた記憶がある。

しかしこの初期の「火事場泥棒」的な行為はかなりの批判を浴び、そうした振る舞いをする連中を監視するような動きすら発生した。そして小売店が買い占め防止策に努めると共にメーカーの増産努力や流通業者の頑張りもあり、急速に衰退した。要は、消費者である大多数の市民が直接的な不利益を被るという、直接的に「市民を敵に回す」行為だったため、大いに叩かれたのである。

しかしコロナ禍が続く中、次に登場したのは、もっと小ずるいやり方だ。市民を直接的に敵に回すことを避け、政府の補助金を狙う方向に転換したのだ。具体的には持続化給付金の不正受給であり、Go To Eatにおける「錬金術」だ。

持続化給付金というのは簡単にまとめると、新型コロナウイルスによって売上が減少した事業者を対象とした現金の給付だ。給付額の上限は法人200万円、個人事業者100万円で、用途は自由で返却の必要はない。

残念ながら、給付の速度を優先しているために審査が実質的にないことを悪用しての不正受給が後を絶たなかったのだ。その不正の大半は、実際に事業などやったことがない連中が個人事業主を装って申告し、まんまと給付額100万円をせしめるというものだ。

しかしこの話には裏がある。そうした不正行為を働いた者たち(大半が若者)の多くは税理士などと称する「指南役」に「いいバイト代になるよ」などとそそのかされて軽い気持ちで実施しており、そうした「指南役」に申請書類の作り方などを指導してもらい20〜60%もの手数料を支払っているのだ。

こういう「指南役」連中の一部は、制度の抜け穴を見つける悪知恵、思慮の足らない若者を実行犯にするやり方、そして自分たちには「足がつかない」やり方を熟知していることからして、特殊詐欺を裏で操っている組織的犯罪集団である可能性も高い。

この持続化給付金の不正受給は、既に世間の注目を浴びて「犯罪だ」ということが認知されてきた上に、調べられたらすぐに発覚すること、不正が発覚した場合には2割増の返還請求を受けることもやがて知られるだろうから、今後は件数もかなり減るだろう。

さて、もう一つのコロナ禍での「火事場泥棒」的な行為は、Go To Eatにおける「錬金術」だ。居酒屋チェーン「鳥貴族」で1品だけを注文し、1000円分のポイント付与で"儲け"を得る、いわゆる「トリキの錬金術」が最も有名だ。他の飲食チェーンでも同様の行為が発見されているし、Go To Eatのポイントを貰って次回またそのポイントで食事ができるという「無限ループ」もネット上で話題となっている。

発端は、Go To Eatキャンペーンの内容とポイント付与の仕組みをいち早く知った人間が「これって、注文代金と関係なしにポイントをもらえるなら、逆ザヤを狙えるな」と気づき、それをさも自慢げにSNSで拡散させたことに始まる。そのやり方を知って実際に飲食チェーンで試してみて、「本当にできる!」と報告する連中が続出して、さらに真似する奴らが増える、という事態になっているのだ。

お陰で、本来なら苦しんでいる飲食店を助けるための「呼び水」になるはずの税金が、さもしい連中の懐に流れ込んでしまい、キャンペーンの終了時期を少し早めてしまうことにもつながっている。

実際のところ、この「予約に伴いポイントが発生する」タイプのGo To Eatキャンペーンは(もともと問題含みだったが)間もなく終了するので、問題もまた終息しようが、別ネタで同様のことが繰り返される懸念は高いのではないか。

先の持続化給付金の不正受給と違って、初期の「錬金術」提唱者も、その尻馬に乗った連中も、これは犯罪ではないが、政策趣旨に大いに反し、飲食店にとっては迷惑な行為だということぐらいは自覚している(はずだ)。しかし「錬金術」などというネーミングから、むしろ自分たちは「頭がいい」と思い込んでいる可能性すらある。罪悪感はほとんどないため、SNSで「成果」を自慢する輩まで続出する始末だ。

いずれの行為も大学生など若い人が多いという(確かに、いい年してこんなことをやっているようでは間違いなく人生の敗残者だ)。彼らに欠けているのは、「おカネを稼ぐ」経済行為というのは誰かの役に立つことへの社会からの報酬であり、それが「自分が社会に受け入れられている」証の一つだから嬉しい、という明確な自覚と体感だ。

親に養ってもらう環境でずっと過ごしてきた(あとは精々バイトで小遣い稼ぎをするくらいの)ために、そうした感覚が十分に発達しなかったのだろう。

お金を稼ぐ方法は世の中にあまた存在する。しかし誰の役にも立たない方法で稼いだカネは実にむなしい。「あぶく銭」という感覚がつきまとい、無駄使いに陥りやすく、結局は「悪銭身につかず」になりがちだ。たとえ犯罪でなく、合法的に稼いだとしても、だ。

そうしたやり方で(一部とはいえ)生計を立てることに若い時に慣れ親しんでしまったら、真っ当なおカネの稼ぎ方が身につかないままに社会に放り出されて最後は露頭に迷うような未来が近づいてしまう。

いずれ彼らが自分たちの行為の浅ましさに気づき、赤面し、大いに反省して、二度とこうした「火事場泥棒」的な行為をしないと自分に誓う時が早く来ることを、彼らの人生のために祈りたい。