猪口 真 / 株式会社パトス

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問われるセルフリーダーシップ

これまでB2B営業といえば、「イベント来場者数」「コンタクト人数(名刺交換)」「アプローチ件数」「アポイント率」「訪問件数」「商談数」「提案書数」「プレゼンテーション数」「見積書提出件数」「成約件数」「受注額」「平均受注額」「成約までの日数」といった、リアルでの面談を前提としたKPI(目標)管理を行ってきた。

セールス、営業として、まず会えばいいという観点からセールス活動をしていた人も少なくないだろう。

そして、こうした営業の常識として考えていたKPIが、ことごとく何もできなくなったのが、コロナ禍のB2Bセールスではないか。

とはいえ、基本的にこうしたKPIを意識している営業マンは、実質的には少ない。多くの営業マンは抱える案件に振り回されながら毎日を過ごしている。つまり、平時だろうがコロナ禍だろうが、自分自身で活動を計画し、マネジメントするわけではなく、上司や組織の言うことに従っているだけなので、自分自身から今後の戦略についてどうしようかという真摯な問いは残念ながら持ちえない。

このコロナ禍で、会社の数字はひどいことになっているにもかかわらず、自分自身に立ち返ることなく、「会社がリモートを許さない」「ネット環境を用意してくれない」「上司があほだ」的に、人や環境のせいにし続けている営業を頻繁に見る。要はコロナ前と同じだ。

そういう観点から見れば、このコロナ禍で明らかに差が生まれるのが、周囲がどうであれ、自分は何をすべきかを問うことができる、自分自身を導く力「セルフリーダーシップ」力なのだろう。

ファネル思考からブレイク思考へ

これまでは、ある程度受け身でいても、会社のサポートによって見込客を与えられ、電話でアポイントを取ったら与えられた営業ツールを使って提案を行い、最終的に「何社残りました」と報告する、などのできあがったシステムの中で活動をしてきた。

「新規顧客受注額5000万円」をKGIとしながら、「展示会で1000名集客」「面談100社」「案件化20社」「クロージング5社」などのKPI(数値目標)を設定するという、ファネルの概念をもとにした顧客数(受注額)管理だろう。

ところが、こうした、いわゆる「ファネル的」な管理手法が、コロナ禍で、ほぼ成り立たなくなってしまったといえるだろう。

さらに、クライアント側の事情が大きく変わり、サービス提供の仕方が一変した。そうなれば、当然、仕入れ、あるいは協力先に求める仕事内容も大きく変わったはずだから、これまでのアプローチが通用するはずもないだろう。

しかし、今回のコロナ禍においてでも、売上を伸ばした人はもちろんいる。

ひとつは、提供する商品・サービス自体を、非接触型のものに変えて、成功した人だ。すぐに思いつくのは、これまでリアルのイベントを提供していたが、いち早くオンラインでの提供に変えることができたケースなどがそれにあたる。

もうひとつは、商流にとらわれず、いち早くクライアントの意思決定のプロセスの変化を読み取り、クロージングを可能にした人だ。これまでの商流を無視したわけではないのだろうが、いわゆるこれまでの意思決定プロセス(担当に話をし、上司に上申し、役員会議にかける、といった承認プロセス、また、部門間のプロセス、○○部の承認を得て、○○部に確認し、ようやくGOとなる)に関係なく、本来のあるべき意思決定者に素早くアプローチできた成果だ。こうした従来のプロセスは、オフィスにいない人たちばかりになれば、いちいち「ハンコ」をもらいに行くこともできないし、始めからオンラインミーティングに入っていれば何の問題もない。そもそもその承認プロセスが必要だったのかという疑問すら湧く。

こうしたケースに共通するのは、これまでの商習慣、商流に対し、別の観点からアプローチし、顧客の課題にフォーカスし、突破したことだ。顧客の課題に立ち返り、本来の顧客課題に対し果敢にチャレンジしたからこその成果だろう。これを「受け身のファネル」思考に対し、「主体的なブレイク」思考と言えるのではないか。

単なるデジタル化ではうまくいかない

さらに言えば、手段から発生したデジタル化は間違いなく失敗するのではないか。「コロナだからリモートしかできない」「顧客に会えないのだからオンラインでイベントをするしかない」という発想では、本質的な課題解決にはならず、競合との差別化は難しいだろう。

結局、昔ながらの「銀座に飲みに行け」「ゴルフに行ってこい」(すでに絶滅に近かったか)などの指示とあまり変わらない。

現在多くの企業で、これまでの情報提供の方法、戦略意思決定プロセスに関して、大きな変革時期となっている。営業の立場からすれば、現在は、この変化を機敏に捉え、自分の営業戦略をゼロから見直す機会であることは間違いない。