アカデミー賞を7度も受賞した唯一のキャラクターアニメーション映画
同一のキャラクターの作品で7度アカデミー賞を受賞したアニメーションがある。『トムとジェリー』シリーズだ。特に名作が集中して製作されたのが、米MGMのウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラによる1940年から1950年代初頭の短編アニメーション映画で、第二次世界大戦の時期とも重なる。
グレーの飼い猫トムと茶色ネズミのジェリーのドタバタ攻防劇が描かれており、基本は2匹のバトルであることから戦時中は、トムやジェリーを自国や敵国にたとえたプロパンダ映画と言われることもたびたびあったが、製作側にまったくその意図はなかったという。シンプルな物語ゆえさまざまな比喩にされてしまうのは仕方がないことだろう。
もともとは映画館でのフィルムのかけ替え中のつなぎの作品だったため作品尺も10分前後と短いが、つなぎの作品にしてはクオリティーが高く、徐々に観客の支持を得るようになっていく。1940年から1950年代初頭の短編にセリフはほとんどなく、2匹の顔の表情と全身のアクション、そして音楽で全てを表現しているのだが、アニメーションにしか表現できないネズミ視点の世界や、動物たちの愛すべきゆたかな表情などのアニメーション映像は斬新でありながらエモーショナルで、たちまちファンが増えていった。そしてすばらしいのが音楽だ。彼等の動作だけでなく感情にもシンクロした楽曲は時にはオーケストラを用いて丁寧に作られた。それらのクオリティーの高さが幅広い年齢層の心をつかんだだけでなく、評論家からも高い評価を得た理由だった。
1980年後半になるとMGMはワーナーに買収されるが、そのときは、すでに「トムとジェリー」はテレビシリーズにもなり、この2匹は押しも押されもせぬ大スターに成長していた。ワーナーに買収されてからもウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラは「トムとジェリー」の製作に関わり続け2001年ウィリアム・ハンナ、2006年ジョセフ・バーベラが亡くなるまでそれは続いた。最初の「トムとジェリー」作品である「上には上がある」(このときトムとジェリーの原型は登場するが2匹はまだ違う名前だった)が製作された1940年から半世紀を超えて当初の製作者が関わり続け守られてきた彼等のキャラクターが、いまも世界中の大人から子供まで愛され続けているのは当然のことだろう。(編集部:下村麻美)
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