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ジムニーの納期、今でも1年〜1年半

text:Yoichiro Watanabe(渡辺陽一郎)

クルマの納期(注文してから納車されるまでの期間)は、一般的には1〜2か月だ。3か月を超えると長い部類に入る。

今は新車需要の約80%が乗り替えに基づくから、今まで使ってきたクルマを下取りに出して新車を買う。

スズキジムニー    スズキ

納期が長いと、新車の納車前に下取り車の車検期間が満了するから、クルマを持たない期間も生じてしまう。あるいは代車を用意してもらわねばならない。

このように納期遅延は顧客満足度の低下に繋がり、ユーザーを逃すこともあるので、各メーカーとも気を配っている。

それなのに納期を長期間にわたって著しく遅延させているのがオフロード軽SUVのジムニーだ。

販売店で納期を尋ねると以下のコメントが帰ってくる。

「軽自動車のジムニー、小型車のジムニー・シエラともに、1年から1年半を要しています」

「契約時点では正確な納期はわからず、生産時期がハッキリした時点でお伝えしています」

ジムニーの発売は、シエラを含めて2018年7月だった。

発売直後から納期は1年以上に遅延して、同じ状態が2年近く続いている。

ジムニーの発売は、シエラを含めて2018年7月だった。

発売直後から納期は1年以上に遅延して、同じ状態が2年近く続いている。

生産台数を増やしたが納期ちぢまらず

発売時点で公表した国内販売目標台数は、ジムニーが1年間で1万5000台(1か月に1250台)、ジムニー・シエラは1年間に1200台(1か月に100台)であった。

この状態では納車が追い付かなかったため、2019年に入った段階で、販売店では「生産台数を1.5倍に増やした」と説明した。

販売店からは「ジムニーの生産台数が増えた代わりに、ほかの車種の生産に、一部滞りが生じている」という話も。    スズキ

ジムニーの届け出台数も、2018年は1か月当たり1800〜2000台で推移していたが、2019年1月には2410台に高まった。

2019年3月の登録台数は3972台に増えている。

溜まった受注をある程度は解消したが、販売店からは「ジムニーの生産台数が増えた代わりに、ほかの車種の生産に、一部滞りが生じている」という話も聞かれた。

この時期のジムニーは、部品の供給等も含めて、限界的な生産をおこなっていた。

2019年4月以降のジムニーは2300台前後で届け出を続け、9月には再び3000台を超えた。

2019年10月から、コロナ禍の影響で届け出が落ち込む直前の2020年3月までは、おおむね2000台から2500台で推移している。

それでも納期は縮まらずに1年から1年半を要する。

その理由は何なのだろうか。

SUVの原点回帰が生じことも理由に

納期が縮まらない理由は、ジムニーの人気が安定的に高く、なおかつ生産規模が小さいからだ。

今はSUVがブームで、新車として売られるクルマの約15%を占める。ミニバンと同等の販売規模だ。

シティ派SUV、トヨタC-HR。見た目、舗装路における走行性能と乗り心地、居住性や積載性をバランス良く造り込んで人気を得た    トヨタ

2010年以前のSUV比率は約5%だったから、車種数の増加もあって売れ筋カテゴリーに成長した。

そして今のSUVには、乗用車と同じ前輪駆動のプラットフォームを使うシティ派モデルが多い。

ホンダ・ヴェゼル、トヨタC-HR、マツダCX-5などはその典型で、見た目、舗装路における走行性能と乗り心地、居住性や積載性をバランス良く造り込んで人気を得た。

ただしシティ派SUVが、最近になって少々飽きられ始めていることも確かだ。この影響でSUVの人気に原点回帰が見られ、RAV4やライズといったオフロードSUV風の車種が好調に売れている。

もともとSUVは、三菱ジープ、トヨタ・ランドクルーザー、日産パトロール(後のサファリ)といったオフロードモデルから出発した。

RAV4とライズは前輪駆動ベースのSUVだから、分類上はシティ派だが、外観は後輪駆動ベースのオフロードモデル風だ。

SUVの本質が追求されるようになったため、軽自動車サイズでそれを得られるジムニーの人気が急騰した。

このようにSUVの原点回帰が生じた事情も考えると、ジムニーの1か月に1250台という販売目標台数は少なすぎた。

そもそもジムニーがフルモデルチェンジを受ける直前の2017年(暦年)でも、1か月平均で1124台を届け出していたのだ。1250台では少ないのは当然だろう。

しかも2018年のフルモデルチェンジは、20年ぶりだったので、待ちかねていたユーザーも多い。これら複数の理由で需要が生産規模を大幅に上まわり、納期が長期間にわたって著しく遅延した。

スズキ自身、ジムニー人気を過小評価

ここまで納期が遅延したら、さらに生産規模を増やせば良いのに、なぜそれをしないのか。

納期遅延が問題になった2019年6月頃、スズキに尋ねた。

ジムニーの人気をスズキ自身が過小評価していたことになる。「行列のできるジムニー」と喜ぶわけにはいかない。    スズキ

「既に発売当初に比べると生産規模を増やしており、これ以上は難しい。仮にさらに生産量を拡大すると、需要が下がった時に、余剰な生産設備を抱えることになってしまう」

新車の需要はいつ下がるかわからず、今後は少子高齢化もある。今の段階ではジムニーの納期が1年に達しても、生産規模はこれ以上増やせない考えだ。

しかし好調な需要は今後も続く。理由はジムニーが軽自動車であるからだ。

軽自動車は主に生活のツールとして、1人に1台の割合で所有されることが多い。そうなると今まで使ってきた軽自動車を下取りに出して新車を買う。

新車が発売され、ユーザーが飛び付くように購入して、その後に需要が急落するスポーツカーとは販売台数の推移が根本的に違う。

そうなるとジムニーの潜在需要は今でも多く、今後も安定的に売れ続ける。納期の遅延も続くわけだ。

スズキは薄利多売の軽自動車が中心のメーカーだから、他社以上に納期の遅延を嫌ってきた。スズキの社員からは「納期が3か月以上に伸びたら、鈴木修会長から叱られる」という声も聞かれた。

その意味でジムニーの納期遅延は、きわめて珍しいケースといえるだろう。

ジムニーの人気をスズキ自身が過小評価していたことになる。それだけジムニーが偉大なクルマというわけだが、前述のように納期の遅延はユーザーに迷惑を掛ける。

「行列のできるジムニー」と喜ぶわけにはいかない。