米国の広告主とパブリッシャーは、新型コロナウイルスのトリアージモードの先を考えはじめたところに、新たな危機が猛烈な勢いで視界に飛び込んできた。

2020年5月末、丸腰の黒人男性ジョージ・フロイド氏が白人警官に身柄を拘束されたあとに死亡した。これを受け全米で抗議行動が起き、その多くはデモ隊と警察のあいだでの暴力の応酬へと広がっている。いくつかの都市では夜間外出禁止令が出され、トランプ大統領は軍を投入して混乱を鎮圧すると脅しをかけた。警察による暴行と人種差別についての会話が世界中で巻き起こっている。

目まぐるしく変化し、非常に難しい状況のなか、広告主とパブリッシャーは再び、不確実と恐怖へと放り込まれてしまった。多くのマーケターは、新型コロナウイルスの感染拡大がはじまった最初の1カ月と同じアプローチを選び、今回も事態がどのように展開するかを静かに再評価するのが賢明と本能的に感じている。

メディアエージェンシーのメディアキッチン(The Media Kitchen)で最高経営責任者(CEO)を務めるバリー・ローウェンタール氏は、「こうした状況で再びプランの再考を迫られることになるとは、誰も想像していなかった」と話す。

「より大きく、より根深い社会問題」

米国内の夜間外出禁止令や暴力行為が、たとえば、店が開いていない場所や食料配達サービスのスタッフが危険に晒されるかもしれない場所で広告を出すことが適切かどうかをめぐって、ほかの実務的なメディアプランニングや最適化のジレンマを投げかける。

UMの最高デジタル責任者兼グローバルブランドセーフティオフィサーであるジョシュア・ローコック氏はこう語る。「新型コロナウイルスのときはクライアントに、『落ち着いて、事業を続けて』という感じのアドバイスをしたが、今回は状況が違って、国民がトラウマを抱えているときに、解決すべきより大きく、より根深い社会問題が登場した」。

「共感すること」は、まだ市場にいるクライアントに対してローコック氏が与えているアドバイスのポイントだ。「チームのメンバーや一般大衆を危険にさらすようなら、市場にいるべきではない」と、ローコック氏は付け加える。

ニュースパブリッシャーの苦悩

ニュースパブリッシャーにとっては、ただでさえ苦しいときに新たな社会不安がやってきた形だ。コロナ危機は、広告市場の大きな落ち込みや景気後退が長引くとの予測に続いて、大量のレイオフや一時帰休、職位の閉鎖を引き起こした。ニュースサイトへのトラフィックはパンデミックの最初の数週間に急増したが、その期間中もまだ支出を続けていた広告主たちは、新型コロナウイルス関連のコンテンツや、悪いニュースさえ懸命に避けようとしていた。

現在のニュースサイクルは、「死亡」や「暴力」のように、神経をとがらせた広告主が避けようとするであろう多くのキーワードやカテゴリーを公開している。5月29日〜6月1日のあいだに、コンテクスチュアルターゲティングプラットフォーム、ピア39(Peer39)のネットワーク上で「ネガティブニュース」とタグ付けされたページの数は、全ボリュームの12.9%で、フロイド氏が死亡する2週間前の10.7%より増えた。ピア39のネガティブニュースのカテゴリーには、犯罪や事故、死亡、災害、テロ、戦争についてのテーマが含まれている。

キーワードではなくページ上のコンテンツのコンテクストを分析するブランドセーフティツールを提供しているチェック(Cheq)で最高戦略責任者(CSO)を務めるダニエル・アビタル氏は、クライアントの9割が米国での抗議行動に関連するストーリーについて何らかの制限強化を望んでいると述べる。除外を要求しなかった10%はおおむね、ブランドセーフティポリシーの一環としてニュース機関を積極的にサポートすることを決定していたと、同氏はいう。

マーケターたちの心の内

グループエム(GroupM)がクライアントを対象に行った初期の調査から、回答者の60%が社会不安に関するニュースを全面的にブロックしないことを進んで選択したことがわかるが、グループエムでグローバルブランドセーフティ担当バイスプレジデントを務めるジョン・モンゴメリー氏によると、キャンペーンを一時中止するかどうかはまだ検討中のところが多いという。米国のある大手ニュースパブリッシャーの情報筋は、現在のニュースサイクルに関連して広告収入が大きく落ち込むか、これからを見守る必要があると語る。

それでも、ここ数日で、プレミアムニュースメディアがほかの時代を定義する――だが、とてもネガティブな内容の――ストーリーを取り上げることによってペナルティを課せられる可能性が、また違う大きな打撃をもたらしうる。U.S.プレス・フリーダム・トラッカー(U.S. Press Freedom Tracker)によると、過去数日間、多くの記者やカメラマンがデモの取材中に襲われたり逮捕されたりしたという。一方でトランプ大統領は、Twitterアカウントを使って報道機関を馬鹿にし続けている。

英国のニュースメディアの業界団体ニュースワークス(Newsworks)の会長、トレイシー・デ・グルース氏は、フロイド氏の死につながった状況やその余波は、掲載し広め続けられるであろう極めて重要なストーリーだと話す。

デ・グルース氏はこう語る。「もちろん、広告の配置という観点をめぐっては本当に繊細な問題があるが、私は広告主やエージェンシーに対して、自社のアプローチやブロックリストを定期的にチェックして、極めて重要で、変化し続ける問題について報道の自由な流れを商業的理由で検閲していないことを確かめるよう促したい」。

「正しい答えも間違った答えもない」

当面のあいだ、マーケターの多くは、ソーシャルメディアを使ってサポートや団結のメッセージを出していくだろう。だが、アフリカ系のバックグラウンドを持つ人々に対して同じような言葉によるメッセージを掲載している多くのブランドは、初期の「この不確実な時代」における新型コロナウイルスへの反応と同じことをしている。彼らは、行動や金銭による援助を約束するのではなく、平然と右へ倣えの姿勢に依存したことで、たちまち激しく風刺された。

「ブランドは前よりうまくやる必要がある」と、多様性にフォーカスしたメディアネットワーク、ブランド・アドバンス(Brand Advance)のCEO、クリストファー・ケンナ氏は語る。「胸に手を当て『我々にとってこれが確かなことだ』と言えるのであれば、その信念に沿ってやっていることに、(現在の状況への関わり方に)正しい答えも間違った答えもない」。

Lara O'Reilly(原文 / 訳:ガリレオ)