クルマの最大制動力はタイヤで決まる!

「走る(加速)、曲がる、止まる」という、クルマの基本的な運動性能のうち、もっとも安全性に直結しているのは、「止まる」=ブレーキの性能。

 数年前のデータだが、ポルシェ911 GT3 (991)は、100km/h→0km/hのテストで、制動距離30.7mという当時のベストストッピング記録を出しているが、ポルシェは昔から「エンジン出力の4倍のブレーキ制動力を与える」というポリシーを持っていて、その強力なストッピングパワーには定評がある。

 一方、国産車のブレーキは比較的プワーといわれているが、最大の安全装備がブレーキなら、スポーツカーだけでなく、大衆車にももっと強力なブレーキをつけるべきでは、と思う人がいるだろう。それはもっともな意見だが、ブレーキ自体を強化しても、じつはクルマの制動距離は変わらない。

 誤解している人も多いが、クルマの最大制動力はタイヤで決まる。

 その証拠に、軽トラだろうがエコカーだろうが、ブレーキペダルを力いっぱい踏めば、ABSが作動する。つまり、軽自動車のサイズの小さいブレーキだって、タイヤのグリップ力を使い切るだけのストッピングパワーは十分あるということ。

フル制動を連発しなければ大衆車のブレーキでも十分

 ではスポーツカーのあのでっかいローター、キャリパーは何のためにあるのかというと、安定した制動力を得るためだ。

 ブレーキは、クルマの運動エネルギーを摩擦によって熱エネルギーに変換するシステム。単純な効きだけでいえば、じつはディスクブレーキよりドラムブレーキのほうが良く利くが、熱に強くて安定性が高いのは、ディスクブレーキ。そしてローターが大きければ大きいほど、放熱性は高く、熱容量が大きく、キャリパーも大きくてピストンの数が多いほど、安定した制動力が得られる。

 しかし、そんなブレーキは大パワーで車体も重く、サーキットで200km/hオーバーから、何度もフルブレーキをかけるようなクルマにしか必要ない。

 プワーといわれる国産の大衆車のブレーキも、100km/hからのフルブレーキ一発で、熱容量がオーバーして利かなくなるようなものはひとつもない。つまり、フルブレーキを何度も連続してかけるような使い方をしない限り、スポーツカーのようなブレーキは不要ということ。

 ホイールをインチアップしたりすると、ブレーキが小さくてみすぼらしく見えるかもしれないが、むやみに大径ローター・ビッグキャリパーを入れても、バネ下重量が重たくなって、タイヤの路面追従性が悪くなり、乗り心地や燃費が悪くなるだけ。

 ポルシェが誇る、世界最強のブレーキ=PCCB(ポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ)は、鋳鉄ローターよりも50%も軽いといわれているが、PCCBのオプション価格は、ブレーキシステムだけで約150万円! そんなブレーキが大衆車に必要だろうか?

「それは極論だけど、一般的な車種でもヨーロッパ車のほうが国産車よりもブレーキが利く」という意見もあるだろう。たしかにブレーキの摩擦係数で比較すると、ヨーロッパ車のほうが国産車よりも0.1ぐらい摩擦係数が高い傾向がある。

 ただ、摩擦係数の問題ならパッドを交換すれば解決するし、耐フェード性もパッド交換でかなり向上するので、そうした性能を求める人はスポーツパッドに交換すればいい。

 その反面、良く利くパッドというのはローターへの攻撃性も高く、“鳴き”や“ブレーキダスト”も出るし、ローターやパッドの減りも早い。価格的にもスポーツパッドは純正パッドよりも高価なので、一長一短。比較的低速域でのストップ&ゴーが多い日本国内での使い方を考えると、純正ブレーキのバランスは決して悪くはないはずだ。

 それでも、もっと強力なストッピングパワーが欲しいなら、まずはタイヤをハイグリップタイヤに履き替えること(溝の有無にかかわらず4〜5年以内に必ず交換)。そしてブレーキパッドも残量が半分以下になったら交換。ブレーキフルードも車検毎に交換すること。

 こうした基本的なメンテナンスを怠らないことと、いざというとき、しっかりフルブレーキを踏めるスキルを身に着けておくことが、安全運転にはなにより重要だということを覚えておこう。