新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言を受け、全国のパチンコ店に休業要請が出たことにより、ほとんどのパチンコ店は営業を自粛することとなった。しかし、極一部のパチンコ店は休業要請に応じることなく営業を続行し、それに対して東京都では葛飾区議会議員が営業店舗に乗り込み抗議活動を行ったことや、大阪府では休業要請に応じなかったパチンコ店を名指しで批判したことは記憶に新しい。

そんなパチンコ店営業自粛の風潮に対して、「今回の新型コロナの影響は東日本大震災のとき以上に命の危機を感じた」と佐藤保氏(36歳・仮名)は語る。そんな佐藤氏の職業はパチンコ店で勝つことにより生計を立てる“パチプロ”だ。20歳で大学を中退して以来、パチスロの収益のみで生計を立てている。

ギャンブルはトータルで見れば負けると言われているが、果たして勝ち続けることはできるのだろうか。それについて佐藤氏は「考えなしで打っている人が言っているだけですよ」と反論する。

■パチスロで「勝つ」方法とは

佐藤氏によれば、パチスロはその台を打った際にどれだけのリターンが得られるのかがあらかじめ決まっているという。この数字は「機械割」と呼ばれており、パチンコ店に置いてあるパチスロは、おおむね95%〜119%の幅となっている。機械割が110%であれば、1000円の投資に対して1100円のリターンが見込める。そのため、機械割が100%を超えていれば「客が勝てる台」と言って差し支えないだろう。

パチンコ店はこの機械割を1〜6までの設定でコントロールしており、設定が6に近いほど、機械割が良くなり、大当たりを引く可能性が高くなる。

「パチスロ機によって機械割は違いますが、期待収支は簡単に出すことができます」(佐藤氏)

現在パチンコ店に設置されている多くのパチスロは1回転させるために3枚のメダルが必要だ。メダルのレートは1枚20円が主流のため、1ゲームにつき60円の投資となる。パチスロ機を1日1万回転回せば、約60万円の投資。これに機械割をかけることにより、その日の期待収支が算出される。機械割97%であれば、期待値約1万8,000円のマイナス。逆に機械割が119%であれば期待値約11万4,000円のプラスとなる。

「この機械割は設定だけではなく、打ち方などによっても上下します。当然、機械割が100%を超える台を打てば、その分だけプラスになりますから、設定をうまく推測するのがパチプロの仕事といえるでしょうね」

これを佐藤氏は毎日繰り返して来たのだ。

■コロナ騒動下でも勝てた理由とは

3月まではこの期待値を追うルーティンを繰り返して、日々の生活費を稼ぐことができた。しかし、4月に入ると状況は一変。都内のパチンコ店が休業要請に従い、休業し始めたため生活費を稼ぐことができなくなった。

いくらパチスロで勝つ理論を知っていても、パチンコ店が営業していなければ無意味だと実感しました。東日本大震災のときでさえ、休業するパチンコ店はほとんどなかったのに」

だが、佐藤氏は、バイト先が営業自粛をしたことにより、収入が途絶えたフリーターに比べると幸運だったのかもしれない。休業要請に従うことなく営業をしていたパチンコ店が都内に存在したからだ。休業要請に従うことなく営業していたパチンコ店にも事情がある。いち早く休業を発表した大手チェーンなどに比べ、資本で劣る中小店は営業する店も散見された。

通常であれば、ある程度高設定を使って出玉をアピールしないと、客は他店に流れてしまうが、他店が休業していれば話は別となる。低設定のみで営業していても集客力は落ちることなく、資金も回収できるのだ。そのため、パチンコユーザーにとっては厳しい状況だったが、佐藤氏は緊急事態宣言下でもプラスの収支で立ち回ることができたと語る。

「今年パチンコ店に導入された『いろはに愛姫』というパチスロのお陰です。このパチスロは特殊な台で、通常のパチスロのように設定が6段階あるのではなく、『左』『中』『右』『6』の4段階。6以外の機械割は同じです」

通常、パチスロの設定は機械割が100%を超える高設定台か、100%を割る低設定台の2つに区分されるが、この台はそれに分類されない特殊な台だという。

「この台は大当たり中に『どのボタンを最初に押すか』という押し順当てのゲームがあり、設定が左の場合、この押し順当てゲームで『すべて左から押した場合は機械割が104%』となる仕組みになっています。そのため、設置があれば常に客側が勝てる可能性があります。設定も3択なので見抜きやすく、8000回転回せば2万円近く勝つことができる計算となります」

この情報は公式HPや各種パチンコ系サイトでも発表されており、理論上は「座ることができれば勝てる台」であるため、人気が高く客同士の奪い合いが行われるような台であった。

■勝てる台が捨てられ始めた

そして設置台数も少ないため『いろはに愛姫』が打てない日もあったというが、それでも自粛前に比べる打てる機会は多かったという。そして、東京都の新型コロナ感染者数が増えるにつれて、ライバルも減っていった。

「普段なら『いろはに愛姫』は開店直後から取り合いになる台ですが、コロナウイルスの感染拡大を受けて客足が遠のいていました。そのため、いつもより『いろはに愛姫』に座れる機会は増え、収支は安定しました。この台を1日10時間打てば、1万5000円ほどのプラスが見込める。毎日安定した収入が確保されることになりますからね」

結果、4月の収支は運も手伝って40万円ほどのプラスになったという。パチンコ店の出玉情報を確認することができるサイトで、自粛期間中に営業を行っていたパチンコ店の出玉情報を見ると、ほとんどの台がマイナス域となっているため、この結果は上出来といえるだろう。

■しかし“時給”は…

しかし、佐藤氏は東京都内だけでなく、都外に遠征もしているため、移動を含めた拘束時間などを考慮して時給を算出すると「深夜のコンビニバイト程度の時給」だ。だが、佐藤氏は自信満々に収支表片手に言葉を続ける。

「結果から言えば、収入が途絶えるかもしれないという心配は杞憂でした。要領よく立ち回れば、やっていけるという自信にも繋がりました」

コロナが原因となり、パチンコ店のみならず様々な業種が営業自粛を判断した。その結果、多くの人たちは収入が途絶え、佐藤氏が4月頭に感じていた危険と向き合っている。そんな中、『いろはに愛姫』という収入源を確保することができた佐藤氏は、今の生活をどう思っているのだろうか。

「今の生活に不満はありません。元々頭を使うことが好きな性分だったので、この生き方に誇りを持っています。収入が途絶えて困っているのならば、他のことで稼ぐという方法を模索したほうがいいのではないかと思います。誰にも頼ることができない時代だからこそ、捨て身の挑戦が大切だと困っている人には伝えたいです」

取材を終えた佐藤氏は、またパチンコ店に吸い込まれていった。

(お茶の間ジャーナリスト 網田 和志)