「特殊詐欺は、何ら落度なく判断能力が低下している老人等を狙い撃ちにし、個人的な生活資金を騙し取るもので有って、誠に卑劣である」(原文ママ)

 こう述べるのは警察庁でも消費者庁でもない。関東の一大暴力団組織・稲川会である。5月に横浜市内で開いた総会で、「『稲川会規約』総本部通知」と題し、特殊詐欺への関与を禁じる文書を配布したことが14日、明らかになった。

 社会部記者が解説する。

「文書は稲川会ナンバー3の貞方留義理事長名で作成された。『特殊詐欺への関与を絶対に無き様、再度厳禁する』とし、関与が判明した場合、破門・絶縁などの厳重な処分を下すとある」


稲川会事務所が入る六本木のビル ©共同通信社

 そもそも暴力団の資金源といえば、クスリ、恐喝、バクチの類だった。

「今も警察はこれらを『伝統的資金獲得犯罪』と呼んで警戒しているが、最近目立つのはやっぱり特殊詐欺。摘発されにくく、一度に大金を得られるのでいいシノギになっていた」(同前)

 確かに警察庁の統計によると、ここ5年間の特殊詐欺事件での検挙者のうち、暴力団構成員などの割合は2〜3割程度で推移。検挙者を主犯に絞ると、構成員が5割に迫る年もある。

 しかし何故、このタイミングでヤクザ側から通知を出したのか。“表向き”の理由を捜査関係者が語る。

「各組とも表向き犯罪行為はご法度。中でも特殊詐欺は、暴力団の精神である任侠道にもとるとの見方があり、増加する流れをよく思わない向きもあったようだ」

幹部の本音は別のところに……通知を出した“ウラの理由”とは

 稲川会の文書でも、「日本古来伝統の任侠の精神」に触れつつ、特殊詐欺を「もっての他」と断じている。

 だが、ウラの理由は別にあるという。法曹関係者は「構成員の犯罪と組織は関係ないと装い、幹部の責任回避を狙って文書を作ったのだろう。直接のきっかけは、今年3月の東京高裁の判決にある」と語る。

 稲川会系組員らの特殊詐欺事件に関する民事訴訟の控訴審判決で、清田次郎元会長について「使用者責任」を認定。約1600万円の損害賠償を命じたのだ。

「高裁では稲川会の判決が2例目で、昨年12月には住吉会会長らにも損害賠償の支払いが命じられた。刑事ではトカゲの尻尾切り状態だった上層部への責任追及が、民事では容易になるかもしれない。面識もない構成員が特殊詐欺に手を染め、その都度、訴訟に持ち込まれたら、幹部らは途端に首が回らなくなる。その焦りの表れだろう」(同前)

 とはいえ、構成員も長年、シノギには頭を抱えている。前出の捜査関係者は「コロナ禍に便乗し、新たに給付金に絡む詐欺に手を染める可能性も」と警戒を続ける。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年5月28日号)