テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第119回は、25日に放送されたカンテレ・フジテレビ系情報バラエティ番組『土曜はナニする!?』(毎週土曜8:30〜)をピックアップする。

12年間にわたって放送された『にじいろジーン』のあとを受け、4月4日にスタートしてからまもなく1カ月。いきなり外出自粛の要請で「ナニする」の幅が極端に狭くなる逆風にさらされているが、どう対処しているのか。

MCを務める山里亮太と宇賀なつみの相性、リニューアルした『サタデープラス』(MBS・TBS系)など裏番組との比較も含め、掘り下げていきたい。

宇賀なつみ(左)と山里亮太


○■新番組ならではの「粗さ」と「温かさ」

オープニングには山里と宇賀に加えて、リモート出演のYOU、村上知子、石田明、堀田茜も登場。しかし、リモート出演の4人は別部屋からの出演であり、ネット上には「けっきょく全員外出しているのか」という批判が散見された。娯楽色の強い番組だけに、やはり自宅からのリモート出演が望まれているのかもしれない。

最初のコーナーは、「これを見れば1週間がわかる!今週の急上昇ワード」。いわゆるYahoo!検索ランキングのコーナーなのだが、1位:岡江久美子 2位:シャープ 3位:湯崎知事 4位:ファーストキャビン 5位:はなまるマーケット 6位:密ですゲーム 7位:オンライン帰省 8位:IOC 9位:金正恩 10位:北川景子 という結果が発表された。

ところが、オンライン帰省の楽しみ方をサラッと紹介しただけで、ランキングに入らなかった“HOTけないワード”の「ありがとう燕」をピックアップ。つまり、「ランキングは、ほぼ見せるだけ!」の役割に過ぎなかったのだ。「紹介しながらまったくふれないワードばかり」という粗い構成は新番組ならではだろう。

話題は「全国で心温まるサプライズが急増」にスライドし、「お酒好きの夫に妻が自宅居酒屋を開く」「結婚式を延期したカップルに友人たちがオンライン結婚式を行う」などのエピソードを紹介。「こんなときだからこそ新番組は温かいムードで進めていこう」という作り手の意志を感じさせられる。現在は、情報番組ですら暗いムードでバランスを欠きがちなだけに、これを続ければ当番組は「土曜に入ったんだな」という明るいスイッチが入る番組になりそうだ。

続いて、2つ目の“HOTけないワード”として「おうちキャンプ」をフィーチャー。ロケを満足に行えない状況の中、画像にアウトドアブランド社員のリモート出演を絡めて違和感なくコーナーを作っていた。ほとんど視聴者には伝わらないが、少ない素材で1コーナーを成立させる器用さは作り手の底力であり、緊急時だからこそ発揮されている。

○■新番組が用意した3つの目玉コーナー

次のコーナーは、番組の目玉とも言える「今さらながら初体験!デビュー夫人」。“世間で人気の商品をデヴィ夫人が生中継で初体験する”というコンセプトで、ハプニング込みの楽しさが期待できる。しかも、今回はデヴィ夫人の自宅から生中継するという。

その部屋は部屋中に胡蝶蘭があふれ、フランスの友達が書いた自画像が飾られたザ・セレブ・ルーム。デヴィ夫人はトークに入っても、「料理はしないです。でもフォアグラのソテーくらいは作れます」と笑いを誘うなど絶好調だった。セレブとしてのハードルを上げて、これから紹介する調理家電や便利グッズとのギャップを自ら作っていたのはさすがだ。

デヴィ夫人専属執事・ジャングルポケット斉藤慎二と、家事大好き芸人・家事えもんが事前収録で9つの商品をプレゼン。そのうち「自家製焼き鳥メーカー2」「スモークインフューザー(燻製器)」「プチトマト一発スライサー」をデヴィ夫人の自宅に送り、“デビュー”してもらうという構成だった。ところが、デヴィ夫人は最後の「プチトマト一発スライサー」をまったく使いこなせず包丁の使い方が危なっかしかったため、あわてた山里が止めてスタジオで代わりに行うなど必死にフォロー。このハラハラ感こそ生放送の醍醐味であり、デヴィ夫人の起用理由だろう。

番組は2番目の目玉コーナー「予約が取れない10分ティーチャー」へ。人気講師がふだんの生活に使えるマル秘テクニックを教えるというコンセプトだが、今回のティーチャーは武田真治だった。武田は別室からリモート出演すると、現在インスタグラムで話題となっている「#うちで筋トレ」を披露し、出演者たちが実践。二の腕、お尻、お腹まわりの筋トレを約10分時間かけてじっくり行った。

さらに、番組は3つ目の目玉コーナー「おうちでナニする!?」に移り、今回のテーマはお取り寄せラーメン。山形・琴平荘の「中華そば 塩」、東京・俺の生きる道の「夢のラーメン」、東京・GENEI.WAGANの「潮薫醤油拉麺」を紹介し、全員で実食した。加えて3種類のラーメンが15人に当たるプレゼント企画も忘れない。ただ、外出自粛で楽しみが少ない時期だけに、「すべてのコーナーでプレゼントを用意するくらいの振る舞いがあってもいいのでは?」と感じたのは望みすぎだろうか。

○■山里と宇賀のコンビは発展途上か

その後、天気予報、イケメン芸能人がイケてる飯を食べる「イケ飯」(リモートデート企画)を経て、番組は終了。終わってみたら、おうちキャンプグッズ、キッチングッズ、筋トレ、お取り寄せ料理、リモートデートまで、在宅で楽しむための情報に特化していた。

ちなみに次週は、「デヴィ夫人がお掃除グッズを初体験」「自宅で味わえる北海道グルメ」などを放送するというから徹底されている。情報の質はさておき、ここまで「在宅」に特化かつ横断した番組はまだ少ないだけに、「裏番組との差別化」という意味も含めて、もっともっとその特色をあおってPRすればいいのではないか。

MCを務める山里亮太と宇賀なつみの相性は……残念ながら2人のかけ合いはほとんど見られなかった。もちろん2人のスキルに疑いの余地はなく、「収録か?」と錯覚してしまうほどよどみない進行ぶりは見事。ただ、よく見ると2人とも口角は上がっているものの、瞳の奥は笑っていないように見えたし、顔はテカり緊張感が伝わってきた。何より山里の毒や宇賀のぶっちゃけという持ち味を引き出し合えてなかったことが発展途上の証だろう。

一方、リニューアルだが事実上の新番組と言える裏番組の『サタデープラス』(MBS・TBS系)は、「“スポーツ生バラエティ番組”を掲げながら芸能人の情報が満載」と迷走気味。スポーツ業界がクローズしている現状では仕方がないのかもしれない。また、『朝だ!生です旅サラダ』(ABCテレビ・テレビ朝日系)、『ウェークアップ!ぷらす』(読売テレビ・日本テレビ系)は、これまでと変わらずマイペースで放送を続けている。

土曜朝は在阪4局が全国ネットでそろい踏みする唯一の時間帯だが、カンテレの新番組とMBSのリニューアルで、あいまいだった各番組の色分けが鮮明になった。ちなみに4月25日の視聴率は、『土曜はナニする!?』が世帯5.7%・個人全体3.1%。『サタデープラス』が世帯4.2%・個人全体1.9%。『朝だ!生です旅サラダ』が世帯7.4%・個人全体3.9%、『ウェークアップ!ぷらす』が13.8%・個人全体7.3%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)。

新型コロナウイルスの影響もあって報道系の読売テレビが圧勝しているが、だからこそ「新たな道を切り拓こう」「土曜の朝らしい楽しいムードを届けよう」ともがくカンテレとMBSを応援したくなる。

○■次の“贔屓”は…緊急生中継!サプライズは起きるか『中居正広のスポーツ珍プレー好プレー』

『中居正広のスポーツ珍プレー好プレー』を放送するフジテレビ


今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、5月3日に放送されるフジテレビ系バラエティ特番『緊急生中継!中居正広のスポーツ珍プレー好プレー みんなで生サプライズを!起こしましょうSP』(19:00〜21:54)。

単なる「中居正広MCのスポーツ珍プレー好プレー番組か」と思うことなかれ。中居が都内某所から緊急生中継を行う上に、「連動データ放送で“みんなで奇跡を起こそうプロジェクト”を進行させる」という仕掛けが用意されている。さらにその視聴者参加企画には、ある目標を達成したら、アッと驚くリアルサプライズも…。

現在、ネット上で新たな発信ができるお笑いや音楽と比べても、スポーツは厳しい状況が続いているだけに、寂しい思いをしているフリークたちにスポーツの楽しさを感じさせたいところ。レジェンドアスリートの生リモート出演はあるのか? どんなサプライズを用意しているのか? コロナ禍で、外出自粛中の視聴者、収録ができないテレビ局、両者にとって注目の番組となりそうだ。

○著者:木村隆志(きむら たかし)

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20〜25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。