歴史の長いレガシー企業にとって、2019年の実店舗リテール運営は非常に厳しい1年であった。しかし、顧客ベースを拡大しようとしているD2Cブランドたちを見ると、2019年には次々と実店舗へ参入しており、この傾向は2020年に入っても続くように思われる。

寝具D2Cブランドのキャスパー(Casper)は2018年、北米で200の実店舗をオープンする計画を発表した。現時点では60のリテール店舗、18のリテールパートナーを持っている。スニーカーのオールバーズ(Allbirds)もまた、実店舗の存在感を急速に高めるD2Cブランドのひとつだ。世界中で15の店舗を展開している。いまのところ、こういったD2C企業たちが実店舗を閉鎖する様子はない。しかし、(しばしば顧客獲得ツールとして用いられる)物理的なリテールへ急速にフォーカスする企業たちは、レガシーリテーラーたちがこれまで犯してきた失敗を避けるため、慎重に自分たちの目的について考える必要があると、D2Cブランドを集めた百貨店、ネイバーフッド・グッズ(Neighborhood Goods)のファウンダー兼CEOであるマット・アレクサンダー氏は言う。

従来のリテールストアたちが失敗したのは、eコマースの台頭、在庫の管理失敗、そして顧客体験についての考えの欠如が原因だった。リテールに対する新しいアプローチの一環として、ライブリー(Lively)やユニバーサル・スタンダード(Universal Standard)といった多くのD2C企業たちは、店舗に置くプロダクトセレクションのキュレーション、そして顧客にとって店舗がコミュニティスペースもしくは何らかの目的地といった感覚を持ってもらえる場所になることについて、工夫を凝らしている。

「デジタルは適切なスタート地点」

業界では、レガシーリテーラーが店舗を閉じ、破産申告をするなかで「リテール・アポカリプス(黙示)」を予言した人たちもいる。CBインサイト(CB Insights)によると2015年に遡って81のメジャーなリテール企業の破産があると述べている。昨年だけでも、フォーエバー21(Forever21)、バーニーズ・ニューヨーク(Barneys New York)、そしてチャーミング・チャーリー(Charming Charlie)といった22の大手リテーラーたちが破産申請をしている。しかし、これだけリテール店舗が閉鎖しているなかで、D2C、そしてデジタルネイティブの企業たちは、同じ分野にありながらも拡大と成功を繰り返している。

オンラインオンリーのラグジュアリーネグリジェ企業として始まったランヤ(Lunya)は恒常的な店舗を3軒、1つのポップアップ店舗を抱えている。CEOかつファウンダーのアシュリー・メリル氏によると、ランヤは最近になって5つの追加の物件契約を行い、今後もすでにオンラインで購入する顧客がいる地域では実店舗拡大を続けるとのことだ。もともとは、ランヤはサンタモニカの本社に付随する形で店舗をオープンし、リテールストアへゆっくりと参入した。

「特に現状のリテールストアが衰退している環境において、デジタルは適切なスタート地点に感じられた」と、メリル氏は語る。「私が知っているなかでも、実店舗リテールに反対している人たちがいるが、我々はそうではない。我々のプロダクトは高級志向で、試着することに価値がある。(店舗を運営すること)は初期の段階ではオプションとして存在してなかった」。

実店舗の存在感が大きくなったいま、店舗がすべて均質の来店体験を持ちながらも、それぞれがただお互いのコピーになってしまわないように気をつけていると、メリル氏は語る。メリル氏は「ベッドルーム」と呼ばれる店舗のそれぞれのインテリアデコレーションを行う。ブルックリン店舗の場合、ニュートラルかつミニマルなデザインになっており、色合いは主に白と黒、そしてプラッシュホワイトのソファとビンテージの椅子が並ぶ。ソーホー地区はそれよりもミッドセンチュリースタイルの家具や、モダンな照明を採用。全店舗が彼らの中心アイテムを販売しているが、展示プロダクトの数は多過ぎず、オープンなスペース感覚を維持している。それに加えて、店舗来訪客の半分以上は、すでにオンライン顧客となっているので、必ずしも店舗内でプロダクトを購入してもらうことがゴールではない。

対レガシーへの新しい道のり

実店舗でのリテールに参入しても、必ずしも大きな売り上げ成長が起きるわけではないと、多くのD2C企業が語っている。ナーダム(Naadam)のファウンダーであるマット・スキャンラン氏は、実店舗をオープンすると、その地域でのオンライン売り上げは伸びる傾向にあり、店舗売り上げは必ずしも伸びない、と述べたことがある。

「多くの顧客が店舗に来て、最終的にはオンラインで商品を購入すると認識する必要がある。そのことは何も間違っていない。顧客関係において、店舗がただプロダクト購入のための存在になってしまわないための工夫は、リテーラーの責任だ。深く工夫が凝らされたビルボード広告のようである」と、ネイバーフッド・グッズのアレクサンダー氏は言う。

リ:ストア(Re:store)、ネイバーフッド・グッズ(Neighborhood Goods)、ショーフィールズ(Showfields)といった、D2Cを中心に複数のブランドを扱うリテーラーを使って、実店舗リテールに本格的に取り組む前にテストを行うことが人気になってきた。このことが新規参入者たちの成功の鍵となっているかもしれない。これらのマルチブランドのリテーラーが存在するおかげで、デジタルネイティブ企業たちの参入障壁は低くなった。ブランドたちは長期の賃貸契約に投資するのではなく、短期での契約でスペースを利用するチャンスを得られたのだ。ビジネスコンサルタント企業BJSSのリテール部門責任者であるデーヴィッド・ゴア氏は、D2C企業が市場に適応し成功している現状は、苦境に立っているレガシー企業へ新しいブランドたちが立ち向かう、新しい道のりとなっていると語った。

「より顧客にフォーカスし、データに基づいたモデルが新しく入ってくることで、(業界に)多くの変化が生まれており、レガシー企業たちも自分たちのビジネスをさらに向上させる必要に晒されている。この競争と(新しい)モデルが発生したことは、競合でありながら、お互いを補う関係でもあると捉えている。片方がもうひとつを突き動かしているが、レガシーは自身もレベルアップしない限りは、市場にとって価値のない存在となってしまうだろう」と、ゴア氏は言う。

顧客関係のもっとも重要な部分

しかし、インスタグラム(Instagram)投稿に向いているポップアップ店舗の運営という考えにフォーカスし過ぎて、顧客との繋がりを構築することを忘れてしまうことで、リテール業界の新しい時代においてブランドの多くが失敗すると、アレクサンダー氏は言う。

「顧客関係のもっとも重要な部分はまったく、変わっていない。ただ必要以上に複雑になっている。体験型リテールと聞くと、ボールプールやインスタグラム撮影用の壁紙、が頭に浮かぶ。しかしそれは一過性の流行であって、顧客のなかに残る長期的な体験を生み出さない。そのため業界にとっては問題のある方向だ」と、アレクサンダー氏は説明する。

Katie Richards(原文 / 訳:塚本 紺)