ファーストリテイリング、良品計画ともに直近決算の結果を受けて通期見通しを引き下げた(撮影:今井康一)

「勝ち組」と言われた小売専門店の経営課題が、ここにきて浮き彫りとなっている。

ユニクロを傘下に持つファーストリテイリングが1月9日に発表した2020年8月期の第1四半期(2019年9〜11月期)決算は、売上高6234億円(前年同期比3.3%減)、営業利益916億円(同12.4%減)と減収減益で着地した。

このため、当初増収増益を見込んでいた通期決算の見通しも、売上高2兆3400億円(前期比2.2%増)、営業利益2450億円(同4.9%減)の増収減益に下方修正した。4期ぶりの営業減益となる。

韓国、香港の影響を免れず

下方修正の理由としてユニクロが挙げたのは、日系ブランドの不買運動が続く韓国と、デモが長期化する香港での業績悪化だ。

韓国は、ユニクロを190店弱展開し、年間売上高が1000億円を超える重要な市場だ。その韓国と、30店舗を展開する香港での赤字が収益を圧迫。第1四半期決算において、海外ユニクロ事業の営業利益は前年同期比28%減の378億円と低迷した。この落ち込みが、全体の足を引っ張った。ファーストリテイリングの岡粼健取締役は1月9日の決算説明会の席上、「いつまで続くかわからないが、韓国は非常に厳しい事業環境にある」と語った。

韓国と香港の急激な収益の悪化は、外部環境の変化に起因するもの。これだけが下方修正の要因であれば、現地の情勢次第で業績も回復する可能性は高い。だが今回の決算では、内部要因ともいえる別の課題も露呈した。


第1四半期の決算で目立ったのが、国内ユニクロ事業の停滞だ。同事業の2020年8月期第1四半期の売上高は2330億円(前年同期比5.3%減)、営業利益は385億円(同1.6%増)。在庫の値引き処分がかさんだ前年同期と比べ粗利益率は改善したが、売上高、営業利益とも会社の期初計画を下回った。営業利益は同四半期に500億円程度を稼いでいた5期前と比較しても、悪化傾向にある。

収益が想定を下回った最大の要因は、暖冬の影響だ。一般的にアパレル企業は、商品単価の高い防寒着が売れる秋冬シーズンが稼ぎ時。この秋冬は気温が高く推移しており、ファーストリテイリングもこの逆風を受け、国内ユニクロの既存店売上高は昨年9月以降、前年割れが続いている。

ヒートテックやウルトラライトダウンなどユニクロの主力商品は、防寒や保温といった機能性の高さがウリ。ほかのアパレル企業と比べ、トレンド変化の影響を受けにくい反面、新商品やコラボ企画で大ヒットが出ないかぎり、気温の変化に売り上げが大きく左右されがちだ。今回の決算では、この弱点が改めて露呈した格好だ。

国内ほどのインパクトではないにしろ、ユニクロは中国や北米でも暖冬の影響で売上高が会社の想定を下回った。「昨年も今年も暖冬が続いている。気候が大きく変わっている(温暖化が進んでいる)ことを念頭に置きながら、暖冬にも対応できる商品構成を追求しなければいけない」と、ファーストリテイリングの岡粼取締役は危機感をあらわにする。

ユニクロは販売動向に応じて機動的に在庫量を調整できるよう、こまめな値下げや短納期生産の推進による在庫の効率化を進めているが、気温の変化に左右されにくい商品の開発や品ぞろえの見直しも今後不可欠となる。

良品計画は在庫が膨張

ファーストリテイリングが決算を発表した翌日の1月10日、生活雑貨店「無印良品」を展開する良品計画も2020年2月期の第3四半期(2019年3〜11月期)決算を公表した。売上高は3282億円(前年同期比7.9%増)と増えた一方、営業利益は298億円(同14.5%減)の減益になった。これで株価は大幅に下落。決算発表前に2682円だった株価は1月24日の終値で1996円まで下がっている。


第3四半期の結果を受けて、良品計画も通期決算の計画を売上高4437億円(前期比8.3%増)、営業利益378億円(同15.5%減)の増収減益へと下方修正した。昨年10月時点で営業利益は452億円(前期比1.2%増)の計画だったが、今回の下方修正により、人件費がかさんだ前期から2期連続の営業減益となる見通しだ。

無印良品の販売は好調だ。国内の直営既存店売上高は昨年5月から8か月連続で前年を突破。人気商品の戦略的な値下げや、会員向けの割引フェアを頻繁に開催したことも集客効果となった。

ただ、ファーストリテイリングと同じく東アジア事業の不振が足かせとなった。良品計画は韓国で40店舗、香港で21店舗を展開しており、「(東アジア事業の不振の)最大の要因は韓国と香港の赤字転落。昨年末から売上高は回復しつつあるが、力強くはない」(良品計画の松粼曉社長)。

売り上げが伸びたものの、今回の良品計画の決算では、東アジア事業以外でも、収益柱の国内事業や欧米事業などが軒並み減益に陥った。今期は一部商品の値下げや消費増税後の価格の据え置きがあり、期初時点で粗利益率の低下は見込まれていた。だが、売り上げ拡大でカバーできると考えた会社の想定以上に収益性が悪化。全社的に滞留在庫が増大し、処分のための値引き販売が増えたことが背景にある。

同社の商品在庫の膨張ぶりは、無視できない状況だ。貸借対照表を見ると、2019年11月末時点での在庫(商品+仕掛品+貯蔵品)は1105億円と、前年同期の868億円から3割弱膨らみ、3期前同期の661億円と比べると7割弱増加した。

平均月商に対する在庫の量を見ても、3期前の同期は月商の2.4倍、前期の同期は2.5倍だったのに対し、今期は3.03倍と増加傾向にある。このまま在庫が膨らみ続けると、今後も値引き処分を強いられる懸念があるうえ、在庫を保管するための物流関連費も増大する。

在庫の適正化が最優先の課題

在庫が急増している要因の1つは、売上高目標や消費増税の影響を考慮して、事前に商品の仕込みを強化したことにある。結果的に、食品は順調に売れた一方、とくに仕入れ量を増やした衣料品はアイテムによって売れ筋にバラつきが出ており、停滞が続く家具など生活雑貨は会社計画ほど売れなかったとみられる。さらに海外では、「販売計画に合った仕入れが正しくできていなかった」(松粼社長)という。

海外展開を加速している無印良品は、今期だけでもフィンランドやスイス、オマーンに初出店し、日本以外で30の国と地域に店舗網を広げる。展開エリアや事業規模が拡大する中、どの店舗にどの商品をどれだけ配分するかなどといった商品投入のコントロールがうまく効かなかったようだ。

松粼社長は「在庫の適正化は、今後も最優先課題として取り組む」と強調する。今年中に、販売計画に沿ったアイテム別の在庫管理が行えるシステムの導入を進める予定だ。今後の収益改善に向けては、システムを活用しながら在庫投入の精度を高められるかがカギとなる。

独自のブランドポジションを確立し、高い価格競争力を持つユニクロ無印良品は、グローバル展開に成功した日系ブランドの代表例とも言われる。今回の業績下方修正は、拡大基調を続ける両社が、足元を見つめ直すきっかけになったかもしれない。