退職を口止めするのはなぜ?

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 年末が近づき、年内で会社を退職する人や、同僚が辞めることを聞いた人も多いのではないでしょうか。「退職」に関して、一部企業では、退職が決まった人が上司などから、退職について口止めされることがあるそうです。ネット上にも、「『退職することを同僚に言うな』と口止めされているけど、どうしたらよい?」「最終勤務日まで退職を口止めされているから、コソコソと同僚と業務の引き継ぎをしている」といった投稿が見られます。

 なぜ、企業は退職を口止めすることがあるのでしょうか。キャリアコンサルタントの小野勝弘さんに聞きました。

一人の決断が組織に影響することも

Q.「退職2週間前までは言わないように」「私(上司)がいいと言うまでは口外しないように」などと、企業が退職予定者に口止めするのはなぜでしょうか。

小野さん「他の社員が連鎖退職することの防止や、社内の混乱への対処が考えられます。退職は退職予定者個人の問題と捉えがちですが、一人の決断が組織に影響することは数多くあります。よいケースであれば、それが組織の利益になるケースもあるでしょう。しかし、職場環境にもよりますが、一人の退職をきっかけに連鎖的に退職が起きるというケースは実際にあります。

例えば、毎日、みんなで愚痴を言い合っている職場の中で、一人だけが『転職が決まったんだ』と声を上げたとしたらどうでしょうか。『私も転職したいな』という気持ちにならないでしょうか。こういう人の気持ちの変化に対処するために、口止めしているというケースがあるのだと思います。実際、新人が連鎖退職し、時期は違いましたが新人約20人のうち7人が辞めることになった企業がありました」

Q.最終勤務日近くまで、退職を口止めさせる企業もあるようですが、残る社員に円滑な業務の引き継ぎができない可能性があります。企業にとってもマイナスのはずですが、なぜぎりぎりまで口止めするのでしょうか。

小野さん「引き継ぎがうまくいかないデメリットは、マニュアルで解消できる場合もあります。それ以上に、口止めすることで、他社とのプロジェクトに穴が開いたといったマイナス面をできるだけ見せないように配慮しているという可能性はあるでしょう。

例えば、一つの仕事を4社で分担してこなしていた場合、早いうちから退職を公言されてしまうと、『この人は退職するんだから情報をあげても意味がない』『退職者がいる状態で連携が図れるわけがない』といったマイナス面を協業する企業の担当者が感じる場合もあるでしょう。利害関係者に配慮し、不必要な影響を出さないために口止めされているのです」

Q.「社員が辞めることを知られるのは恥だ」という企業の負い目から、メンツを保つためにぎりぎりまで口止めさせるという動機は珍しいのでしょうか。

小野さん「珍しくはありませんが、本当に企業のメンツを保つ目的で口止めしているのか、私は疑問です。実際の退職者から聞く内容としては、企業の負い目よりも、上司の負い目のように思います。『マネジメントできていないという誹(そし)りを避けるために、会社の負い目だと言われたようだった』という意見があります」

Q.仮に、退職決定後に上司から「退職は最終勤務日ぎりぎりまで口外するな」と言われたとします。この場合、従った方がよいのですか。あるいは、同僚に迷惑をかけることを考えて、退職することをひそかに伝え、引き継ぎを行った方がよいのでしょうか。

小野さん「もちろん、上司の指示に従う方がよいでしょう。法的な問題というより、職場のマナーとして従う方がよい場合が多いと思われます。ただし、悪い上司であれば、退職を最後まで隠した上で、退職は辞めた人のせいで自分は悪くないと正当化してしまうケースもあります。そのため、口止めをする目的や意味を考え、必要なら上司に聞いてみるのもいいでしょう。

そして、引き継ぎの問題も上司に相談すべきです。業務命令である以上、引き継ぎについても、上司から一言もらえるとよいでしょう。仕事の中で、退職することを告げると悪影響が出そうな案件があれば、上司の意見に従い、退職を口外しないように職務に励むべき場合もあります」

Q.もし、企業側が退職予定者に退職を口外しないように伝えたにもかかわらず、口外されていることに気付いたとき、ペナルティーが科されることがあるのでしょうか。

小野さん「法的なペナルティーの有無は、専門ではないので述べられませんが、それ以外のペナルティーについては一言で言うとありません。むしろ、基本的にはそれを科すことができないというのが正しいです。人のうわさが広がることは、どうしようも防ぎようがないですし、辞める人へわざわざペナルティーを科すことに意味があるのか、という問題があるためです。

しかし、嫌がらせをされたという事例があるので注意は必要です。例えば、退職に向けた有給休暇の消化を行いにくくするため、辞めるまでに終わらせる仕事を大量に振るというようなケースがあったという話は聞いたことがあります」

退職に気付いたとき、周囲は?

Q.同僚が「辞めるのではないか」と、雰囲気や態度から気付くこともあるかと思います。そうしたとき、残る社員は何も聞かない方がよいのでしょうか。同僚の退職の意思が伝わるのが早いほど、引き継ぎも円滑に行われる可能性が高いと思われますが、自分たちのリスクヘッジのためにも何らかの行動を起こした方がよいのでしょうか。

小野さん「『同僚が辞めるのではないか』と残る社員が感じたとき、その人に話を聞くということはよいことです。なぜなら、仕事の引き継ぎにおいても引き止めにおいても、効果があると想定されるからです。ただ、リスクヘッジという観点でいうならば、そもそも普段からリスクヘッジはしておくべきで、退職が決まったときに行動しても、遅いケースの方がほとんどのように思います。

逆に、退職する人がいる以上、新しく異動してくる人や中途社員が採用されてくるケースもありますから、リスクヘッジという観点から見れば、新しく来る人への手厚いサポートを行う方が、業務効率化と定着へのメリットの2点から、より有効だと考えます」

Q.結局、退職予定者がいることを同僚に伝えるときは、いつ、どのタイミングで、どのように伝えることがベストなのでしょうか。

小野さん「一番は上司と退職者が相談の上、タイミングを見極めるべきでしょう。なぜなら、ベストなタイミングは会社、仕事、現在のプロジェクト、利害関係者との関係、チームメンバーとの関係など、さまざまな要因や、その時々で変化するからです。マネジメント層の社員との対話を通して意思の統一を行い、タイミングを見極めるという、一人で判断しない姿勢こそが大切となります」