ファンタジースポーツ(実在のスポーツ選手のデータを利用し、架空のスポーツチームを構成して競わせる、欧米で人気があるシミュレーションゲーム)を巡る状況は、デイリーファンタジースポーツ(短期間での結果を競うファンタジースポーツ)が下火になる一方で、ギャンブルの合法化が進むなど、劇的に変化している。そのため、新規参入と既存のパブリッシャーにおいて、有料のサブスクリプションサービスが爆発的に広がりはじめた。

CBS所有のスポーツライン(Sportsline)は2019年、インサイダーズ(Insiders)にコンピューターモデリングなど数件の新機能と、ゴルフやWNBAなど新しいスポーツをギャンブルの選択肢に追加。1999年以来、ファンタジースポーツのニュースや分析を発行してきたNBCスポーツ(NBC Sports)のロトワールド(Rotoworld)は、デイリーファンタジースポーツのプレイヤーを対象にした独自ツールを公開している。ESPNは、独占動画コンテンツなど、ファンタジースポーツのプレイヤーの独占コンテンツを「ESPN+」アプリ内に大量に追加した(ファンタジースポーツへの関心の高まりは、スポンサー付きコンテンツにも新たなチャンスを提供している。Vox Mediaは2019年9月5日、ドラフトキングス[DraftKings]向けのサイトを構築したと発表した)。

CBSスポーツ・デジタル(Sports Digital)のエグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めるジェフ・ガートゥラ氏は、「我々はまだサービスの核心には触れられていないと思う」と言い、スポーツラインの利用登録者基盤はここ数年のあいだ、毎年3桁の伸び率を示していると付け加えた(ガートゥラ氏は、具体的な利用登録者総数を共有しようとはしなかった)。

プレイヤーたちの現状



ファンタジースポーツは長年、スポーツメディアの主流から外れた存在だったが、人気のファンタジースポーツタイトルであるファンデュエル(FanDuel)やドラフトキングスによる巨額のマーケティング支出のおかげで、4年前に表舞台に躍り出た。ファンデュエルとドラフトキングスは米国内で独占的地位を占めようとしており、アイラーズ&クレイチーク・ゲーミング(Eilers & Krejcik Gaming)によると、この2社は2015年にマーケティングに5億ドル(約530億円)を投じた。

ファンタジースポーツのオーディエンスの全体的規模は依然として大きい――ファンタジースポーツ・アンド・ゲーミング・アソシエーション(Fantasy Sports and Gaming Association)によると、米国とカナダで6000万人以上存在する――が、支出の伸びは鈍化し、デイリーファンタジースポーツ市場の成長も減速しているように見える。ニューヨーク州賭博委員会(New York State Gaming Commission)は、2018年のデイリーファンタジースポーツでの消費支出の伸びは数%に留まっていると述べている。しかし、ファンタジースポーツのその他の分野のプレイヤー間の競争は激化しており、相手を倒すのに役立つ情報やツールを求める声が大きくなっている。

「デイリーファンタジースポーツが減速しているとは見ていない」と、NBCスポーツのオーディエンス開発ならびにビジネスオペレーション担当ディレクターを務めるマーク・ルジョムベロク氏は話す。「少数のプレイヤーが熱心にプレイするようになると思う」。

エンゲージメント向上施策



これによってスポーツパブリッシャーは、チャンスを手にするとともに、普通とは違うマーケティングの課題にも直面することになるだろう。ファンタジープロズ(FantasyPros)の共同創設者、デビッド・キム氏は、「メディアでは、どの企業もバイラルコンテンツや口コミマーケティングに焦点を絞っている」という。ファンタジープロズは10万人の利用登録者を有するファンタジースポーツサイトで、月額最低2.99ドル(約320円)を払うことで有料コンテンツやツールを利用できる。「ファンタジースポーツの世界では、『君のことは大好きだけど、そのことは誰にも言わないよ』というのがある。競争での優位性を顧客は失いたくはない」。

これによりパブリッシャーは、自身が所有し運営する資産に強く依存しながらサービスのマーケティングを行う必要がある。たとえばCBSスポーツでは、ポッドキャストやニュースレター、ファンタジーゲーミング用プラットフォームにあるインベントリー(在庫)を使ってスポーツラインのプロモーションをしている。スポーツラインはさらに、成長が続くCBSのインターネット配信チャンネル「CBSスポーツHQ(CBS Sports HQ)」での番組放送もしている。

(サービス提供者は)さらに、ほとんどのパブリッシャーの中核をなす能力とは性質がかなり異なる製品を開発しなければならなくなる。たとえば、デイリーファンタジースポーツのプレイヤーが、シーズンを通してアスリートのパフォーマンスをモデル化するのに役立つ専用アルゴリズムや、仮想シーズンを何千回とシミュレーションする予測ツールを提供するところは多い。馴染みがないかもしれないが、オーディエンスがそれを望むのだから、正しい方向に動いていると感じるものも多くいる。

「すべてはオーディエンスのフィードバックによる」と、ガートゥラ氏は話す。

小規模パブリッシャーの機会



より小規模なパブリッシャーさえ、利用者から直接収益を上げる機会を見つけようとしている。2019年春、覇権争い型のファンタジーゲーミングにフォーカスしたダイナスティー・ナーズ(Dynasty Nerds)という小さなサイトが、ナード・ハード(Nerd Herd)というサブスクリプションサービスを公開した。このサービスは、月額2.99ドルまたは年間29ドル(約3110円)、どちらかを払った利用登録者に対して、プレイヤーのランキング、新人の分析、メンバー専用の独占ポッドキャストに加えて定期的な商品プレゼントを提供する。

ナード・ハードは、公開から5カ月もたたないうちに予想以上の人気を集め、マーケティング費用をかけることなく4000人の利用登録者を獲得した。「これは最初の提供製品だ。資金が貯まれば、さらなる開発ができる」と、ダイナスティー・ナーズの共同創設者であるジョシュ・ハモンド氏は語る。

ダイナスティー・ナーズが開発しているサービスのなかにはツールもあるが、いまのところハモンド氏は、ナード・ハードは違う方法で顧客を勝ち取ることができると考えている。ハモンド氏は「我々の戦略は、実のところ、エンターテインメントになることだ。(ほかの)人々はデータで我々を上回ろうとしている」と話した。

Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)