ドローンによる攻撃を受けた、サウジアラビア・アブカイクにあるアラムコの石油施設(提供:SalamPix/Abaca/アフロ)


 9月14日未明に、サウジアラムコ(国営石油会社)のアブカイクとクライスの施設計19カ所が爆撃され、サウジアラビアはパニックに陥った。この事件は、日本では「よくある政情不安の中東の一事件」として、簡単に報じられた。だが私は、もしかしたら歴史に残る「大事」になるかもしれないと、心底懸念している。

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「米国かサウジがイランを攻撃してきたら全面戦争しかない」

 事件直後、イランがバックアップするイエメンのフーシ派が犯行声明を発表した。ところが、サウジアラビア国防省は9月18日、イランの巡航ミサイル7機とドローン18機による犯行だったと主張。急遽、サウジアラビアを訪問したマイク・ポンペオ米国務長官も同日、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子と会談後、「イランの犯行」と断定した。

 これに対し19日、イランのジャバド・ザリフ外相は、米CNNに出演し、「事件には一切加担していない」と完全否定。「アメリカかサウジアラビアがイランを攻撃した場合は、全面戦争となる他はない」と警告した。私もインタビュー番組を見たが、ザリフ外相は流暢な英語で、まるで「ラストサムライ」を髣髴させる凄みを利かせた語り口だった。

 私がこの事件で注視したのは、果たしてイランの犯行か、そうではないかという部分ではない。それとはまったく異なる二つのことである。

1万5000ドルの兵器が最新鋭パトリオットの防空網をやすやすと突破した事実

 第一は、「真犯人」さえ分からない弱小の武器によって、今年年末に日本からバトンタッチされてG20(主要国・地域)の議長国になるような国家を揺るがすことが可能になったという事実である。

 CNNを見ていたら、専門家の解説で、1万5000ドルくらいあれば、あの程度のドローン兵器は作れてしまうと言っていた。

9月18日、サウジ政府が公開した、アラムコの石油施設の攻撃に使用された翼を持った自爆型のドローンの残骸(写真:ロイター/アフロ)


 2017年5月、就任して4カ月後、トランプ大統領は初の外遊先に、サウジアラビアを選んだ。それは同国が、2カ国間の武器売買契約としては史上最高額の計1100億ドルもの武器を、アメリカに発注してくれたからだ。ムハンマド皇太子とがっちり握手を交わしたトランプ大統領は、「アメリカはサウジアラビアと共にある」と、得意満面で述べた。

 これによって、サウジアラビアは88基のパトリオット・ミサイルを配備した。うち52基が最新型だった。

 ところが、わずか1万5000ドルの武器が、1100億ドルの備えをする国を、いとも簡単に突き破ってしまったのである。これこそまさに、人類の戦争史に残る「兵器革命」ではないか。しかも、「真犯人」がどこの国の誰かも知れない「匿名性」を保っているので、攻撃する側としては、報復されるリスクも減らせる。

 今後、似たような犯行が次々に起こるリスクを、世界中が覚悟しておかねばならないだろう。

2020年東京五輪の警備は万全なのか

 例えば、日本の安倍晋三政権を嫌悪する「個人」もしくは「グループ」がいたとする。その個人もしくはグループは、日本人であっても外国人であっても構わない。

 その個人もしくはグループが、どこかから「ドローン爆弾」を飛ばして、東京永田町の首相官邸を狙ったらどうなるだろうか? もしくは、今回のように18機も同時に飛ばしたなら、東京の主要拠点は軒並み狙えてしまう。しかも、犯人はA国だかB国だかC氏だか、分からないのだ。

 そんな事態が起こったら、日本がアメリカから買った高価な防衛ミサイル「PAC3」など無力だ。秋田と山口に配備する、しないと言って揉めている3000億円もの「イージス・アショア」も同様だ。

 つまり、世界の安全保障は、これまでとはまったく異なるステージに入ったのである。今後、AI(人工知能)が発達していけば、「ドローン爆弾」は、ますますスピードと飛距離、そして精度を増すだろうから、ほとんど防御不能になっていく。

 極言すれば、「悪意のある個人」が、日本の中枢に壊滅的打撃を与えることができる時代の到来である。かつ、その悪者は逮捕されないかもしれないので、その気になれば何度だって犯行を重ねられる。差し当たっては、来年夏の東京五輪の警備を、根本から変えねばならなくなるかもしれない。

 この事件で私が思った二つ目は、中東の混乱は今後、ますます混迷の度合いを深めていくだろうということだ。そしてそれによって、日本は間接的に苦境に陥るかもしれないということだ。

 サウジアラビアのムハンマド皇太子は、「中東の金正恩」というニックネームまで頂戴しているコワモテの指導者だ。昨年10月、ジャーナリストのカショギ氏を、トルコのサウジアラビア領事館で切り刻んでしまうよう命じた容疑もかかっている。

 そんなムハンマド皇太子は、今後「報復」として、やはり「殺人ドローン」をイランに飛ばすよう軍に命じるかもしれない。そして、どこかのグループに犯行声明を出させて、素知らぬ顔を決め込む。

 そんなことが始まったら、中東は「ドローン爆弾」の連鎖となり、全土がシリアのようになってしまうかもしれない。

 しかも、トランプ大統領は、中東からアメリカ軍を撤退させたい意向である。それに反対したジョン・ボルトン安保担当大統領補佐官を、9月10日にスパッとクビにしてしまったのは、まだ記憶に新しい。

アメリカにはシェールガスがあるが、日本は中東の石油に頼るしかない

 トランプ大統領が中東に興味を失ったのは、シェールガスなどによって、中東の石油に自国のエネルギーを頼る必要が薄れたことと関係している。

 だが、日本はそうではない。原油の輸入国は、1位サウジアラビア40.2%、2位UAE24.2%、3位カタール7.3%、4位クウェート7.1%と、トップ4位までが中東で、計78.8%も占めている(2017年統計)。中東が「ドローン戦争」に突入したなら、1973年のオイルショックを超えるショックが、日本を襲うことになるのは確実だ。


 今週、アメリカとイランのバトルは、ニューヨークの国連総会が舞台になる。ようやくアメリカのビザが下りたザリフ外相は、20日にニューヨークに向けて出発した。ハサン・ロウハニ大統領も続いて出発する予定だ。

 だが、国連総会を舞台にしたアメリカとイランの「バトル合戦」は、何の成果も生み出さないだろう。国連総会で本当に話し合うべきは、「核の脅威」と同様、「ドローンの脅威」をいかになくすかということだ。

筆者:近藤 大介