藤木幸夫横浜港運協会会長

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「(横浜)市内の宿泊客は他の自治体より少なく、将来に強い危機感がある。横浜の飛躍にはIRが必要だ」

 8月22日、横浜市の林文子市長が、カジノを含む総合型リゾート施設(IR)の誘致に乗り出すと正式に表明した。林市長は2年前の市長選での公約に、カジノ誘致は「市民の意見を踏まえた上で方向性を決定する」と明記して再選した経緯があり、この日、治安悪化などを懸念する反対派の市民約40人が市長室前に駆け付ける一幕もあった。

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 そんな中、31日に「自由民権会議@神奈川(民権かながわ)」が、横浜情報文化センターで『横浜港の未来に向けて』というテーマの講演会を開催。民権かながわは、会長が元大蔵大臣の藤井裕久氏、幹事に江田憲司衆議院議員、阿部知子衆議院議員が名を連ねる市民運動体で、今後、カジノ反対の運動を展開することを表明した。講師は、カジノ反対派の藤木幸夫横浜港運協会会長だった。

藤木幸夫横浜港運協会会長

 講演会に先だって、民権かながわは総会で『緊急アピール』を提示した。その一部を抜粋すると、

〈最大の問題はカジノです。カジノは賭博、博打、ギャンブルです。二年前の市長選、その秋の衆院選挙時の世論調査でも、7割近くの横浜市民が反対しています。ギャンブル依存症、治安や風紀の乱れ、マネーロンダリング、反社会的勢力の助長等、生活崩壊や地域破壊に結びつくカジノは、横浜に必要ありません。市長は、カジノ(IR)の経済効果を説明するばかりで、こうした負の側面にかかるマイナスのコストについては何ら言及がありませんでした。私たちは以上の理由から、横浜港、山下ふ頭へのカジノ誘致には断固反対します〉

“ハマのドン”という異名を持つ藤木氏は、横浜エフエム代表取締役社長、横浜スタジアム取締役会長、藤木企業代表取締役会長、横浜港ハーバーリゾート協会会長の肩書を持ち、横浜では発言力のある人物。

 藤木氏の講演の前に、藤井会長が挨拶した。

「40年お付き合いをしているんです、藤木さんとは。(中略)物事を、けじめをつけてしっかりやられる方です。どうぞ横浜の港の話を聞いてあげてください。プラスαがあるようですから」

 その後、大きな拍手を受けながらマイクを握った藤木氏は、横浜港の歴史について滔々と語り始めた。

「横浜の港というのはね、決して日本の港という風に世界は理解していないのです。アジアの港。その代表港が横浜というのが定着していました。(中略)上海から出た船、天津から出た船、香港から太平洋へ出た船は、嵐にあうと沈没しました。揺れると荷物が倒れ、片方へウエイトが行って転覆するのです。ところが横浜から出た船は、沈んだ例がひとつもない。船荷をワイヤーできっちり縛っているから、いくら揺れても壊れない。45度船が傾いても崩れない。(中略)それでサンフランシスコ、シアトル、ロス、バンクーバへ向かう船は、横浜をラストポートにしたのです」

 講演時間は60分だったが、藤木氏は横浜港にまつわるエピソードを紹介するだけで、残り時間が10分を切っても、プラスαの話が出てこない。だが、最後に、

「依存症をつくらない、最大の依存症の防御は何だと言ったら、カジノをつくらないことですよ」

 と発言。大拍手が起こった。

「(カジノを)つくるから(依存症に)なるんです。私は法律なんか知らないが、私は命がけでやります。だからどなたも誘っていません。今日この会に来られたみなさんにもお願いしません。1人でやります。その代わり、死ぬときは1人で死にます」

自殺率トップ

 藤木氏の講演を受け継ぐ形で江田議員がマイクを握った。

「みなさん、今日も出ましたけど、死んでも阻止する。テレビで報道され、感動を呼んでいるんですね。(中略)我々政治家もそれだけの覚悟をもってやらなければならない」

 と言うと、大きな歓声があがった。

 現在、日本から一番近い海外のカジノといえば、韓国カジノである。韓国では1967年に外国人向けカジノが合法化されたため、17あるカジノのうち16は外国人用。韓国人も入場できるのは、2000年に開業したカンウォンランドだけである。現在も営業中だが、

「カンウォンランドに行ってきました。自殺率トップで奇怪な風景の町。そうなってしまったと地方自治体の人が嘆いていましたよ。もう、青少年に顔向けできないんだと。昔、石炭の町だった。炭鉱が閉鎖されて、カジノが地域振興の目玉ということで我々は誘致した。しかし、15万人あった人口が3万8000人に減ってしまった。奇怪な風景の町とはなんでしょう。風俗店と質屋とサラ金が立ち並ぶ町。金をすった人が野宿をし、地域住民と諍いを起こす。治安が乱れ、風紀が乱れ、小学校が隣の町に移転した。カンウォンランドの社長は最高検検事出身で国会議員出身。韓国でパチンコを禁止した方なのですが、『江田さん、横浜でもカジノを誘致する動きがあると聞いていますが、横浜は人口何万人ですか?』と聞くので、370万人と答えると、『絶対辞めた方がいい』と社長が言うんですよ。(中略)『江田さん、横浜みたいな大都会に設置したらもう、規制をしたり監督すればいいというレベルを超えて、大変な事態になりますよ。絶対に辞めた方がいい』。社長の言葉を噛みしめて帰ってきました」

 江田議員は、カジノで成功したシンガポールも昨年視察した。

「シンガポールは明るい北朝鮮といわれるほど、規制・監督・取締国家です。顔認証、指紋認証で、個人カードにはすべての個人情報が入っています。植栽の陰には、監視カメラが町中に張り巡らされています。タクシーで乗り逃げしても翌日には捕まる。それほどの規制・監督・取締国家だからこそ、やっと成功しているのがシンガポールです。懸念される風紀、治安、反社会的勢力とのつながりですが、20、30年前に、そういう組織は壊滅して、今はひったくりの類しかいないそうです。シンガポールは、きわめて例外的なカジノの成功例です。(中略)我々、横浜の将来、我々の子供や孫の将来を真剣に考えると、横浜のカジノ誘致は選択肢として絶対にありえないと思います」

 民権かながわは林市長に対し、カジノ誘致のための補正予算、議案の撤回を求めていくという。さらに、横浜市内各区で対話集会を開催し、市長に市民の声に真摯に耳を傾けてもらう。それを拒否するのなら、市民不在のカジノ誘致を阻止するために、あらゆる手段を行使するそうだ。

週刊新潮WEB取材班

2019年9月6日 掲載