〈噂の新店〉東京の一角に現れた、台湾の朝ごはん風景

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台湾好きの間で話題の「東京豆漿生活」。台湾の朝ごはんの定番ながら日本ではまだ食べられる場所がほとんどない「鹹豆漿」など、現地で愛されるメニューを楽しめます。「台湾の食文化をもっと日本に根づかせたい」という店主さんの思いにせまりました。

メニューに並ぶ、豆漿バリエーション

五反田駅から歩いて5分ほどの住宅街。その一角にあるのが「東京豆漿生活」です。「豆漿(ドウジャン)」とは中国語で豆乳のこと。こちらでは、豆漿をはじめ「餅(ピン)」(パン)や「油条(ヨーティアウ)」(揚げパン)など、台湾の定番的なヘルシー朝ごはんが楽しめます。

活気がありながらも和やかな雰囲気の店内

タピオカミルクティーやかき氷など、日本で人気が続く台湾フードですが、朝ごはんのメニューを食べられる店はまだ珍しく、1月にプレオープンするや、あっという間に人気店に。イートインだけでなくテイクアウトもできるため、朝8時に開店すると、近所に住む人や通勤途中の人など、お客さんがひっきりなしにやって来ます。客席20弱ほどの小さな店内は、どこかレトロでホッとする雰囲気。おしゃべりにも、つい花が咲きそうです。

豆乳を使ったさまざまなメニューが並ぶ
「鹹豆漿」(450円)と「葱肉酥餅」(280円)

いちばん人気は「鹹豆漿(シェンドウジャン)」。温かい豆漿に干しエビと干し大根を加えて、酢、しょうゆ、ごま油で味を調え、仕上げに油条、ねぎ、ラー油をトッピングしたスープです。豆漿の自然な甘みと具から出たうまみ、そして酢のほのかな酸味がバランスよく、後を引く味わい。ゆるやかに固まった豆漿の、もろもろとした口当たりがクセになります。小どんぶりに1杯という量は、一見、足りないのでは?という気がしますが、食べてみるとほどよくお腹いっぱい。なのに胃が重くなることはなく、気持ちのいい満足感を覚えます。

その日作った新鮮な豆乳を惜しみなく使う

他にも、メニューには豆漿のバリエーションが並びます。黒糖を使った「黒糖豆漿」と、白黒のごまを使った「胡麻豆漿」は、やさしい甘みが人気のドリンク。どちらも好みで温冷が選べ、甘みの調節も可能です。

「黒糖豆漿」(380円)

豆漿は、毎朝店内でしぼるから新鮮!

「いずれも、ベースとなる豆漿は店内で毎朝その日に使う分だけを手作りしています」と店主の田邊与志久(たなべ よしひさ)さん。原料の大豆は、こだわって選んだ国産のもののみ。田邊さんが実際にしぼって飲み、おいしいと感じたものを厳選しています。

店舗に併設された「豆漿製造室」

「おいしさのポイントは、コクと甘みです。現在は、宮城県産の『ミヤギシロメ』と、佐賀県産の『フクユタカ』という2つの品種を交代で使っています」

豆漿作りは、夜、大豆を水に浸すところから始まります。それを翌朝早くからつぶして、しぼって、こして、ようやくできあがり。毎日作る豆漿は、大豆10kg分にも及ぶとか! しぼり器を導入しているとはいえ、手間のかかる作業です。

「大変ですが、店で作った新鮮な豆漿を、作りたてですぐに売るというライブ感は、台湾の朝ごはんの魅力のひとつ。現地では、作る人、売る人、買う人で、お店はいつも忙しく、活気がみなぎっています。朝は外で食べるか、買って家や職場で食べる人がほとんどなので、みんな家の近所や通勤路にお気に入りの店があるんですよ」

すべて店内で手作りしている

カウンターにずらりと並ぶ餅や油条なども、すべて手作り。その中でいちばん人気の「葱肉酥餅(チョンロウスーピン)」は、豚ひき肉のうまみを生かしたシンプルなおいしさが自慢です。あんがたっぷりと包まれていますが、小ぶりなサイズなので食べやすく、飽きがきません。「酥餅」はパンとパイの中間で、層をなした生地がサクサク軽やか。豆漿との相性も抜群です。このほか、ピーナッツやゴマあんが入った甘い餅や酥餅もあり、こちらは朝ごはんだけでなくおやつにもおすすめです。

台湾の朝ごはん文化を日本に

田邊さんが営む台湾フードの店は、じつはこちらが2店め。最初に手がけたのは神田の人気店「東京豆花工房」です。「豆花(トウファ)」は豆乳を固めてシロップをかけたスイーツで、台湾では老若男女に愛される定番の味。やさしい甘みとヘルシーさが、日本でも人気を得ています。

「豆花の店を出そうと思ったそもそものきっかけは、台湾出身の妻が『日本でも豆花が食べたい』と向こうの友達にレシピを教わり、家で作るようになったこと。食べるうちに『この味は、きっと日本の人も好きなのでは』と思ったのです。以前から台湾に関わる仕事をしたいと考えていましたが、食べ物が自然と仕事に結びつきました」

豆花にしても朝ごはんにしても、自分が好きだから紹介したい気持ちが大きい、と田邊さん。

「台湾の朝ごはんは、とにかくゆたかです。食べもの自体のおいしさはもちろんですが、朝早くから開いている店がたくさんあって、しかもみんな手作りで、大勢の人がそれぞれひいきの店で食べていて、という土壌が素晴らしい。鍋からもうもうと上がる煙や、お店の人とお客さんのやり取りの声、わくわくするようなにぎやかさにあふれているんです」

これからは、自分で店を増やすのではなく、台湾の朝ごはん文化そのものが日本に根づいてほしい――。田邊さんは、そんな願いを抱いていると話します。

「一時的なブームではなく、文化として定着すればいいなあと。売るばかりでなく、自分でも食べたいじゃないですか(笑)。豆漿『生活』という店名も、そんな願いを込めてつけたんです」

五反田に現れた、小さな台湾。現地さながらの朝ごはんを、雰囲気まるごと、ぜひ味わってみて。

※価格は税抜

取材・文:本城さつき

撮影:大谷次郎