グーグルマップが生活の必需品となっている人も少なくないだろう(画像は東京駅周辺、©Google)

「バス停がない」「あるはずの道がなくなっている」「私道が公道になっている」。今年3月中旬、アメリカのグーグルが展開する地図アプリ「グーグルマップ」における日本の地図が改変され、ネット上では混乱の声が相次いだ。

グーグルの日本法人はこれに先立つ3月6日、「より柔軟かつ包括的なマップを提供する」ことを目的として、ストリートビューの画像や交通機関など第三者機関から提供される情報、ユーザーのフィードバック、そして機械学習技術を活用し、新たな地図を開発したと発表していた。

この地図が公開されたのが3月の中旬で、従来のものから大きく改変されたことから、さまざまな劣化が指摘された。グーグル側は「個別の契約については回答を控える」(日本法人広報)としているが、従来根幹を担っていた大手地図メーカー・ゼンリンの地図の活用範囲を大幅に縮小したとみられている。

グーグルマップの改変はどのような目的で行われたのか。5月中旬に来日した、マップやアース、ストリートビューなどの「GEO」製品を担当するアメリカ本社バイスプレジデントのデイン・グラスゴー氏が、東洋経済などの取材に答えた。

グーグル独自の地図に変わった

――これまでの地図と現在の地図では何が異なるのでしょうか。


5月中旬に来日したアメリカのグーグルでマップ関連製品の開発責任者を務めるデイン・グラスゴー氏(記者撮影)

日本では今回、われわれが「グラウンド・トゥルース(Ground Truth)」と呼ぶプロジェクトで開発してきた独自の地図に変わった。これまでに50カ国で展開しているものだ。

衛星写真や航空写真をはじめとする、公的なオープンデータや商用販売されているデータ、あるいはストリートビューなどのグーグルが保有するデータなど、何千ものデータを独自の1つのフォーマットに落とし込んでいる。これによってわれわれ自身が修正、編集するスピードをコントロールできるようになった。

――なぜ今回、日本で新たな地図の導入を決めたのですか。

大きなモチベーションの1つが、ユーザーのフィードバックに対してできるだけ早く反映できるような体制にしたかったということ。これまでの日本の地図では、それらを地図上に反映するのに平均で数カ月かかっていたが、新たな地図では早ければ数時間、遅くとも数日で対応できるようになる。頻繁にアップデートすることによって、最高のエクスペリエンスを提供したいと考えている。

日本で地図を作るのは難しい。地形は複雑で、都市部の密度は非常に高い。道路の幅もさまざまだし、歩行者が歩く階も上だったり下だったりする。子どもの頃に3年間日本に暮らしていた私としては、地図の複雑性はよくわかっている。

「正直に言うとサプライズもあった」

――とはいえ、誰もが使うインフラのような存在になっているからこそ、大きな改変は混乱をもたらしました。

新しい地図のリリースにはつねに難しさが付きまとうのは事実だ。リリース後にはこんなことが起こるだろうと予測し、迅速に対応しようと想定もしていた。とはいえ正直に言うと、サプライズもあった。


「新しいバイパス道路がない」というユーザーからの報告を基に、2日後に反映した(記者撮影)

ただ新しい地図だからこそ、ユーザーからのフィードバックに迅速に対応できたと思う。リリース後の24時間以内には43の新たな高速道路を追加し、地図上における何百万もの私道の描画をすべて止めた。スムーズにいかなかった部分もあるが、迅速な対応も新たな地図の特徴だ。

たとえば3月20日にはユーザーからこんな報告があった。「バイパス道路は3月10日に完成しました。地図に追加してください」と。バイパス道路が完成していたにもかかわらず、グーグルマップに表示されていなかったのだ。すぐにストリートビューの撮影車を走らせ、2日後の22日には、地図データへの反映を完了させることができた。

――バス停がなくなったり、道の太さや角の形が、これまでの日本の地図では見慣れないものになり、ユーザーの間で違和感が広がったりもしていました。

バス停情報はリリース後24時間以内におよそ3万カ所の情報を元に戻すことができた。道幅の違和感についてもフィードバックをたくさんもらっており、認識している。専任のチームが対策中だ。地図の作成にあたっては、日本法人のチームと幅広く連携を取りながらやってきた。ユーザビリティー(使いやすさ)についての研究は継続して行っている。

乗り換え案内も便利に

――今回の改変後には、グーグルマップ上でおかしくなっていると思ったことを、ユーザーがツイッターなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に投稿する動きが多く見られました。


グーグルマップアプリ上のフィードバック送信画面。こうしたクラウドソーシング的な取り組みが、より精緻な地図開発を可能にしている(画像:アプリ画面をキャプチャ)

いろいろなチャネルでユーザーの声を聞いている。とくにリリース時はSNSを注視していた。そこでの声を基に変更を加えた場合は、「Thank you for the feedback.(フィードバックをありがとうございます)」と返信していた。

ただ、どの場所のことを言っているのかわからないなど、つぶやかれていることが曖昧なことも多い。われわれとしては、PCやスマホアプリのグーグルマップにある「フィードバックを送信」という機能を使ってほしい。

――フィードバックを素早く反映できること以外には、どんなメリットがあるのでしょう。

独自の地図を築いたことで、さまざまな新しいことができるようになった。例えば歩行時のナビゲーションでは、「ランドマーク」という新たな機能が実装できるようになった。これまではどれくらいの距離を歩いたら右折して、といった案内しかできなかったが、「この先のファミリーマートで左折してください」といった案内が可能になった。


電車の乗り換え案内はより細かな情報の提供が可能になった(記者撮影)

さらに、東京では乗り換え情報が非常に重要だ。新しいグーグルマップでは、歩行、公共交通機関、タクシーといった複数の移動手段を組み合わせたうえで、最も効率的な移動方法を提示する新機能を加えた。

また、電車を利用する際、何号車に乗れば乗り換えがしやすいか、といった情報も加えた。アクセシビリティモードでは、駅のエレベーターの位置も提示できる。こうした要望は過去にも数多くあったが、新しいマップでは事細かに対応しやすくなっている。