男性保育士はなぜ増えないのでしょうか。写真はイメージです(写真:tkc-taka/PIXTA)

10月に予定されている消費増税まで半年を切った。増税による税収を財源とする施策はいくつも発表されているが、なかでも注目を集めているのが「幼児教育・保育の無償化」である。未就学児のいる家庭にはうれしい施策であり、未就学児が3人いる筆者の家庭も恩恵を受けることになる。

幼児教育・保育の無償化を受けて、新たに保育園やこども園の利用希望者が増えたり、長時間保育の需要が増えたりするのは間違いないだろう。

しかし、本施策については問題点を指摘する声も少なくない。その指摘の1つが、無償化をする前に待機児童問題を解決すべきというものだ。無償化により保育施設の需要が増加する一方で、保育士の数がさらに不足し、現状以上に待機児童問題が悪化する可能性があるからだ。

保育士不足の解消策の1つに、もっと男性保育士の参加を促すべきとの声も聞くが、実態はそんなに簡単なものではないようだ。本稿では現状を分析するとともに、現役男性保育士への取材内容を基にした保育士不足の解消策にも言及したい。

なぜ保育士は足りないのか?

厚生労働省が4月に発表したデータによれば、2018年10月時点における認可保育施設などに入れない待機児童は4万7198人だった。前年の5万5433人と比較すると8235人減少しており、前年比での減少は4年ぶりとなる。

待機児童問題が社会的問題として世間から注目を集めて以降、政府が保育の受け皿整備に力を入れてきた成果なのかもしれない。しかし、依然として全国には4万7198人もの待機児童がいる、という現実から目をそらしてはいけない。

一方で、2018年4月時点における保育士の登録数は約153万人となっている。このデータだけをみると保育士の数が非常に多く見えるかもしれないが、厚生労働省が発表した『平成29年社会福祉施設等調査』によれば、2017年10月時点での常勤保育士の数は37万9839人だけである。

クラス担任を持たない主幹保育教諭や、指導保育教諭などが含まれている保育教諭の6万5812人(うち保育士資格を持つのは5万9217人)や、小規模保育事業所の従事者である保育従事者の1万6607人を足しても、はるかに登録数には満たない。このように保育士資格を持ちながら、保育士として働かない人たちを「潜在保育士」と呼ぶ。

なぜ資格を持ちながら、保育士として働かない人がこれほどまでに多いのか。潜在保育士が多い原因の1つとして賃金の低さがある。実際に、厚生労働省が発表した『平成30年賃金構造基本統計調査』を見てみると、全産業の月間現金給与額が33万6700円なのに対し、保育士の月間現金給与額は23万9300円と約10万円も低い。

野村総合研究所が昨年発表した推計によれば、条件が合えばすぐにでも保育士として働きたいと思っている潜在保育士は5.6万人おり、実際にこれらの潜在保育士の就労が実現すれば、新たに16.9万人の子どもの保育の受け皿が誕生するというだけに、非常にもったいない現状がある。

しかし、同調査のなかに興味深いデータが存在している。就労意欲の高い潜在保育士に保育士として働くうえで重視することを聞いたところ、全体の64.9%が「金銭的報酬が高いこと」以外の項目を最も重視すると回答したという。

そのように回答した潜在保育士のうち54.2%が「柔軟な働き方」を重視し、36.7%が「職場での人間関係」を挙げたという。この結果に基づけば、ただ保育士の給与を引き上げるだけでは保育士不足は解消されないことがわかる。

男性保育士が直面している現状

保育士不足の背景にはさまざまな原因があり、解消策も多岐にわたる。その1つにもっと男性保育士を活用せよという声がある。確かに、男性保育士の数は非常に少ない。筆者もすでに3園以上の保育園を利用させてもらったが、男性の保育士を見たことはほとんどない。

実際にデータを見てみると、想像以上に男性保育士が少ないことがわかる。男女の人数比較が可能な厚生労働省の『平成30年賃金構造基本統計調査』によれば、女性保育士が21万6220人に対し、男性保育士は1万3400人と、全体のわずか5.8%だ。5年前の9470人(全体の4.12%)から大きく増えていない。

その背景を現役の男性保育士に聞いてみると、彼らが直面しているさまざまな問題が見えてきた。

河西景翔氏は1995年から保育の現場に入り、2002年から保育士として働いているベテランの現役男性保育士だ。「なぜ、男性保育士は数が少ないのか」と聞くと、「そもそも保育園自体がいまだに女性の職場としての作りになっているところが多い」と言う。過去に勤務した保育園では男性保育士用の更衣室はなく、トイレで着替えることもあったという。

男性保育士が少ないことが、男性保育士の参加をさらに困難にさせているとも指摘する。保護者が男性保育士を見慣れていないことから、自分の子どもの担任が男性保育士だとさまざまなクレームが発生するのだという。

河西氏の実体験でも、初めて1歳児クラスの担任になった際、保護者から「担任を代えてほしい」という内容の手紙を園長に渡されたり、「なぜウチの子のオムツを彼が変えているんだ」ということを言われたりした。

また、4月の慣らし保育中には、保護者が入れ替わり立ち替わりで、窓から観察されたこともあるという。女性保育士のクラスではこのようなことはなかったそうだ。残念なことに、日本ではこれまで家庭内でも育児をするのは母親、保育士は女性が当たり前という認識が強かったため、男性が担任になると保護者が違和感を覚えたり、不安になったりすることも理解できる。

保育士同士でもジェンダー・ステレオタイプに縛られた状況を何度も目にしたという。男性だからということで、高いところに上って電球を変えたり、外遊びをしたりするのは男性保育士の仕事であるという空気を作られてしまいがちになるようだ。

このような状態は園児への影響も大きく、園児の間でも「男の子だから、これをするべし」というような考え方が無意識のうちに刷り込まれてしまうという。

モデルケースを早々に作り上げる

ジェンダー・ステレオタイプな発想はよくないというものの、性差によって身体的な力の差があることは事実である。女性保育士の声として、「男性保育士が園内にいてくれたほうが、女性保育士だけでは難しい力仕事や、地震や火事などの緊急事態が起きたときにも頼りにできる」という意見もあった。

保護者からも、男性保育士もいてくれたほうが、バラエティーに富んだ遊びを教えてくれそうという意見もあり、男性保育士にネガティブなイメージを持っていない女性保育士や保護者がいることも事実である。

今後、男性保育士の参加が増えていくにはどうすればよいのかを河西氏に尋ねた。

「子どもを預ける側も、預かる側も安心して過ごせる環境を整えるために、日本でもDBS(Disclosure and Barring Service:イギリスにおける犯罪記録チェックのリクエスト処理)の導入を進めるべきだ。そして、まずは男性保育士の比率が高い保育園をモデルケースとして運営して、男性保育士=職業というイメージを世間に定着させていくべきである」と言う。

また、ある女性保育士は「この数年で育児に参加する父親は増えたと感じているが、それでも依然として育児のほとんどは母親がしていると感じる。家庭内における父親が育児に割く時間がもっと増えてくれば、保護者が男性保育士に感じる不安も軽減されていくのではないか」と答えた。

園児にとって、保育園はもう1つの家庭である。家族にはお父さんもいれば、お母さんもいる。保育園にも男性保育士がいて、お父さんやお兄さんのような役割を果たしていくべきであり、それが実現されることで園児にとってもより豊かな保育園生活を送ることができるという。

保育士不足の解消や潜在保育士の活用を議論する際、数字だけを見て男性保育士の参加を促すという表面的な話をするのではなく、実態を十分に把握したうえで、DBSの導入や男性保育士の比率が高い保育園のモデルケースの推進など具体的な策を議論し、待機児童問題の解消と男性保育士の増加を同時に達成できるような施策が打たれることを期待したい。