大事な人を見極め、好きになってもらうにはどうすればいいか。ハフポスト日本版編集長の竹下隆一郎氏は「まず『最近1万円何に使った?』と質問してみること」だという。どういう意味なのか――。
※写真はイメージです(写真=iStock.com/SIphotography)

※本稿は、竹下隆一郎『内向的な人のためのスタンフォード流 ピンポイント人脈術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

■頭の中がのぞけるキラークエスチョン

好きな人を見極めるには、どうすればいいか。私は「キラークエスチョン」と呼ばれる質問を使っています。決定的なゴールを演出する、サッカーの「キラーパス」と同じような意味で、この質問に答えられるかどうかで「好き」になるかどうかを参考にするのです。

1つ目のキラークエスチョンは「AI(人工知能)であなたの仕事や人生ってどう変わると思いますか」という質問。

私がいるメディア業界にたとえて考えると、人工知能がインタビュー相手の言葉を記録して瞬時に記事にする世界がやってくることは予測できます。人間の記者の仕事がなくなっていく。あるいは、もし金融業界にいる人でしたら、お客さんの対応やローン審査などは機械が速くこなせるはずなので、いまその担当をしている銀行のスタッフはいなくなります。

この質問をすると、相手が、自分の仕事の構造を抽象的に理解し、なおかつ未来予測ができる人かどうかが分かります。そういう人と仕事をしていかないと、時代から取り残されますし、私はそんなふうに未来のことを考えている人が好きなのです。

未来に対する少しばかりの不安感と焦り、そしてその後にやってくるワクワク感。そのとき誰といたいか、誰と一緒に未来を見たいのかどうかがすごくよくわかる質問です。

■1万円の使い道で相手の本質が分かる

もう一つの「キラークエスチョン」は、「最近、1万円を何に使った?」というものです。1万円というのは決して安い額のお金ではありません。食事をすればそれなりのものが出てくるし、本を何冊も買うことができます。

この質問に対して、「夏休みに書店で1万円分の本を買うのが何よりの楽しみだ」と答えた知り合いがいますが、「すてきだな」と思いました。飲み会に行かず、ギャンブルをやらず、旅行もあまりしないタイプなのですが、一生懸命稼いだお金の使い方に「自覚的だな」と感じました。

同じような質問を、仕事で知り合った放送作家の岡伸晃さんにしたことがあります。

岡さんは「寿司」だそうです。1万円よりは多かったのですが、岡さんは毎週のように2万円の高級寿司を食べに行くのが趣味です。給料のほとんどを使っているといいます。自分にはとても真似できないなと思いました。

しかし岡さんは「ボクシングの試合」や「演劇」など他のレジャーと比べてみると、「そんなに非常識な金額ではない」と考えているそうです。熟練の職人の華麗な手仕事の「舞台」を見ることができるお寿司屋さん。しかも食事もついてくる。「寿司はエンターテインメントだ」と岡さんはいつも語っています。

いまの寿司職人は30〜40代の新しい世代が活躍しているため、岡さんと同じ年代の人が包丁1本で、海外のお客さんにも通じる寿司を握っている姿は刺激になるそうです。

魚を切ったり、ネタを出したりするちょっとした姿を見ているのも楽しい。自分が好きなものがハッキリしていて、そこにお金をかけることで深い洞察が生まれていました。

何にお金を使っているか、を聞くと人の本質が見えてくるのです。

■キラークエスチョンを自分にも問いかけてみる

相手の声に応え、好きな人に振り向いてもらうのも大切ですが、逆に自分自身も相手から気になってもらわないといけません。

そんなときは、先ほどの「キラークエスチョン」が役立ちます。それを自分に向けて問いかけてみて、人間的な魅力をあげるのです。今の自分の仕事はAIでどう変わるのか、1万円があったとしたら何に使うのか。

先日、普段読まないような近代アートの高価な本を私も買ってみました。無駄使いにも思えたのですが、瞬間的に読むTwitterと違って、ページをめくりながら何度も思考を重ねていく時間が久しぶりに作れました。

数千円の高級オリーブオイルを買ってみたこともあります。ゆでたブロッコリーに塩といっしょにかけたらとてもおいしくて、オリーブオイルにもこれだけの違いがあることに驚きました。

一見くだらないことですが、こうしたちょっとした「変化」を日常的に起こして、その背景を考え続けていると、仕事の雑談や食事中のトークも魅力的になります。相手から興味を持ってもらえることも増えるし、仕事のアドバイスをくれることもあるかもしれません。そして、できれば好きな相手と一緒に仕事をしてみるのがおすすめです。

■あらゆるツールを使って発信し、届ける

自分を好きになってもらうもう一つのポイントは「発信し続けること」です。

今だと、SNSやnoteで自分の考えを発信する手段はいくらでもあります。日常のふとした気づき、仕事で得たノウハウ、そんなことを文章にしたためて発信を続けてください。発信はテキストベースだけではありません。動画や音声、あるいはイラスト、マンガにしてもいいと思います。

また、週末や休みの日は積極的に趣味のイベントに参加するのもおすすめです。

そこで自分の名前を名乗ったうえで、質問をすると、会場にいる誰かに必ず覚えてもらえます。

私の知り合いの新聞社の先輩は、毎日、自社の新聞を読んで、気に入った記事を書いた人のメールアドレスを社内のイントラネットで検索し、突然連絡をして、お茶に誘い続けたそうです。社内に仲間ができて、自分が好かれるきっかけになったといいます。

■日々の生活にない「違和感」が面白さにつながる

何より効果的なのは自分自身が面白いことをし続けることです。高校時代は面白かった人も、久しぶりの同窓会であった瞬間に「あれ? 面白くないな」と感じることがあります。

人間、どれだけ魅力的な才能を持っていても、面白いことをやり続けないと本能は磨かれず、やがて周囲に飽きられてしまうものです。

だから、とにかく面白いことをやる。

竹下 隆一郎『内向的な人のための スタンフォード流 ピンポイント人脈術』(ハフポストブックス)

私にとって「面白いこと」の定義は、「違和感を生み出すもの」です。

圧倒的喜びでも、怒りでも、不安でも、あるいは言葉を選ばずにいうと「不快感」かもしれません。何か普段と違う、自分の生活の延長線上にないな、と相手に思わせると、「面白い人だな」と感じてもらえます。

先ほどの寿司好きの放送作家、岡さんは、寿司職人3人を新宿の施設に呼び、寿司について話し合うイベントをプライベートで開催しました。

一般的に、イベントといえば、起業家やタレントが登壇するもので、職人が出るのはめずらしい。私も参加しました。寡黙な職人さんたちなので、テレビで見るような丁々発止のやり取りがあったイベントというわけではなかったのですが、包丁を片手に寿司論を語る姿は「違和感=おもしろさ」を感じさせる空間でした。

「違和感」を与えられる人ほど他人の心の中に良い意味での引っかかりを生み出す力があるのです。

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竹下 隆一郎(たけした・りゅういちろう)
ハフポスト日本版編集長
1979年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。2002年朝日新聞社入社。経済部記者や新規事業開発を担う「メディアラボ」を経て、2014〜2015年スタンフォード大学客員研究員。2016年5月から現職。近著は『内向的な人のためのスタンフォード流ピンポイント人脈術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

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(ハフポスト日本版編集長 竹下 隆一郎 写真=iStock.com)