新任上司に「嫌われる勇気」が必須なワケ
■日本の管理職はまじめすぎ
季節柄、この春から管理職になり「さあ私の出番だ」とばかりにやる気満々の人もいれば、まったく経験のない役割に「自分にできるのかな」と不安や恐怖が先行して憂鬱な人もいるでしょう。また、管理職ではなくとも新入社員が入ってきて教育担当を命じられたり、「新人さんにしっかり関わってあげましょう」という職場の雰囲気を感じている人もいるでしょう。
私が関わっている組織コンサルティングの現場では、管理者のみなさんがあまりにもマネジメント業務に“力み”すぎていると感じます。
世代的にはロスジェネ世代の方に多くこの力みを感じます。この世代は、自身が部下の立場の時はトップダウン型のマネジメントを受けてきたものの、いざ管理者になってみると部下はゆとり世代という人たち。とくに共感力の強い女性は、部下の気持ちが理解できすぎて管理者としての立場とのはざまで苦しむというケースも見られます。
例えば一時期話題になった部下とのOne on One(部下と1対1で行うミーティング)に時間をかけるなど、枝葉末節のテクニックを中途半端に取り入れてしまった結果、余計なところに余計な力を使い、自身が疲弊しすぎている。要は、“肩に力が入りすぎ”なのです。
これらのコメントは我々が実際にトレーニングの現場で対峙した女性経営者・管理者の方々が話してくれた心情でした。
このような事態をなんとか打開できないだろうか。そういうスタンスでこの連載を書いていきたいと思っています。まじめなみなさんには“たかがマネジメント”という開き直りがあるくらいでちょうどよいのです。もっと肩の力を抜いていきましょう。
■「されてうれしかったマネジメント」は正しいか?
経験のない業務に挑む際、参考にするのは先人であって、先輩や上司、ということが大いにあるでしょう。参考にするといっても、反面教師として「あんな風なマネジメントはしないぞ」ということもあるでしょうし、良い面を取り入れ「自分はこうされて嬉しかった」ということもあるでしょう。
そんな中、よく耳にするのが「寄り添うマネジメント」です。例えば以下のようなマネジャーは本当に多くいます。
自分がしてもらって嬉しかったマネジメントを展開しているわけなので、圧倒的に是だろうと思う人も多いでしょうが、業務遂行上(つまり成果を追及する上で)必要な知識がある程度備わっている部下たちを相手にする場合、このマネジメントは誤りなんです。
■「寄り添うマネジメント」はなぜダメなのか
なぜ“誤り”かというと、あなた自身、あなたの上司、部下、顧客、とりまくすべてが”損“をするマネジメントだからです。
部下の意識から見ていくと、寄り添われている状態は、常に一挙手一投足を上司が見てくれて、話を聞いてくれて、困ったらフォローしてくれる、ということなので、「何かをしてもらったから仕事をする」という状態になります。この状態は、「給与を先にください、そしたらやります」とか「モチベーションあげてください、そしたら頑張ります」という意識構造と本質的には同じです。よって、寄り添って動かす、という管理を常態化させると「寄り添われないとやらない」となり、さらに悪化すると「やりたくないので寄り添われていないことにする」という意識にまで到達します。
本来、成果と報酬の関係は、成果が先に生み出されて報酬が発生するという順序であり、成果以上の報酬は支払われないわけですから、何かを与えてもらってはじめて動くという思考を助長するマネジメントは、部下が糧を得るための「成果を生み出す力」を養成できないことになります。転じて成長機会を奪うことにつながります。
■管理者が精神的にもたなくなる
また、部下の人数が1名であればまだ与え続けて動かすことが可能かもしれませんが、人数が増えてきたら対応不可能になります。しかも、どんな寄り添い方をすれば動くかは千差万別なので、部下それぞれの価値観を読み解きながら個別対応することになる。これは管理者の時間的・労力的コストが際限なく必要になるし、精神的にもちません。
次に顧客の側からみてみます。与えられないと動かない部下たちの活動量は総じて少なくなります。そうすると、対峙している市場=顧客の中で、みなさんの会社が提供している商品やサービスを待っている人たちにはリーチしきれない。みなさんのマネジメントによって停滞した部下たちのせいで、本来、届けるべき顧客に価値提供がなされないということが起きるのです。
■「部下に嫌われたくない」は捨てよう
寄り添うマネジメントを展開している背景に、もし「部下に嫌われたくない」「いい人でいたい」という心理があるとするなら、みなさんが“配慮”すべき方向をまったくの逆方向に向けてほしいと思います。なぜなら、みなさん自身の評価者は部下ではないからです。部下の感情に好きか嫌いか、という評価は確実に存在するし、それをまったく意識しないということは非常に困難だと思います。
しかし、仕事においては、“あなた個人として”の評価を獲得する必要はないのです。少なくとも部下からは。みなさんは評価者たる上司が設定する成果に意識を向け“配慮”すればよいのです。あえて嫌われろ、ということではありません。みなさん自身の評価はあくまでチームパフォーマンスをあげることです。そして成果があがる、ということは顧客に価値を提供できていること、部下が成長していることの結果なのです。みなさんのポジションが何のために存在しているかの原点に立ち返りましょう。
「こういうことを言ったら相手はどう思うかな?」とか、「どういう風に伝えたら、ちゃんとやる気を出して動いてくれるかな?」と気遣いに気遣いを重ねて展開している“寄り添い”が、とりまく関係者全員にとって“損”だと知ったらもう続ける理由はないですよね。
■管理職として「真の優しさ」とは何か
立場の違いや責任の大きさから、管理者と部下ではどうしても視点が異なってきます。みなさんが半年先、1年先の未来を見て意思決定している方針やルール、指示のそれぞれは、今現在を見て良し悪しを判断している部下にとっては理解できないこともあるでしょう。このギャップを埋めるべくして行っていた「寄り添い」から勇気をもって脱却したことで、組織として成果をあげられるようになったという声をたくさん聞いています。
「管理者である私がするべきことは、組織として目標を達成すること」「管理者である私がするべきことは、部下が目標達成して成長すること」。この本来のミッションに忠実であることが、実は真の優しさなのではないでしょうか。
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識学社長。1979年大阪府生まれ。2002年早稲田大学人間科学部卒業後、NTTドコモ入社、06年ジェイコムホールディングス(現ライク)に入社し、子会社で取締役営業副本部長を務める。13年「識学」と出会い、独立。15年識学を設立し、社長に就任。19年マザーズに上場。
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(識学 代表取締役社長 安藤 広大 写真=iStock.com)