購買部門は何を期待されているのか/野町 直弘
「購買部門は(マネジメントや要求元から)何を期待されていますか?」という質問を企業の購買部長にしますと、それに対して「明確なものがない」という答えが返ってくることがあります。
同じ質問に対して多くのバイヤーは「QCDの確保」と答えるでしょうが、品質や納期は購買だけが見ているものではなく、開発、品証、品管、生産管理、製造などの部門も見ています。
そうすると購買に対してはコスト削減の期待が大きい、とも言えます。しかしコスト削減に関して明確な目標がない企業も少なくありません。
このように企業として購買部門のミッションが明確でない場合その購買部はどうすればよいのでしょう。私はミッションというものは天から降ってくるものではないと考えます。ミッションは自ら熟考し、自ら定義するものです。
もちろん経営や要求元、社内外のステイクホルダーから求められるものはあるでしょう。しかし単にそれに答えるだけでなくストレッチしたミッションを自ら設定し、それを目標にして実行していくことが求められているのです。
ストレッチしたミッションには2つの方向があります。1つは目標のタテの深耕です。例えば2%のコスト削減目標に対して1%ストレッチして3%のコスト削減目標を設定する、というやり方です。
もう一つの方向はヨコの広がりです。これは今までにない新たなミッションに挑戦することです。例えば今までは要求元の持つ予算に基づき外部支出を行う、のに対し、決まったものを如何に安く購買するか、という取組みだったものを予算策定段階まで関与し、そもそもこの予算(支出)が必要なものなのか、という視点で予算の精査にまで範囲を広げるようなやり方です。
従来は「タテ」のストレッチは一般的でしたが、「ヨコ」のストレッチは新しいミッションを実現するための仕組み作りが必要になるため、あまり行われていなかったと言えます。
「タテ」のストレッチは多くの場合コスト削減の額もしくは率のストレッチが多いでしょう。しかしコスト削減目標のストレッチには限界があります。よくあるのが、期中で売上が低迷し、収益が苦しくなったから、追加でこれだけコスト削減をやってくれ、と天の声がかかるケースです。この場合目標だけ追加で降りてきます。これもお願いベースで実現できない訳ではありません。
しかし、何度もやっているとすぐに限界がきます。極めて当り前でしょう。打ち手がないからです。以前から何度も言っていますが、コスト削減は「安くする」「安いところから買う」「安いものを買う」「無駄な買い物をしない」の4つの手法に集約されます。期中に収益が苦しくなったのでコスト削減しなさい、といケースではこの4つの手法のうち「(交渉して)安くする」手法しかありません。
何故なら、もう既に仕様も固まり購入先も決まっていることが多いからです。継続品の購買であれば長く生産することで生産性が向上することもありますが、「(VEや標準化などで)安いものを買う」とか「(競い合わせて)安いところから買う」をやらないと限界はすぐに来ます。
「気合と根性」だけでコストが下がり続けることはないのです。理由がなければコストは下がりません。科学的なアプローチが絶対に必要となります。
このように「タテ」のストレッチで継続的にマネジメントや要求元の期待を超える活動を続けるのは難しく、それが実現できないと「あの部署の存在価値が見えない」みたいな話になってしまうのです。
こういうことからも今後ヨコ方向のストレッチが欠かせなくなります。新しい役割を果たしミッションを継続的に広げていくのです。「明確な期待が見えない」と嘆くだけではなく、自らミッションを定義しヨコのストレッチをしていくことが求められるのではないでしょうか。