柄本弾 撮影/高梨俊浩

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「わぁっ」

【写真】レッスン中に宙を舞う柄本弾

 黒いレオタード姿で瞳を輝かせる小学生の女の子の声が漏れる。視線の先には、“ギリシャ彫刻のような”と評される肉体を持つバレエ界の若きスター、柄本弾(29)が。

 3月15日から17日まで東京文化会館で行われる東京バレエ団『海賊』で男性の主人公コンラッドを演じる。

「この作品は、男のバレエと言われるくらい男性の登場人物が多いんです。テクニックが難しかったり、体力が必要だったり、役によってつらさはそれぞれですが、“しんどい”と思う瞬間がある。そんなとき共演者である仲間の存在が大きいですね。仲間がいるから頑張れる」

『海賊』は、18世紀から19世紀に活躍した詩人バイロンの長編物語詩をもとに創作された華やかなバレエ作品。バザール(市場)を訪れた海賊のコンラッドは、競りにかけられた奴隷の少女メドーラと恋に落ちる。

 だが、彼女は一帯を統治するパーシャに買われてしまう。ふたりはいったいどうなるのかを描いた作品は、とにかく男性の見せ場が多い。特にコンラッドを演じる柄本は出ずっぱり。男性美あふれる力強い踊りに、ヒロインの女性を高々と持ち上げてリフトし、甘い微笑みを浮かべる姿に、ときめかない人はいないはず。

「もちろん映像でも見ることができますが、バレエは生のもの。セリフがないからこそ、内から表現しようとする濃いものが出てくると思います。だからこそ、キャストが違えば個性がまったく違う役柄になる。

 特に、今回の『海賊』という作品は、それぞれの男性ダンサーのよさを引き出そうと、少し振りを変えていたりするので、見どころが違ってくると思います。基本的にダンサーって負けず嫌いなので、ここは絶対に負けない! というものがありますから」

誰にも負けない魅力とは……

 柄本の“ここは負けない”というところを聞くと、

「演技や女性をサポートすること。そして、主役としての存在感は負けたくないですね。コンラッドの心境をド・ストレートに伝える部分や、女性をキレイにサポートするところは、やっぱり負けたくない」

 バレエを始めたのは5歳のとき。教室に通っていた兄と姉の影響だった。

「自分からやりたいと言ったみたいですけど、バレエを習いたいというより、兄や姉と同じことがしたかったんだと思います」

 そのままどっぷりとバレエの道へ―とはならず、184センチの長身を生かし、水泳や少年野球、バレーボールにバスケットとさまざまなスポーツを経験。その間も、週に1、2回のレッスンを続けていた。

 転機は、高校1年生の冬。同年代のバレエ男子と踊る機会があったのだが、周りはコンクールに入賞しているような子ばかりだった。「みんな、こんなにうまいのか」と衝撃を受け、そこからはバレエ一色に。

「お客さまから拍手をいただいたときのうれしい気持ち、それが、バレエに本気になった大きな理由です。今も拍手が頑張れる糧になっています」

 高校卒業と同時に18歳で日本を代表するバレエカンパニー『東京バレエ団』に入団。当時は叶わないだろうと思いながらも心に決めた“5年でソリスト(準主役のポジション)、7年でプリンシパル(主役)”の目標を前倒しで実現。なんと23歳でバレエ団の顔、プリンシパルとなった。

柄本が考える「いい舞台」

「今でもそうなんですが、僕はとにかく負けず嫌い。誰よりも先にいい役がもらいたかった。でも、当時も今も自信なんて、ないですよ(笑)」

 そう笑顔で語る裏では、

「レッスンを休まないほうがコンディションがいい。それに、自分が見ていないところで、誰かがコツをつかむかもしれないと思うと休んでいられない。体調が悪くてもレッスンに行き、できることはやる」

 と語るひたむきな努力と、その努力だけでは到達できない圧倒的な華を柄本は持っている。

「2度目の主役をさせていただいたとき、大先輩から“背中で周りを引っ張れ”と言われたことがありました。今になってようやくその意味がわかり始めてきた気がしています。

 先頭に立つ自分が舞台の道筋をつくり、周りのダンサーに示していく。いい舞台は、真ん中に立つ人だけの出来でも、周りで支えてくれるダンサーの力だけでもない。全員が同じ方向を向いて創り上げることができたからだと思っています」

 最近のご褒美は、

「ぼたもち。お店の前を通ると、今日は買って帰ろうかなって」

 と笑顔。

 ついさっき『海賊』のリハーサルで見せてくれた感涙レベルの圧倒的な肉体のパワーと美しさとは対照的な人懐っこい表情に、今後、さらに多くのファンを魅力していく予感がする。

<プロフィール>
つかもと・だん◎東京バレエ団プリンシパル。1989年、京都府生まれ。’10年1月の『ラ・シルフィード』で主役に選ばれ、同年の4月『ザ・カブキ』の主役にも抜擢。’15年には世界的振付家、故モーリス・ベジャールの名作『ボレロ』の主役を務める。現在、『ボレロ』を踊ることが許可されている、ただひとりの日本人男性ダンサー。

<出演情報>
●プティパ生誕200年記念『海賊』プロローグ付き全3幕[東京バレエ団初演]
3月15日〜17日 東京文化会館にて
公式サイト https://www.nbs.or.jp/stages/2019/lecorsaire/
●ブルメイステル版『白鳥の湖』全4幕
4月27日〜29日 東京文化会館にて
公式サイト https://www.nbs.or.jp/stages/2019/swan/

◆4月28日 柄本弾トークイベント開催決定!!
詳細は『上野の森バレエホリデイ』
公式サイト https://balletholiday.com/