野町 直弘 / 株式会社クニエ

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先日私が懇意にしている情熱系バイヤーのZhenさんが発行している人気メルマガ「グローバル調達とものづくりのリアル」で「パワー購買の末路」というテーマで「いっぱい買うから安くしろ!」的なパワー購買が通用しなくなったと書かれました。

そう「パワー購買」という言葉は言い得て妙だったので今年を締め括り来年以降の調達購買トレンドを予測する意味からも「新しいパワーゲームの始まり」について今回は取り上げます。
「新しいパワーゲーム」とは何かというと「パワー購買」に対抗する「サプライヤの反乱」です。

調達購買部門にとってコスト削減は至上の命題になります。
コスト削減しなくてよい調達購買部門というのを私は聞いたことがありません。

一方で「とにかくコスト下げてください」的な「パワー購買」は現在かなり危険な状況に陥っています。サプライヤは今までかなり無理をして限界利益スレスレになるまでバイヤー企業
の要請を聞いてきました。中には限界利益割れであっても「トータルで収益が出ているからいいや」と無理な受注をしている案件も少なくありません。しかし今はある一定ラインを超えた値引交渉を行うと「もういいです。」と受注辞退につながります。

危険な状況であることの理由の一つは多くのこのような事態がある日突然来ることです。多くのサプライヤは供給力不足であるこの機会に値上げをしようと目論見ます。しかし、はっきりした理由もなく値上げすることを認めるバイヤー企業はありません。

そうするとサプライヤはなるべく収益の悪いと思われる案件をそもそも受注しないように「選択受注」に向います。選択受注は多くの場合ある日突然起きるのです。またそれはサプライヤによる「新しいパワーゲームの始まり」と言えます。

日々サプライヤの営業マンはバイヤー企業の担当者には収益が厳しい、値上げして欲しい、需給がひっ迫しておりモノが回せない、とかプレッシャーをかけているでしょう。
しかしそれが調達購買部門のマネジメント層まで伝わっているかというと必ずしも伝わっていないようです。
何故ならトップ同士で話をしても表面的な話しかしていないことが多いからです。

しかしサプライヤの営業担当に対する収益改善の社内的なプレッシャーは徐々に強くなっています。そして突然、受注辞退につながるのです。しかしバイヤー企業の調達購買マネジメントにとっては寝耳に水でしょう。このようなことが日々起きつつあるのです。

新しいパワーゲームがどこから始まるかと言うと、従来パワー購買をやってきた企業から始まります。そういう企業が真っ先にサプライヤから受注辞退されるのです。何故ならサプライヤの営業は社内から値上げをしろと毎日プレッシャーを受けており、それに対する説明責任を負っているからです。
理屈が通らない安値や市場メカニズムに合わない無理なコストカットをしているパワー購買企業に対してはサプライヤの社内的にも容認されにくくなります。そして真っ先に選択受注や受注辞退のターゲットになってしまうのです。

それでは値上げを受け入れサプライヤが言う適正価格で買えばよいのではないかということですが、ここで一つ疑問が生じるでしょう。そもそも適正価格って何なのか、と。またコスト削減活動って何なのか、と。その意味を今一度考えてみましょう。

まずは適正価格です。
適正価格って何でしょうか。精緻に原価計算ができたとします。
しかし、限界利益が出ていればよい、というコストレベルと固定費も含めて利益が出ているレベルでは同じものを買うにしても価格は大きく異なります。またもし精緻な原価計算で妥当なコストを計算できたとしても、これでは掛かったコスト以下までコスト削減を進めることは難しくなります。

それではベンチマーク価格とか業界最安値という考え方はどうでしょうか。こんなものはマーケットメカニズムの結果なので全てのサプライヤにとって妥当なコストもちろん言えません。

企業にとってベンチマーク価格を目指すような活動とは無駄なでしょうか。つまり企業はコスト削減をしなくてよいのでしょうか。そんなことはありません。日本企業の強みの一つは作り込みによるコスト削減能力です。日々コスト削減活動を推進することで今のコスト競争力が実現できています。

ですからコスト削減はしなければならない。これはバイヤー企業にとってということでなく全ての企業や日本の社会全体でも同じことが言えます。これを忘れてはいけません。

一方で、パワー購買で実現した、バイヤー企業の独り勝ちコスト削減は限界がありますしもうそういう交渉自体成り立ちません。そのため各企業は開発購買や仕様変更、標準化を進めようとするのです。

最後に私が尊敬するコンサルタントが以前おっしゃった言葉を皆さんにご紹介します。

「コスト低減は誰のためにやっているのでしょうか?
何を隠そう取引先のためにやっているんです。結果的にはもちろん自社のためにもなりますが、コストを下げるということは相手の会社の幸せのためにやっているのです。どうすれば継続的に原価低減が出来るのか。悩みながらも取り組んだ活動により、原価低減が出来る体質が構築されれば、取引先はどんな状況でも利益が出せる企業になれるのです。それにも関わらず、取引先のコストダウンは習慣になっていません。言われてからコストを下げるのではなく、下げる知恵がないのなら我々が教え、一緒に悩みどんな状況でも勝ち残れる体質をつくっていかなければいけません。」

「取引先は我々に対して何を求めているのでしょうか?
仕事の継続受注?利益貢献?これは表面的なものではないでしょうか。本質的には1.当社が勝ち組として君臨して欲しい2.自分たちの体質強化に当社のノウハウを教えて欲しい。取引先の経営者はそう熱望しているはずです。」

それでは良い年をお迎えください。
来年もよろしくお願い申し上げます。