香りをエンターテインメント化して成功。

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一流企業のエース社員は、どうやって資料を作っているのか。今回、5つの企業にプレゼンテーションのスライド資料を提供してもらい、その作り方の極意を聞いた。第1回はソニー・藤田修二氏のケースについて――。(第1回、全5回)

※本稿は、「プレジデント」(2018年7月30日号)の特集「できる人の資料術」の掲載記事を再編集したものです。

ソニーの「持ち運べるカートリッジ式の香り」を開発

ソニーが2014年4月に開始したスタートアップの創出と事業化を支援する「Seed Acceleration Program(SAP)」。グループ社員なら誰でも挑戦でき、これまで13回のオーディションを開催。応募案件数は約700件のなかから、13の新規事業が生まれた。

その1つが「AROMASTIC(アロマスティック)」。香りをいつでもどこでも楽しむための、持ち運べるカートリッジ式のパーソナルアロマディフューザー(拡散)スティックだ。「香りのウォークマン」といえばイメージしやすいだろう。

このアロマスティックの考案者が藤田修二さんで、もともと厚木テクノロジーセンターでバイオ電池の開発など基礎研究に従事していた研究者。社内留学制度で1年間、米ハーバード大学で学び、帰国した翌年の15年、SAPに手を挙げた。

「人間が感動を知覚する五感のうち、ソニーは視覚と聴覚について長く取り組んできましたが、嗅覚は未開拓でした。嗅覚は感情や本能に直接結びついている唯一の感覚器官です。心地よさや安心感は香りからくる部分が大きい。そこで、香りでワクワクできるプロダクトがつくれるはずだと考え始めました」

そして「香りのエンターテインメント」という斬新なアイデアが評価され、事業化にこぎつけた。16年10月に発売されたアロマスティックは好調に推移、「特にこの数カ月は毎月売り上げが伸びています」という。

研究畑出身の藤田さんだが、いまはプロジェクトのトップとして営業の最前線にいて、プレゼンテーションは藤田さんの重要な仕事だ。今回はアロマスティックを気軽に使える専用キャリングケースの発売(18年6月6日)に合わせ、男性向けの商談用プレゼン資料を見せてもらった。

■700分13の狭き門をクリアしたハーバード仕込みのプレゼン

実は、藤田さんが参考にしているのは、留学先のハーバード大学の著名な化学者であるジョージ・ホワイトサイズ教授から伝授されたプレゼン術。1枚目のシートで、プレゼン内容を4つに分けての全体像を示す。さらに資料の一番上には結論を記すのも重要なポイントだそうだ。

「基本は手短にタイトに伝えること。人は長々とした話は最後まで聞こうとはしません。結論を最初に述べて、簡潔に説明する。スピード感が大切なことは万国共通です」(藤田さん)

プレゼンはたとえば、(1)「課題」、(2)「アプローチ」、(3)サプライズ、(4)次の一手――などの4つで構成。「文章の起承転結のようなものです」と藤田さん。最初にプレゼンの相手を話に引き込み(起)、主題を展開し(承)、視点を変えて興味を引き(転)、全体をまとめる(結)というわけだ。次に2枚目から具体的な内容に入る。

まず(1)の「課題」でも、最初に「結論」である「健康経営」を述べる。そして具体的な悩み、社会問題として3つのポイントを取りあげる。ここも大切で、「事例は多すぎても少なすぎても頭に入りづらく、3つがちょうどいいのです」と藤田さん。

次に(2)の「アプローチ」。(1)の課題に対して、嗅覚を刺激することで人間の本能を解放してリラックスさせられることを解説する。嗅覚の説明は難解なので、イラストを用いてイメージしやすくしている。

そして、(3)の「サプライズ」。香りというと、女性の専売特許という印象が強いが、アロマスティックの購入者は男性が女性を上回っている。その驚きの事実を円グラフで一目瞭然に表した。(4)「次の一手」では、男性がキャリングケースをどんなシーンで使うのかをイメージできるように写真を使った。「大切なのは、具体的にイメージできることです」と藤田さんはいう。

シンプルだがワクワク感溢れるパワーポイントの資料。学ぶべき点が多々ある。

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藤田修二
Startup Acceleration部門 Startup Acceleration部 OE事業室プロダクトマネジャー。1980年、東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科修了。2009年に入社。パワポは独学で、利用歴15年。
 

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(ジャーナリスト 田之上 信 写真=Getty Images、iStock.com 撮影=加々美義人)